中華料理は鶏ガラスープが基本だが、『ちゃんぽん』には、鶏ガラと豚骨から作ったスープを使う
キャベツ、モヤシなどの野菜に豚肉と魚介類が入る。夏場はアサリ、冬場はカキを入れる店が多い。タマネギは好みが分かれる具材だ
具材を炒め、スープを入れ、味付けをしてから麺を入れる。一煮立ちさせることで具材の旨味がスープに移り、麺もそのスープを吸う
取材におじゃましたのはランチタイムも終わり間際の時間。2代目で現代表の林照雄さんに活気のある厨房に案内していただき『ちゃんぽん』を作るところを見せていただいた。
大きな中華鍋に白絞油とラードが熱せられ、モヤシ、キャベツが炒められる。大きな炎があがり、すごい勢いで動かされる鍋の中でモヤシとキャベツが踊る。
そこにスープと薄口醤油が入った後、豚肉やイカなどの具材、麺を入れ、しばらく炊きながらアクを取る。
丼に麺を入れ、その上に具材をのせ、鍋に残ったスープにコショウを一振りした後、そのスープを丼に入れてできあがり。
この間、2分くらいだろうか、『ちゃんぽん』はあっという間にできあがる。しかし、そこには幾つもの細かな手間や技が込められている。
スープ、具材、麺、作り方…林さんに『ちゃんぽん』のお話を詳しくうかがった。
スープについて。
「『会楽園』は昭和2年創業ですが、親父の代とはスープが違いますね。昔は鶏ガラ100%のスープで作っていましたが、コクがあるスープにしようと、昭和40年代後半から豚骨も使うようになりました。鶏ガラと豚骨を7:3の割合で鍋に入れて、一緒に炊きます。豚骨からは濃い味が出ますが、入れすぎるとしつこくなってしまいます。試行錯誤した結果、7:3になりました。『ちゃんぽん』と『皿うどん』専用のスープです」。
具材について。
「具材は、はんぺん、ちくわ、豚肉、イカ、アサリ、キクラゲ、ネギ、モヤシ、キャベツです。長崎ではカマボコのことを、はんぺんと呼びますが、欠かせないものですね。濃いピンク色や緑色などありますが、うちでは薄いピンク色のはんぺんを使っていますよ。魚介も旨味が出るので欠かせないもの。11月から4月にはアサリの代わりにカキを入れていますが、カキの旨味が出た『ちゃんぽん』も美味しいですよ」。
麺について。
「麺は唐灰汁が使われている長崎ならではの麺です。唐灰汁は、炭酸ナトリウムと炭酸カリウムでできたもので、通常の麺に入れられる、かんすいとはちょっと違いますね。麺の材料は小麦粉、水、唐灰汁。唐灰汁が入っていなかったら、ただのうどんになってしまいます(笑)。麺は少し黄色っぽい色をしているので、卵が入っていると思われる方もいらっしゃいますが、卵は使われていません。唐灰汁を入れることで、独特の麺の色と風味が生まれるのです。長崎には製麺所が幾つもあって、それぞれに麺の味わいや太さが違いますね」。
作り方について。
「炒める油はラードだけでも美味しいのですが、ラードは冷えるとすぐに固まってしまいます。寒いときなどは、厨房からテーブルに届ける間に、スープに膜が張ってしまうほどです。それで、白絞油とラードをうまい具合にブレンドしているのです。そして、店で作るちゃんぽんと家庭で作る『ちゃんぽん』の一番の違いは火力です。強い火で一気に作ることが大切です。私がいつも料理人に言っているのは、最初の野菜(モヤシとキャベツ)をよく炒めないといけないということ。キャベツは焦げる寸前くらいまで炒めないといけないですね。この炒め方でスープの色や味も変わってきます。スープの色は初めは白いのですが、野菜をしっかり炒めておくとスープが少し濃い色になり美味しくなります。だから私は見ただけでも、ある程度は『ちゃんぽん』の味がわかるんですよ。また、うちでは『ちゃんぽん』は一度に5杯までしか作りません。一度にたくさん作ると味が落ちるんですよ。大量の具材やスープを入れると、どうしても温度が下がってしまうからですね。『ちゃんぽん』は、鍋の中が高温の状態のまま作らないと美味しくならないのです。一度に5杯ずつしか作らないので、お客様を待たせてしまうこともあります。それでも私は料理人たちに『お客様をお待たせしてもいいから、しっかりじっくり作りなさい。お客様には私が謝るから』と言っています」。
できたて熱々の『ちゃんぽん』をいただいた。具材の旨味が溶け出したスープの味わい、その味わいをほどよく吸った麺の独特な風味と味わい、具材そのものの味わい…絶妙なバランスだ。
「うちでは、最後に、スープにコショウを入れていますが、これでまた味が引き立つんですよ。お客さんの中には、『ちゃんぽん』にソースや酢をかけて食べられる方もいらっしゃいますね。それもまたおもしろい味わいになります」。
『会楽園』にある150種類ほどのメニューの中でも、ダントツで人気なのが『ちゃんぽん』とのこと。林さんは並々ならぬ厳しい目で日々『ちゃんぽん』と向き合っていらっしゃる。
「『ちゃんぽん』は、一番みなさんに食べていただいている料理であると同時に、一番作るのが難しい料理でもあります。今でもまだ研究中です。この地で店をやらせていただいているからには、『ちゃんぽん』が美味しくないといけません。『皿うどん』も同じです。『ちゃんぽん』と『皿うどん』は私の命、一番大事な商品なのです。この2つが美味しくないと、『会楽園』ではなくなってしまうんです。『ちゃんぽん』と『皿うどん』が美味しければ、地元の方々にもまた利用していただける。だから料理人には、『まごころと感謝の気持ちを持って作りなさい』と毎朝言っています。お客さんから『会楽園のちゃんぽんと皿うどんは美味しい』と言われるのが一番うれしいことですから」。
試行錯誤した結果、鷄ガラと豚骨を7:3の割合で鍋に入れて一緒に炊いたスープ。『ちゃんぽん』と『皿うどん』専用のスープだ
はんぺん(カマボコ)、ちくわ、豚肉、イカ、アサリ(冬場はカキ)、キクラゲ、ネギ、モヤシ、キャベツが使われる
白絞油とラードでモヤシ、キャベツを炒め、スープと薄口醤油が入った後、豚肉やイカなどの具材、麺を入れしばらく炊く
長崎新地中華街の北門入口で、赤い柱がひと際目をひく昭和2年創業の老舗中華料理店。ルーツは中国・福建省にあるが、中華と長崎の風土が融合した“長崎中華”を提供している。『ちゃんぽん』、『皿うどん』、『トンポーロー』が、地元の方にも愛され続けている看板メニュー。日祝日を除く14時までは、『酢豚定食』(800円)などの定食類も食べられる。
住所 | 長崎市新地町10-16 |
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電話 | 095-822-4261 |
営業 | 11:00〜OS15:15/17:00〜OS20:15 |
休み | 月2回不定 |
席 | 350席 |
カード | 可 |
駐車場 | なし |
URL | http://www.kairakuen.tv |