九州の味とともに 夏

この料理の"味のキーワード"

下ごしらえ(塩の使い方)

仕入れてすぐにたっぷり塩をして、しばらくねかせる。その後、水で塩を落としてから焼き始めるが、新たに塩をふる場合もある。

焼き方

中まで火を通しつつ、表面がパリッと香ばしくなるように焼き上げる。遠火の強火がうまく焼くコツのようだ

食べ方

ワタも身も骨もウロコも残すことなく丸ごと食べるのが基本。一番味が濃い頭の部分は最後に食べるとよいようだ

語り 柳町一刻堂 福永一記の「あぶってかも」

福永一記さん

『博多の台所』と言われる柳橋(やなぎばし)連合市場近くにあった自転車屋さんが、店主・福永一記さんのご実家。
「食卓には毎日魚が並んでいました。『あぶってかも』は骨も多くて小さい頃は食べにくかったですが、父親は頭からばりばり食べていましたね」。
子どもの頃は市場が遊び場でもあったという福永さんは、慣れ親しんだ柳橋連合市場の近くである清川に1991年に店を開いた。市場がすぐ近くということもあり、メニューには新鮮な魚介や野菜を使った料理が並ぶ。『あぶってかも』も鮮度が重要となる一品だ。

冷凍庫で熟成された『あぶってかも』

「とにかくアシが早いです。丸ごと焼いてワタも食べますから鮮度が命みたいな魚ですね。うちでは、仕入れたらすぐに洗って塩をして冷凍しておきます。すると冷凍庫の中でいい具合に熟成がすすむんですよ」

炭火の上で注意しながら焼いていく

冷凍されていた『あぶってかも』は注文が入ると炭火でじっくりと焼かれる。
「普通の魚はウロコは外しますが、『あぶってかも』はウロコがないと美味しくない。そのウロコもうまく焼けていないといけないんですよね。焦がしてしまってはだめなので、炭火でじわじわと焼いていきます。電気で焼く機械は高いんで炭火にしてます(笑)。炭火はちょこちょこ様子を見とかんといかんですが、炭火のほうが美味しく焼けますね。10〜15分くらいかけて焼きますが、徐々に脂がじゅわっと出てきます。焼けてくると目のところなど穴から蒸気が出てきます。『内蔵が煮えてますよ〜』という感じですね(笑)。身と香ばしいウロコを一緒に食べると美味しいですよ。小ぶりなら頭からかじるのがおすすめです。よく噛まないといけませんが」。

緑の葉を添えるとより美味しく見える

『あぶってかも』はその名前からだけでは、想像がむずかしい料理。福永さんもまだ味わったことのない人には説明することもある。
「『スズメダイという魚で、福岡でしか食べない魚です。食べにくい魚ですが、滋味深いというか海の味がします。めんどうくさいのがお嫌いじゃなかったらどうぞ』というように、おすすめします。最近、飲食店で出すのも食べやすい切り身の魚ばかりですが、博多に来たならぜひ食べていただきたいものですね。かめばかむほど味が出ます。小骨も味のうちですから(笑)」。

脂ののった身とパリパリのウロコ、塩が効いた味は焼酎によく合う。味付けは仕入れてすぐにふる塩だけ。それを丸ごと焼いて丸ごと食べる。『あぶってかも』はとても豪快な料理だ。
「料理とは言えないかもしれませんね(笑)。元々は漁師が焚き火につっこんで焼いていたのではないでしょうか。今でも、柳橋の市場ではドラム缶で焼いたりもしていますね。けれど、シンプルイズベストですよ。塩して焼いて豪快にかぶりつくという原始的なもの。あんまり手をかけないでつくるものですが、旬の時期はやっぱり美味しいですね」。

「うちは居酒屋です。自分が食べたいものばかり置いてますね(笑)」と福永さん。『あぶってかも』も福永さんが好きな、博多を代表する大切な味だ。
「私はダイビングが趣味なので、沖縄あたりの海でもスズメダイは見ますが、むこうでは食べてないみたいですね。『あぶってかも』は博多の味です。旅行者の方々には非日常の料理だと思いますが、本来は、夏の時期に博多の方にとって日常の味のはず。私も小さい頃はそうでしたから。けれど、今は博多でも非日常の味なのかもしれませんね」。

博多っ子ならば、脂ののった『あぶってかも』を一度は食べておかなければならないだろう。そして、焼酎が好きだという方もぜひ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

下ごしらえ (塩の使い方)

鮮度が大切なので、仕入れたらすぐに洗って塩をして冷凍しておく。冷凍庫の中でいい具合に熟成がすすんでいくとのことだ

焼き方

炭火でじっくりと10~15分ほどをかけて焼く。焦げてしまわないように注意しながら、ウロコは香ばしく焼くのがポイントだ

食べ方

小ぶりなら頭からかじるのがいい。小骨も味のうちで、かめばかむほど、滋味深い海の味を感じることができるとのことだ

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柳町一刻堂柳橋連合市場の食材を使う居酒屋

「元気が一番です!!」と言う店主・福永一記さんとスタッフの大きな声が響く店内はいつも盛況。博多の台所・柳橋連合市場が近所とあって『お刺身の盛り合せ』(2950円・2人前)など、新鮮な魚介や野菜を使ったメニューは豊富。その他、肉料理やもつ鍋1人前1050円(2人前より)も食べられる居酒屋だ。炭火でじっくりと焼いた『あぶってかも』は夏の味。

ウロコに香ばしくついた焦げ目もポイントの『あぶってかも』一匹500円
開店時から変わらない人気メニュー『和牛カルビの肉じゃが』800円
『あぶってかも』と同じく、酒の肴にぴったりの『渡りガニの塩辛』1400円
オープンと同時にいつも満席に。店内にはスタッフの大きくて元気な声が飛び交う

柳町一刻堂

住所 福岡市中央区清川2-9-4
電話 092-522-8177
営業 18:00~翌3:00
休み 不定
42席
カード
駐車場 あり
URL http://ikkoku-dou.com
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