水芋(蓮芋が使われることもある)の芋茎の皮をはぎ、水や酢水でアク抜きして適当な大きさに切る。最近はアク抜きして切られた芋茎も売られているようだ
甘酸っぱくさっぱりした味わいに仕上げるための煮汁に使うのは砂糖、酢、醤油など。アクセントに唐辛子も使われる
煮汁に芋茎を加えて煮るが、シャキシャキした食感を残すために煮過ぎないことが重要。冷やせばより爽やかな味わいになる
飲食店が連なる通りにあるビルの1階の小料理屋。扉を開けると割烹着姿の店主・中林典子(なかばやしのりこ)さんが笑顔で迎えてくれる。小さい頃から料理好きだったという中林さんは、2000年に『旬菜台所 あ・うん』をオープンし、一人でお店を切り盛りしている。足繁く通う常連客も多い。
「一品料理の小鉢は300円くらいからですが、基本的に料理はおまかせコースで2,500円くらいから。何度か来ていただいてお酒の量もわかれば、お酒も込みの予算に合わせます。たくさん食べていただくほどお得になりますよ(笑)。定番は煮魚、ポテトサラダ、和風の鶏の唐揚げ、メンチカツなど。その他の料理に関しては、毎日仕入れに行くのですが、その時にある食材を見てからメニューを決めます。座られて『今日は何があっと?(今日はどんな料理がありますか?)』という常連さんが多いですね。初めて来てくださった方には、『苦手なものはありますか?』と最初にうかがいますね。煮物や焼き物はなにかしらいつも用意していますし、締めはごはんと味噌汁。昭和の小料理屋さんって感じのお店です(笑)」。
仕入れに行った店に地元産の美味しそうな水芋があれば、『にいもじ』が作られる。
「『にいもじ』は夏の時期に食べる料理です。うちでも暑い時に作りますが、作る時期は短いですね。私が作る『にいもじ』のベースは家庭の味、私の母親の味です。私の小さい頃、我が家では米作りも野菜作りもおこなっていたのですが、ちょうど田んぼと畑の境目のところで水芋を育てていました。まわりもそんな家が多くて、どの家も水芋を育てていたという記憶がありますね。田んぼがあるところでは水芋も一緒に作られていたのではないでしょうか」。
中林さんがお母様から教わった『にいもじ』作りを見せていただいた。「水芋の茎のような部分(芋茎)の皮をむいて4~5cmに切りそろえます」。
「アクが強いのでしばらく酢水に浸けてアク抜きしておきます」。
「煮汁は三温糖と米酢を合わせたもの。酢は熱を加えるとまろやかな味わいになりますね。そこに唐辛子も加えてアク抜きした茎を煮ていきます」。
「火が通るのが早いんですよね。箸でさわって少ししんなりとするぐらいまで煮たら、火からおろし、鍋ごと氷水で冷やします。熱が入り過ぎると食感がふにゃっとなりますから、シャキシャキとした食感を残すためにそうするんです。そのまま冷蔵庫に入れておけば常備菜になりますよ」。
器に盛り付け、千切りショウガをのせればできあがり。『にいもじ』の色合いは薄い緑色。器集めが趣味だという中林さんが選んだ黒い器がその色を引き立てる。口に運ぶと酸味と甘みがしっかりと伝わる素朴な味わい。ショウガがピリリと刺激的だ。
「甘いでしょう?(笑)。田舎の味ですよね。でもそれが美味しいと思うのです。私の記憶では、昔はもっとえぐみが強かったような気がするんです。今は全般的にそうですが、野菜の味わいが淡白になっていますね。野菜の本当の味はえぐみも関係しているのかもしれません。水芋(の芋茎)は、『にいもじ』以外に、酢の物や胡麻和えや炒め物にしても美味しいですね」。
おだやかな口調であたたかな雰囲気の中林さん。料理も『にいもじ』をはじめ、どれもやさしい味わい。若いお客さんからも、開店当時から通うお客さんからも、幅広く愛されている。「『このお店はいつ来ても変わらない』といってくださる方が多いですね(笑)」。
水芋の芋茎のかたい部分を取り除いて皮をむき、4~5cmに切りそろえる。しばらく酢水に浸けてアク抜きをする
煮汁は三温糖と米酢を合わせたもの。軽く沸騰させてから唐辛子を入れる。砂糖が多めでやや甘みの強い味付けだ
箸でさわって少ししんなりとするぐらいまで煮る。シャキシャキとした食感を残すため、火からおろしたらすぐに鍋ごと氷水で冷やす
一人でも楽しめる小料理屋。常連客に人気の煮魚、ポテトサラダ、鶏の唐揚げなどの定番メニューに加え、店主・中林典子さんがその日に仕入れた旬の素材を使った料理が食べられる。食感を残すために、煮た後はすぐに氷水で鍋ごと冷やす『にいもじ』は、米酢と砂糖だけで煮た甘めの味付けで、上にのった千切りショウガがピリリと刺激的だ。