材料は牛挽肉が基本だが、豚挽肉や鷄挽肉が使われることや、タマネギなどが加わることもある。炒めて各店独自の味付けを行なう
タコミート以外でよく使われる具材はレタス、トマト、チェダーチーズ。キャベツを使ったり特製チーズを使う店もある
トマトベースでピリッと辛いサルサソースは各店が工夫を凝らしている。ケチャップが添えられることもある
金武町(きんちょう)の一角に休日ともなれば行列が絶えない店がある。タコライス発祥の店『パーラー千里』から続く『KING TACOS(キングタコス)』。1階がお客さんからの注文を受け調理した料理を提供するスペース、2階がイートインスペースだ。二代目となる代表・島袋小百合(しまぶくろ さゆり)さんにお話をうかがった。
「私のじいちゃん(儀保松三(ぎぼまつぞう)さん)は、各地の基地近くでアメリカ人向けのバーなどをやっていたのですが、金武町に移りレストラン&バーを始めました。その後日本が急成長をとげ、円高になっていき、やがてアメリカ人もそれほど裕福ではなくなりました。その時、じいちゃんは考えたんです。『お酒は嗜好品だから飲む量は減る。けれど食べる物は減らないだろう』。そこで、レストラン&バーではなく気軽に入れるパーラーを作ったんです」。
パーラーとは沖縄ではよく知られる言葉で、総菜の販売などを行ないながらイートインもできる飾らない食堂といった意味合いを持つ。儀保松三さんは1984年に『パーラー千里』を開店した。
「元は中華料理『千里』があった場所が空いていて、そこを借りたのですが、お金がなくて看板をつけ変える余裕がなく、前の店の看板をそのまま使うしかなかったんです。そして、身体の大きなアメリカ人にも満足してもらえるように“スピーディー&ボリューム満点&美味しい”を目指して生まれたのが『タコライス』だったんです。以前のレストラン&バーの時代からアメリカ風タコスを販売していたので、それを活かしてタコスの具をごはんの上にのせたというわけですね。『タコライス』という名前をつけたので、英語が片言しかしゃべれなくても『タコス&ライスでタコライス』と説明しやすかったようです」。
かくして生まれた『タコライス』だったが、当初は苦労も多かったそうだ。
「初めはまわりの人たちから『変な物売ってる』と言われていたそうで(笑)、全然売れなかったようです。じいちゃんはどうしたら売れるか考えて、夜遅くまで営業することにしました。夜遅くまで営業しているお店は他になくて、このあたりで夜になにか食べようとすると『パーラー千里』に行くしかない。そして、食べてみると『おいしい!いけてるじゃないか』となって、徐々に広まり、ランチでもディナーでも来てくれる方が多くなっていったんです」。
軌道に乗り始めたところで、新たな問題が発生した。
「大家さんから、今の場所では営業できなくなるかもしれない、と言われてしまったんです。それで同じ金武町に新しくオープンさせたのが『キングタコス』でした。キングの名前に負けないようにいつまでもがんばっていこうというじいちゃんの想いが込められた名前です」。
結果的には『パーラー千里』も存続し、金武町に『パーラー千里』と『キングタコス』の2店で営業する時代が続いた。『パーラー千里』は2015年に惜しまれつつ閉店したが、『キングタコス』は金武本店を含め、現在は全7店舗で営業を行なっている。
『タコライス』の注文は1階カウンターで。メニューが書かれたボードには『タコライス』だけではなく『タコライスチーズ』『タコライス野菜』『タコライスチーズ野菜』と表示されている。
「アメリカ人の中には野菜を食べない人も多かったので、当初から『タコライス』はごはんとタコミートだけ。チーズと野菜はトッピングというスタイルにしていたんです。今は、『タコライスチーズ野菜』を食べられる方が多いですね」。
『タコライスチーズ野菜』を注文すると、流れ作業で手際よく作られていく。お皿にごはんをのせ、タコミート、チーズ、レタス、トマトをのせてできあがり。
添えられるのはケチャップと特製タコソース。皿に盛られた『タコライスチーズ野菜』の見た目の量の多さにも驚くが、お皿を持った時のずっしり感にも驚く。全体で700gほどとのことだ。島袋さんがおすすめの食べ方を教えてくれた。
「『タコライスチーズ(ごはん+タコミート+チーズ)』を食べる時はケチャップをかけると、まったり甘くて美味しいですよ。『タコライスチーズ野菜(ごはん+タコミート+チーズ+野菜)』を食べる時は特製タコソースが合いますね。『タコライスチーズ野菜』を注文していただければ、具材をより分けてどちらも楽しめます。別物かと思うくらい味が変わりますよ」。
スパイシーなタコミートとごはんの相性はもちろん、チーズとケチャップの相性や、チーズと野菜と特製タコソースの相性も抜群。島袋さんが守る味わいだ。
「ごはんはお寿司屋さんでも使えるくらいのコシヒカリを少しかために炊いています。特に日本人はごはんが美味しくないとだめですから(笑)。タコミートは挽肉とスパイスを使って作っています。保存料などを使わないので毎日作って各店に届けています。チーズも味わいがよくなるように当初からオリジナルですね。ソースは初めはタバスコとケチャップを置いていたようですが、すぐにオリジナルの特製タコソースを作り上げました。すべて細かなことは秘密ですが(笑)」。
現在では沖縄全土に広まり、全国的にも知られるようになった『タコライス』。そのことを島袋さんも喜んでいる。
「じいちゃんが始めた『タコライス』を近くの店でも作るようになり、さらにそのまわりでも販売、さらに沖縄で食べた方が東京で作って売るようになったりして…徐々に広がっていったようですね。タコライスを東京で初めて食べた方が私たちのお店を訪ねてくれたこともあったんですよ。金武生まれのタコライスを探しにきてくれたんです!今、沖縄では『タコライス』を出す店はたくさんあります。私も行きますが、いろんな『タコライス』を食べていただきたいと思います。そして、いつか『タコライス』発祥の地・金武の街に、そして私たちのお店にきていただけるとうれしいです。この街にしかない雰囲気を感じながら食べていただきたいですね。とことんシンプルな味を(笑)。金武はいろんなものがミックスされたチャンプルな街。小さな街だけどみんなやさしいんです」。
島袋さんはそんな想いと儀保松三さんから教えられた『常にお客さんのことを一番に考えて自分が美味しいと思うものを提供しなさい』という言葉を胸に日々の仕事に取り組んでいる。店のお休みは台風の時だけだ。
「コンビニがない時代は台風が来ると特に忙しかったんですよ(笑)。それから、1年で一番忙しいのはGWなどの連休時ではなくて、1月2日と3日なんです。みんなおせち料理に飽きるからなのかな?(笑)」。その2日間の忙しさは、帰省したたくさんの方々が懐かしさも求めて訪れるからなのかもしれない。
タコミートは挽肉とスパイスを使って作られる。保存料などを使わないので、毎日その日の分を作っているとのこと
基本の『タコライス』はごはんとタコミートのみで、チーズ、野菜(レタスとトマト)を好みでトッピングするというスタイルだ
『タコライス』には、黄色の容器に入ったケチャップと、赤色の容器に入ったピリ辛の特製タコソースが添えられる
「“スピーディー&ボリューム満点&美味しい”料理を作ろうと、私のじいちゃんが『タコライス』の販売を始めたんです!」と代表・島袋小百合さん。基本の『タコライス』はごはんとタコミートのみ。チーズと野菜はトッピングというスタイルだ。ボリューム満点だが、特製タコソースがスパイシーな肉の味やチーズとよく合い、するりとお腹へ。