中華料理は鶏ガラスープが基本だが、『ちゃんぽん』には、鶏ガラと豚骨から作ったスープを使う
キャベツ、モヤシなどの野菜に豚肉と魚介類が入る。夏場はアサリ、冬場はカキを入れる店が多い。タマネギは好みが分かれる具材だ
具材を炒め、スープを入れ、味付けをしてから麺を入れる。一煮立ちさせることで具材の旨味がスープに移り、麺もそのスープを吸う
創業は明治32年(1899年)。ちゃんぽん・皿うどん発祥の店として全国的にもよく知られる中華料理の店が『中華料理 四海楼』だ。
福建省で生まれ、長崎に渡ってお店を始めた初代・陳平順氏。長崎に来ていた華僑や中国人留学生のため、美味しくて栄養もボリュームもあり、安価なメニューとして、『ちゃんぽん』を考案した。
四代目で『四海楼』代表の陳優継さんにお話をうかがった。陳さんは『四海楼』が110周年を迎えた2009年、『ちゃんぽんと長崎華僑』という本も書かれている。
「『ちゃんぽん』は、当初は『支那饂飩(しなうどん)』という名前だったのですが、しばらくすると『ちゃんぽん』と呼ばれるようになりました。その理由は諸説あるのですが、華僑や中国からの留学生たちが日常の挨拶に使っていた『セッポン?』に由来しているというのが一番有力です。『セッポン』とは福建語で“ごはんを食べる”という意味、『セッポン?』とは“ごはんを食べたか?”という親しい人同士の挨拶だったんです。華僑や留学生たちの間で交わされていた『セッポン』という言葉が長崎の人たちには『ちゃんぽん』と聞こえ、やがて『ちゃんぽん』=『支那饂飩』となったのだと言われています」。
『ちゃんぽん』の原型は、福建料理のあっさりしたスープを使う麺料理『湯肉絲麺(トンニィシィメン)』。そこからどのようにして『ちゃんぽん』は生まれたのだろうか?
「『湯肉絲麺』は、肉の細切り炒め入り湯麺みたいなものです。それをベースにして、長崎にある食材で作り上げていったわけです。ポジティブシンキングと言いますか、ないものを手に入れようとするのではなく、あるものを最大限に活用して生まれたものですね。『湯肉絲麺』に使うのは鶏ガラで作ったスープですが、『ちゃんぽん』には豚骨も加わります。それも、鶏が足りずに豚骨を使うようになったのかもしれません。結果として、パンチの効いたスープができあがったわけですね。『ちゃんぽん』はマーケティングなどから商品開発して作ったものではありません。『ちゃんぽん』は中国にはない、長崎で生まれた味です。中華的な技法と、長崎の食材から生まれた中華料理、『長崎中華』なのです。地元の食材と風土に根ざしていますから、間違いなく長崎の郷土料理だと思います。現在あるもので何ができるのか、自分が持っている中華のスキルをどうアレンジすればいいのかという、開発者が必要に迫られての着想だったとも思います。そして、私たちを含めて料理人が努力したこともあるかもしれませんが、定着したのは地元の方たちが愛してくれたから。お母さんたちも作っていますからね。それで100年以上の歴史を持つことができたのでしょう。長崎では、お店でも家庭でも様々な『ちゃんぽん』が作られていますが、私たちは初代の作った味を守り続けています」。
厨房で実際に作るところを見せていただきながら、さらに話は進む。
一度に5杯作れる中華鍋にラードを熱し、ネギ、豚肉、イカ、エビ、キクラゲ、はんぺん(カマボコ)を炒め、その後でモヤシとキャベツを炒め、スープを加える。
