九州の味とともに 夏

長崎 石焼

熱した石英斑岩(せきえいはんがん)の上で魚介類や野菜を焼く
漁師の食事から生まれた豪快な料理

九州と朝鮮半島の中間に位置する対馬の近海は、暖流と寒流がぶつかる好漁場。『石焼』は海の幸に恵まれた対馬市の漁村、美津島町根緒(ねお)の漁師たちが始めたと言われている。根緒付近の海岸に打ち上げられる石英斑岩という石を焚き火で熱し、その上で新鮮な魚介類を焼いて食べるという豪快な料理だ。やがて根緒地区の民宿が宿泊客への提供をはじめ、それが広まっていった。今では対馬を代表する郷土料理として知られている。

石鯛、ブリ、イカ、サザエ…食材は生でも食べられる新鮮な魚介類が中心。対馬特産の原木シイタケである『対馬しいたけ』が添えられていることも多い。石英斑岩は熱しても割れにくい特殊な石で、熱すると遠赤外線を発して、食材を外側は香ばしく、内部はふっくらと焼き上げる。適度に焼いた食材を、作り手特製のタレにつけて食べると、食材の旨味がまっすぐに伝わってくる。タレを食材にかけてから焼くという食べ方もあるようだ。『石焼』の後は、対馬の郷土料理である『ろくべえ』や『対州(たいしゅう)そば』で締めたい。尚、石を熱するのに時間がかかるため、飲食店で食べる時は予約が必要だ。

対馬には石塀、石屋根倉庫、硯、砥石(といし)、特産品のひとつである『たたきイカ』など、石にまつわる文化が色濃く残っている。『石焼』は対馬の豊富な海の幸と石文化から生まれた郷土料理なのだ。

対馬の郷土料理や石文化について

2015年5月にオープンした『観光情報館 ふれあい処つしま』を訪ね、対馬観光物産協会の扇徹弥さんに対馬の郷土料理や風土についてお話をうかがった。

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●『石焼』について
「具材を石の上で焼いて食べる『石焼』は根緒と呼ぶ地区で、漁師さんたちが浜辺で作って食べていた豪快な料理でした。それを民宿が提供するようになって広まったのです。今は、焼いた具材をタレにつけて食べることが多いですが、漁師さんたちは具材に直接タレをかけてから焼いていたようですね。使う石は石英斑岩と呼ばれる特別な石で、昔は浜にたくさんありました。10年くらい前まではあちこちで販売もしていたんですよ。今は少なくなってしまったので、みなさん大切に使っていらっしゃるようです。焼く具材は魚介類を中心とした旬の食材です。対馬では原木シイタケの『対馬しいたけ』が特産品なので、これもよく使われますね。秋から春にかけては肉厚の生しいたけを食べることができます。『石焼』をお店で食べられる時は予約されたほうがいいですよ。石を熱するのに時間がかかりますから」。

●対馬の郷土料理について
「対馬では人が集まると『いりやき』を食べることが多いですね。これは簡単に言うと、地鶏か魚とたっぷりの野菜を入れた寄せ鍋です。甘辛のタレに漬け込んだ豚肉『対馬とんちゃん』は最近注目されています。サツマイモを発酵させてデンプンを取り出し、そのデンプンを使った麺料理『ろくべえ』や、対馬ならではの『対州(たいしゅう)そば』も美味しいですね。『ろくべえ』はプリプリした食感の麺で、『対州そば』は原種に近いので風味がよくコシが強いので地元では十割そばで食べます。どちらも『いりやき』の締めとして食べられることも多いですね」。

●対馬の石文化について
「対馬、特に厳原(いづはら)では石文化を感じるものがたくさんあります。城下町でしたから石塀が残っているところもあります。島の西側は特に風が強かったので石屋根倉庫が残っています。また、紫式部が愛用していたと言われる若田石硯や砥石(といし)の産地でもあるんですよ。『石焼』は石を使った料理ですが、他にも石を使った『たたきイカ』という食べ物もあります。干したイカを炭火で焼いて、熱いうちに石の上で叩いて裂くというものなんですよ」。

