九州の味とともに 夏

この料理の"味のキーワード"

鶏肉

鶏の胸肉を使うのが基本。やわらかさや味わいのため、生後何日の鶏のものを使うなど細かに決めている店も多い

揚げ方

鶏胸肉に衣をつけて油で揚げる。小麦粉、片栗粉など鶏肉にまぶす粉の種類、また油の種類などに工夫がなされている

タレ(甘酢)とタルタルソース

タレとタルタルソースはチキン南蛮の味を決める重要なもの。各店独自の自家製で、マヨネーズからつくる店も多い

語り 元祖チキン南蛮 直ちゃん後藤浩一の「チキン南蛮」

後藤浩一さん

「チキン南蛮は中学校の時に弁当のおかずになってましたね(笑)」。
2代目の後藤浩一さんはお父様である後藤直さんがつくったチキン南蛮の味を守り続けている。
直さんはかつて延岡市にあった洋食店『ロンドン』で修行中、鶏肉の唐揚げに甘酢をかけた料理をまかないで食べていたのだそう。そして、昭和39年、直さんはチキン南蛮を出す店をオープンさせた。こちらのチキン南蛮は揚げた鶏肉を甘酢に通すだけで、タルタルソースはかからない。これこそがチキン南蛮の原点といえる味なのだ。

鶏胸肉に小麦粉をまぶす

その作り方を教えていただいた。まずは鶏肉。
「鶏胸肉ですね。生後何日目というのを決めています。新鮮な鶏肉の皮をはいで、厚いところを切ったり組み合わせたりして、同じ大きさ、均一な厚さになるようにして塩こしょうしますが、この仕込みにとても時間がかかるんです。ですから仕込みできる数も限られるので、お客さんがたくさん来ていただいた時など、本当に申し訳ないのですが、お断りしなければならない時もあります」。

鶏胸肉を投入

さて、カウンターの中にある厨房には油の入った鍋が2つある。
「何度か使った油と新しい油が入れてあります。まず、古い油の鍋で揚げて、色がついてきたら、新しい油の鍋に移します。いつでもきれいに揚げるためです。170度前後の温度で揚げます。油の温度は卵液を少し落とすとわかりますね。鍋に入れる鶏胸肉の枚数によって温度の変化が違うので、それによって揚げ方も変えていかなければなりません。1度に揚げる枚数は3枚までが限度で、2枚ずつ揚げるのが理想的です。カップルのお客さんが多いので助かりますが(笑)」。

卵液のみを箸で油に入れていく

小麦粉がまぶされ、卵液をつけられた鶏肉が、カウンターの向こう側で揚げられていく。鶏肉を鍋の中にいれた後、卵液だけを箸ですくって鍋に入れると、卵液は細くかりかりした、卵のかき揚げというようなものになっていくが、それを箸で鶏肉にからませていく。

卵が揚がってきたらそれを鶏胸肉にからませて衣をふくらませていく

「温度が低いとべたっとした感じになるし、高いと焦げてしまいます。うまく揚げるコツというのはなくて、うまいかどうかは、どれだけの枚数を揚げたかによるのかもしれません。常にきれいに揚げることが大切です。目で見て、耳で聞いて、香りを感じて…五感で揚げなければなりません。もう身体が覚えているので、今は揚げている最中にカウンターから話かけられても大丈夫ですよ(笑)。『この衣はなんですか?今まで味わったことがない』という質問が一番多いですね」。

揚がったら油をよく切って甘酢の中に通す

鶏肉が揚がったら、油を切って秘伝のタレにさっと通す。
「うちのは味がしっかりついているのでさっと通すだけでいいんですよ」。 そして食べやすい大きさに切るのだが、『サクッ』という音が軽く、香ばしさを予感させる。そこに柑橘のしぼり汁をふりかけてできあがりだ。8月〜2月はカボスを、カボスがないそれ以外の時はレモンをしぼる。

カットして盛りつける

できたてのチキン南蛮をいただく。衣のサクッフワッとした食感と甘酸っぱい味わいは、よく知られるチキン南蛮のイメージとは違う新鮮なもの。鶏肉もとてもやわらかい。付け合わせのキャベツには軽くソースがかかっているが、それもまたよく合う。

「老舗とか元祖とかいうのはあまり気にしていません。常に変わらない美味しいものをつくることが大切だと思っています」と言う浩一さん。しかし、味を守る一方で少しずつ新しい取り組みも行なっている。
「同じことだけをやっていてもだめだと思うんです。できることはやっていかないと。油の鍋を2つにしたのも、お客さんの声から考えたもの。『マスタードをつけると美味しいよ』という声を聞いて、マスタードも置くようになりました。今ではほとんどの方が使われていますね。また、以前は仕上げにはレモンだけでしたが、『カボスが美味しい』と言われて、試してみたら実際そうだったので使うようになりました。いいこと、できることはとりあげていくべきだし、柔軟性は持つべきです。一つ変えることはとても大変なことですが、ずっと同じじゃいけない。慣れたら時間ができるかというとそうではないですね。余裕が生まれた分、他のものが見えたり気になったりしてまた忙しくなりました(笑)」。

地元の方はもちろん、週末や連休ともなれば多くの県外客も訪れ、店は大変なにぎわいをみせる。
「『美味しかったよ。また来ます』や『並んだ甲斐がありました』といった声をいただくのが一番うれしい瞬間です。それは別室の厨房ではなくて、カウンター中のオープンキッチンで作っているから。お客さんの顔が見えるし、声も聞こえます。カウンターでやっててよかったと思います」。
チキン南蛮好きなら、一度は訪れなければならない店だ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

鶏肉

生後何日目というのを決めている鶏胸肉を使う。同じ大きさ、均一な厚さになるようにして塩こしょうをするが、仕込みにはとても時間がかかる

揚げ方

鶏肉に小麦粉をまぶして卵液をつけ、揚げる。卵液だけを揚げて鶏胸肉にからませるのが特徴

タレ(甘酢)とタルタルソース

タルタルソースは使わない。タレは身内しか作り方を知らないという秘伝の味。さっぱりした味はドレッシングとしても美味しい

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元祖チキン南蛮 直ちゃんチキン南蛮の原点を守り続ける定食屋

昭和39年創業の定食屋。創業時からの調理法を守り、チキン南蛮にはタルタルソースはかからない。鶏胸肉に小麦粉をまぶして卵のみをつけて揚げ、秘伝のタレに通してカボスやレモンを絞りかければできあがりだ。チキン南蛮の他、日向鶏タタキ風定食、鶏モモ焼き定食(1200円)、串焼き定食(800円)といった鶏肉料理も味わえる。

『元祖チキン南蛮定食』900円には、ごはん、みそ汁、つけものが付く。チキン南蛮の単品は600円。『チキン南蛮のタレ』525円の販売も行なっている(5本以上は取寄せ可能)
日向鶏を使う『日向鶏タタキ風定食』1000円。9割は火を通すので“タタキ風”。鶏肉から生じる肉汁とカボスのしぼり汁をあわせたタレをかけていただく
カウンターの中が後藤さんの仕事場。昭和39年創業で長い時間が経っているが店内は清潔だ

元祖チキン南蛮 直ちゃん

住所 延岡市栄町7-12
電話 0982-32-2052
営業 11:00〜14:00/17:00〜20:00
休み 月曜夜、火曜
16席
カード 不可
駐車場 あり
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