「モヤシは中国では5000年も前から食べられていましたが、江戸時代の日本では、まだ普及していませんでした。長崎で『ちゃんぽん』をはじめとしたモヤシを使う料理が作られるようになったことで、長崎から日本中に広がっていったようですね。ちゃんぽんに使われる『はんぺん』とは、長崎ではカマボコのことです。赤色や緑色一色のもありますが、うちでは紅白のを使っています。初代は、白身魚のすり身を筒状にして、周囲に麦藁をつけて蒸した、表面が波形模様の『すぼ巻きかまぼこ』を使っていたとのことです。スープの詳しい作り方は秘密ですが、鶏ガラ豚骨スープです。『ちゃんぽん』から生まれた豚骨スープが広まって、九州ラーメンは豚骨味のスープが主流なのかもしれません。久留米ラーメンの老舗の創始者が長崎出身だという話を聞いたこともあります。もし九州のラーメンスープのルーツが『ちゃんぽん』に関係しているならば、とてもうれしいことですね」。
スープが煮立ったら、麺を入れて少し炊き、薄口醤油と濃口醤油で味付けする。
「麺は小麦粉、水、唐灰汁(とうあく)をこねて製麺したものです。製麺所にお願いして、小麦粉や唐灰汁の配合など、うちのレシピで作っていただいています。味付けは、薄口醤油で味を決めてから、濃口醤油で調整するという感じですね。古い料理ほど基本の調味料だけで作っていますよね。少し炊いたらできあがりです。ラーメンは丼の中で完成しますが、『ちゃんぽん』は中華鍋の中で完成する料理なんです」。
丼に盛られ、錦糸たまごが上にのせられる。
「美味しく作るためには、強火で素早く料理することが大切ですね。錦糸卵は、1973年に現在の場所に移転してから、彩りを添えようと、のせるようになりました」。
豊富な具材の旨味や、味わい深いスープに幸せを感じ、麺の量にお腹が満たされる。
「私たちが作っているのは、ファーストフードではなくて食事です。『ちゃんぽん』一食で食事が完了するのです。『ちゃんぽん』は、かつて生活が楽ではなかった留学生たちの経済事情の範囲内で食べることができるよう、安くておいしくて、栄養もあって、お腹がいっぱいになる料理を目指して、初代が試行錯誤の上に作り上げたものだからです。麺が太麺なのも、腹持ちが良いようにという意味があるのです。人は食べることによって生きる意欲や勇気が湧いてきます。衣食住の中で、食が一番大事であるというのが初代の考えだったんです。食が満たされれば心は折れませんからね。そして、初代の理念の中に『恩送り』というものがあります。『恩返し』ではなく、受けた善意を他人へ送るというものです。初代も単身中国から長崎に渡り、多くの方々から恩を受けました。その恩を当時苦労していた華僑や留学生たちに送っていたのです(彼らの身元引受人になることもありました)。それらが一つの食としての形になったのが『ちゃんぽん』なんですね。時代は変わっても、私たちは食を通して多くの方に幸せになっていただきたいと思っています」。
鶏ガラと豚骨をじっくり炊いた鶏ガラ豚骨スープ。『ちゃんぽん』と皿うどんにのみ使われるスープだ
キャベツ、モヤシ、ネギ、豚肉、イカ、エビ、キクラゲ、はんぺん(カマボコ)。最後に錦糸玉子ものせられる
鍋にラードを熱し、具材を炒め、スープを加える。スープが煮立ったら、麺を入れて少し炊き、薄口醤油と濃口醤油で味付けする
『ちゃんぽん』と皿うどん発祥の店。大浦天主堂とグラバー園の入口という場所だけに、多くの観光客でもにぎわっている。平成12年の創業100周年を機に、モダンかつ中国的な店舗を新築。眺めのいい5階展望レストランで、『ちゃんぽん』や『皿うどん』をはじめ、中華料理と長崎の風土が出合って生まれた“長崎中華”の味を楽しみたい。
住所 | 長崎市松が枝町4-5 |
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電話 | 095-822-1296 |
営業 | 11:30〜15:00/17:00〜21:00(OS20:00) |
休み | 不定 |
席 | 355席 |
カード | 可 |
駐車場 | なし |
URL | http://www.shikairou.com |