■観光情報館 ふれあい処つしま
住所/長崎県対馬市厳原町今屋敷672-1
電話/0920-52-1566
営業/8:45〜17:30
休み/なし
http://www.tsushima-net.org/

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対馬の魚介類と石英斑岩について

『石焼』発祥の地と言われている対馬市美津島町根緒にある美津島町高浜漁業協同組合支所を訪ね、販売主任・槙野裕之さんにお話をうかがった。

高浜漁港

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●対馬の魚介類と『石焼』
「対馬近海ではタイ、ヤリイカ、ブリ、赤ムツ、クエなど四季を通して様々な魚が獲れます。種類が豊富ですし、対馬ではとても安く買えると思いますよ。魚介は豊富です!! いろいろな魚介がありますが『石焼』には身のやわらかい魚はむいていないですね。焼くと身がポロポロになってしまいますからね。青魚系、石鯛などはとても美味しいと思いますよ」。

●根緒地区と石英斑岩
「この近くの海岸では昔から石英斑岩が打ち上げられています」。

石英斑岩が打ち上げられる海岸

「今では少なくなってしまったようですが…。白っぽい石なので見れば大体はわかりますよ。漁師さんたちはそれを使って『石焼』を作って食べていたんです。料理というほどたいそうなものではなくて、焚き火をして海岸にある石を熱し、そこに獲れた魚をのせて醤油をちょっとつけて食べるというものだったと思います。私も大人たちの姿を見ていましたから、海に潜って魚をつかまえ、浜辺で石焼を作っていましたよ(笑)。今はそんな風景を見ることもないですね」。

■美津島町高浜漁業協同組合(本所)
住所/長崎県対馬市美津島町鶏知甲1321
電話/0920-54-2028

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『ろくべえ』について

対馬市豊玉町田でサツマイモの栽培から『ろくべえ』作りまでを行なっている斎藤幸枝さんを訪ねた。

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●『せんだんご』の作り方
『せんだんご』は『ろくべえ』の材料となるサツマイモのデンプンを乾燥させたものだ。
「サツマイモを皮ごとスライスして水に1週間ほどつけてしんなりさせた後、箱にいれて発酵させます。発酵中は独特のすっぱい香りがしますよ。対馬ではこの状態の事を『イモがくされる』と呼んでいますね(笑)。発酵してやわらかくなったものをつぶして丸めて1〜1カ月半ほど干して乾燥させます。それを水で戻して漉して、繊維などを取り除きます。漉して沈殿したものからアクが出ますから、初めは水がにごっています。数日おきに水を入れ替えてアク抜きをして、水がきれいになったら、丸めて鼻をつまむようにして『鼻高だんご』をつくって天日でよく乾燥させます。

『鼻高だんご』

この形にするのは表面積を大きくして早く乾燥するようにということですね。11月後半に第1弾のサツマイモを収穫して最初の『せんだんご』ができあがるのが2月から3月。収穫からできあがりまで3カ月もかかります。千の手間がかかるから『“せん”だんご』とも言われていますよ(笑)。サツマイモはイノシシに食べられてしまうこともあるし、干している『鼻高だんご』はカラスにやられたりして大変なんですよ(笑)」。

●『ろくべえ』の作り方
「『せんだんご』にお湯を入れてこね、野球ボール大に丸めてかるくゆでます」。

『せんだんご』に湯を入れてこねて丸める

「それをまたこねてから、『ろくべえせぎ』の上にのせてお湯をはった鍋の中に押し出します」。

軽くゆでて、再びこねる

「押し出すことを対馬では“せぐ”と言うんですよ。この押し方が難しいですよ」。
まわりにはサツマイモの甘い香りが広がる。

『ろくべえせぎ』の上にのせて湯の中に押し出す

『ろくべえせぎ』は木と穴の空いた鉄板で作られた『ろくべえ』を作るための器具だ。

下の木枠が『ろくべえせぎ』

斎藤さんが作る『ろくべえ』は途中で切れることなく、麺のように長くなる。『せんだんご』の作り方、水加減や押し方から生まれるものだ。
「どうして長くできるかは企業秘密です(笑)」。
ゆであがって褐色に変化した『ろくべえ』を、水でしめ、軽く洗う。

