小麦粉、塩、水で作られた麺は一度ゆでておき、注文が入ったら温めて提供する。そのため、やわらかな食感を持つ
昆布、カツオだけではなく、イリコ、サバ節なども出汁作りに使う。薄口醤油で味付けしたつゆはさっぱりしているが風味豊か
薄切りをかき揚げにしたもの、ささがきをかき揚げにしたもの、薄切りを一枚ずつ揚げたものなどがあり、博多のうどんに欠かせない
入口にあるのは『うどん』と書かれた大きな提灯と『みやけ』と書かれた暖簾、さらに木の看板。木の格子戸を開けて中に入ると二代目の店主・三宅雄次郎さんが迎えてくださった。
「うちはまだそんなに古くないんですよ。昭和29年創業ですから(笑)」。
そうお話してくださる三宅さんだが、味わい深い建物は大正時代に建てられたもの。軸が床に固定されたイスも木のカウンターも年季が入っている。
カウンター席の内側の厨房にある大きな釜も『みやけうどん』の歴史を感じさせるものだ。釜にはとっくりが浮かんでいる。
「昔は夫婦釜と言ったりしてね、釜を2つ使っていたこともあるんですよ。今はガスだけど、昔は無煙炭でやっていました。ガスは熱気が上にいくんですが、無煙炭は釜のまわりじゅうが熱くなってましたね。湯気もより熱かったような気がします。釜の中のとっくりにはつゆが入っています。つゆは昆布、カツオ節、その他の魚の削り節などでとった出汁に大分県日田の薄口醤油を加えてつくります。詳しくは秘密ですが(笑)。つゆを釜で湯せんしているわけですが、とっくりは口が細くなっているので水分が蒸発しにくくつゆの味が変わらないからいいんですよ」。
注文が入ると、丼に湯を入れて温め、箱の中に並ぶ麺が釜に投入される。麺は他ではあまり目にすることのない極太麺だ。
「製麺所にお願いして作ってもらう特注の太麺です。店を始めた親父がうどん好きで、太麺が好きだったんですよ。昔はもっと太くて小指くらいあったんです(笑)。麺は製麺所で一度ゆでたものです。生麺からゆではじめたら、ゆであがるのに15~20分くらいかかります。博多の人は待つことは得意ではないでしょう?(笑)。一度ゆでていますから、お客さんに出す時に温め直すという感じですね」。
麺が温まったら、丼の湯を捨てる。麺を軽く湯切りして丼に入れ、とっくりからつゆを注ぐ。
最後に『ごぼう天』をのせれば『ごぼう天うどん』の完成だ。
「うちで使っている『ごぼう天』は薄くスライスしたごぼうが入ったものです。ごぼうと衣が一体化したかき揚げ風ですね」。
テーブルに置かれているネギをのせ、一味唐辛子をふりかけて食べる。太い麺はもちもちとやわらかい。ごぼう天は初めはサックリ、徐々に上品な味わいのつゆが染みてとろとろになっていく。
「先代からずっと変わらない作り方、味を守っています。うちの麺は太くてだご汁のだごに近いかもしれません。やわらかくてのどにつかえにくいので、お年寄りでも食べやすいですね。うちのうどんだけではなくて、博多のうどんはいろんな世代の方に食べていただけるやさしさがあります。昼食、夕食だけではなく、間食として利用する方も多いですね」。
『かけうどん』は300円。『ごぼう天』や『丸天』などのトッピングはどれも80円、いなり寿司は1コ50円という安さにも驚く。
「なかなか値上げはしきらんですね(することができないですね)(笑)」。
低価格なのも『みやけうどん』のやさしさなのかもしれない。
さて、釜の一部には火山から流れた溶岩がかたまったように見える部分がある。これはどうやってできたのだろうか?
「そこは、とっくりをかたむけてつゆを注ぐところなんです。いつも同じ場所なのでつゆが少しずつこぼれて、それがだんだんと固まったんですよ。厚くなったおかげでこの部分は熱くないので便利ですね。ただ、土台と釜がくっついてしまうと釜を交換するのがとても大変になるかもしれませんが(笑)」。
『みやけうどん』のメニューはうどんとそばのみ。しかもざるうどんなど冷たいメニューはなく、熱いものだけだ。
「もし丼ものとかを、やろうとしたら厨房を作り変えないといけなくなりますが、そんなことしたら建物が壊れるかもしれません(笑)。だからうどんとそばだけです。熱いうどんしかないけど、夏の熱いうどんもいいですよ。夏でも熱いのを食べにくる方は多いですし、クーラーで身体が冷え過ぎた人には、身体を温めるのにばっちりです(笑)」。
親子2代、3代のお客さんも訪れるという『みやけうどん』。ずっと変わらない博多の味を伝えている。
特注の極太麺。製麺所で一度ゆでたものを仕入れ、注文があると温め直す。もっちりとしてやわらかな食感を持つ
昆布、カツオ節などのベースに大分県日田の薄口醤油を加えて作ったもの。とっくりに入れ、釜の中で温めておく
薄くスライスしたごぼうが入ったごぼう天は、ごぼうと衣が一体化したかき揚げ風。初めはサックリ、つゆがしみるとトロトロになる
昭和29年創業、親子2代にわたって変わらない味を伝えている。入口、看板、大正時代に建てられた建物、木のカウンターなど、どれも味わい深い。特注の極太麺はもっちりやわらか。昆布、カツオ節をベースにした上品なつゆがよくからむ。かけうどんは300円、薄くスライスしたごぼうを使ったごぼう天や、丸天、えび天などトッピングはどれも80円という安さも魅力だ。