仕入れてすぐにたっぷり塩をして、しばらくねかせる。その後、水で塩を落としてから焼き始めるが、新たに塩をふる場合もある。
中まで火を通しつつ、表面がパリッと香ばしくなるように焼き上げる。遠火の強火がうまく焼くコツのようだ
ワタも身も骨もウロコも残すことなく丸ごと食べるのが基本。一番味が濃い頭の部分は最後に食べるとよいようだ
「メニューはおまかせコースだけ。すべて一人でやっていて、お客さんはほったらかしですし、めちゃくちゃサービスの悪い店だと思いますよ(笑)」。
そう言って笑う店主・西川和弘さんだが、魚料理にかける情熱は半端ではない。福浜漁港の近くという、中心部から行きにくい場所にあるにも関わらず、その味を求めて訪れる人は絶えない。もちろん、漁港が近いというのはより新鮮な魚を食べられるということでもある。
夏になると、コース料理に入っていることも多い一品が、『あぶってかも』だ。
「コースでは一人に一匹くらい出しますが、塩しといて焼くだけですよ(笑)」。
一言で言えば“塩をして焼くだけ”。しかし、その裏側には深い話が隠れている。
「仕入れたらすぐに塩をしときますが、べた塩(たっぷりの塩)じゃないと塩が効きません。脂が多いので、少ないと塩が負けてしまうんです。新鮮な『あぶってかも』なら塩をして6時間ほどねかせておきます。そのねかせる時間は素材の鮮度を知るために、見てさわってみないとわからないですね。塩をたっぷりふるのは、塩を浸透させて、浸透圧の力でアクみたいなものを外に出すということです。塩は、その魚が住んでいた海でとれた塩がベストです。一番なじみやすいですね」。
塩をしてねかせておいた『あぶってかも』は、水で洗ってから焼かれる。
「水の中に少し酒を入れたもので洗う時もありますね。あとは天火で焼くだけ。途中でひっくり返したりはしますが(笑)、そのタイミングは特に細かくはないです。魚が良ければどんなふうに焼いても美味しくなりますからね。焼くのには15〜20分ぐらいかかります。身は薄いですが、ウロコがついていて、ウロコも一緒に焼かないといけないから強めに表面だけ焦がす感じで。小さい魚のわりには焼くのに時間がかかりますね」。
こんがりと焼き上がった『あぶってかも』からは独特の香りが漂う。
「『あぶってかも』は丸ごと焼いて食べるのがベストやないかと思いますね。磯の魚は香りが強いけど、その中でもさらに強いのが『あぶってかも』。それをそのまま味わうということなのですから。なんでもそうですが、昔の人が考えたものは、やっぱり一番旨くなる料理法ですよ。素材にいろんな味を足していくのは好きではないんです。そのままを食べて味わってほしいから。アクがあったら、それをどうやって取ろうかとは考えますが、アクを取らずに味を重ねていくのはおかしいですからね」。
あぶってかもの食べ方も教えていただいた。
「どんな魚も食べ方は大体同じなのですが。まず、えんがわ〜背骨の上についている小骨と身を外します。その下の背骨の上の部分の身を食べて、次に下のヒレを取って、背骨の下の部分の身を食べます。そして、えんがわを食べ、わたのところを食べ、頭は一番塩辛いので最後に口に入れます。味のうすいところから濃いほうへ食べていくということですね」。
しかしながら、西川さんは食べ方をうるさく言う人ではない。
「私がつくるのは会席料理みたいなこじんまりしたものじゃなくて漁師料理。丸ごと焼いたみたいな。箸で食べる魚はあんまり好きじゃなくて、手でがぶっと食べるのが好きですね。みんなきれいに食べようと思っているみたいだけど、きれいに食べる必要なんかありません。『あぶってかも』も自分がいいように、美味しいように食べたらいいと思いますよ。濃い味には深みのある酒が合うので、私も頭をかじり、しゃぶりながら焼酎飲んでます。かみながら飲んで、かむだけかんだら、かたいところは出しますよ」。
その飲み方だと、焼酎グラスに『あぶってかも』の脂が浮かびそうだが…?
「気にしません、そのほうが旨い。頭を食べる頃にはもう酔ってるし(笑)」。
美味しい食べ方、飲み方に決まりはないのだ。
まずは電話をしてくださいと言う西川さん。
「日によってあがってくる魚は違います。雨が降るだけでも変わりますから。メニューを決めて魚を仕入れる店も多いのでしょうが、うちは違います。父親や親戚が漁師なので、電話して『どげん?』と聞くところから始まります。料理が決まるのはそれからです。だからまず電話して好みを教えてください。『魚は好きだけど、この味は好きじゃない』と言われるのもいかんけんですね。夫婦で来た方で、ご主人が関東、奥様が福岡出身だったりしたら、一人ずつ違う味付けにしたりもしますよ。魚を美味しく食べてほしいだけなんです。それから、休むつもりの夜でも、『美味しい魚を食べたいけん開けてくれんかいな』と電話で言われれば予定を変えて店を開けてしまいますね(笑)。お電話待ってます!!」。
仕入れたらすぐにたっぷりの塩をして6時間ほどねかせる。水洗いをして焼く。魚がいた海でとれた塩が一番なじみやすいのだそう。
身は薄く小さな魚だが、15~20分かけてじっくり焼く。ウロコがパリパリになるようにするため、表面を焦がす感じで焼いていく。
身、えんがわ、ワタ、頭と、味の薄いところから濃いほうへ食べていくと美味しく食べられるが、「好きなように食べていい」とご主人。
福浜漁港からすぐのところにある魚料理の店。メニューは『おまかせコース』(時価)のみ。料理はその日に揚がった新鮮な魚から組み立てられるので、まずは電話で問合せを。夏のコースを彩る一皿として食べられるのが『あぶってかも』だ。『シャコの刺身』、4種類ある『アナゴの刺身』など、こちらでしかなかなか味わえない料理もある。