ゆであがったら水で締める

それをツユの中に入れればうどん・そば風になるが、今回は醤油を少したらして食べさせていただいた。ツルツルとして喉越しがよく、サツマイモのやわらかな風味と甘味が感じられる。
「サツマイモを一度発酵させることで味わいも食感もよくなります。『せんだんご』は長い期間保存できますし、昔から続く知恵ですね。私の母も祖母も作っていましたよ。けれど、今は作る方も少なくなってしまったようです」。

斎藤さんは小学生にサツマイモ作り、『せんだんご』作り、そして、『ろくべえ』を作って食べるまでを教えていらっしゃる。それは、大切な郷土の味を守り伝える活動なのだ。

斎藤幸枝さん

※斎藤さんが作った『ろくべえ』は豊玉町で11月の第1日曜日に開催される『産業祭』で食べることができる(数量限定)

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たたきイカについて

『いか吉工房』の店主・吉村高浩さんに、『たたきイカ』の作り方を教えていただいた。

工房の前には回転式のイカを乾燥させる機械が置かれていた

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「昔、対馬にはイカが大量に揚がっていました。生で出荷して、干したもので出荷して、それでも余ってしまう。それで『たたきイカ』が生まれたようです。干して乾燥させたイカを反らないように重しをのせて炭火で炙ります」。

乾燥して飴色になったイカに重しをのせて炭火で焼く

「それをくるくるとまるめて石の上で金槌で叩いたあと、裂きます」。

まるめて叩き、裂く

「焼くだけだと冷めるとガチガチに固くなってしまうのですが、叩くことで繊維がほぐれ、冷めてもかたくならずに食べやすくなるんですよ。単純な作業ですが、けっこう力もいりますし、私も一日200枚を叩くのが限界です(笑)。そのままでも美味しいですが、うちでは甘辛いタレをもみこんでいます。焼酎のつまみにはもちろんですし、おにぎりと一緒に食べても美味しいですよ。カップ麺に入れて食べても美味しいことも発見しました(笑)」

吉村さんが作る『たたきイカ』は『観光情報館 ふれあい処つしま』などで販売。取寄せも可能。60gで500円 ※送料別

「『たたきイカ』作りは昔はおばあちゃんたちの仕事だったようですね。私も小さい頃におもしろがって叩いていた記憶があります。対馬に伝わる味ですし、文化・歴史・郷土色がありますね。たくさんの方に伝えていきたいと思っています」。

■いか吉工房
住所/長崎県対馬市豊玉町千尋藻241-3
電話/0920-58-1412
イカの刺身作り、たたきイカ作りなどが体験できる宿泊施設を併設

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「石焼」、三様。

三人の料理人が語る、それぞれのこだわりとは

この料理の"味のキーワード"
食材

夏は石鯛、冬はブリなど、旬の魚介類が中心で、サザエ、ヒオウギ貝、イカなども。野菜類では特産の『対馬しいたけ』がよく使われる

焼き方

しっかりと熱された石英斑岩の上で食材を焼く。食材を焼き過ぎないようにすることが美味しく食べるコツ

タレ

醤油ベースのタレが基本。焼肉のタレのように濃くはなく、魚介類の味を引き立てるようにコクはあるがサッパリしたものが多い

あなたが「この料理と飲みたい一本」はどれ?

みんなの飲みたい一本
白霧島 黒霧島 赤霧島

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みんなのおすすめの飲み方
ロック 水割り お湯割り

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  • ロックで
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