水芋(蓮芋が使われることもある)の芋茎の皮をはぎ、水や酢水でアク抜きして適当な大きさに切る。最近はアク抜きして切られた芋茎も売られているようだ
甘酸っぱくさっぱりした味わいに仕上げるための煮汁に使うのは砂糖、酢、醤油など。アクセントに唐辛子も使われる
煮汁に芋茎を加えて煮るが、シャキシャキした食感を残すために煮過ぎないことが重要。冷やせばより爽やかな味わいになる
『私達の健康は 私達の手で』。佐賀市食生活改善推進協議会会長・原田洋子(はらだようこ)さんは、食を通して「健康」づくりを推進する活動をおこなっている。さらに、郷土料理スペシャリスト師範として佐賀の郷土料理を広く伝える活動も続けている。
「ずっと、佐賀の郷土料理を大切に考えています。昔から続く料理は、健康につながる知恵がつまっているのです。『にいもじ』もその1つ。簡単でシンプルな料理ですが、佐賀の夏には欠かせないもので、特にみんなが集まるお盆の時のごちそうでした。採れる野菜が少ない暑い時期が水芋の旬ですから、暑い時期に重宝しますし、酢を使うので夏にぴったりの料理。水田がある地域で食べられている料理ですね」。
農家から届いた水芋を使って『にいもじ』作りを見せていただいた。「水芋は里芋の仲間で、親芋から茎のような『いもじ(芋茎)』が伸びて葉につながっています。まず、外側のいもじから順番にはがしていきます。はぐことを佐賀では『かぐ』と言います。だから、『外側からせんとかがれんよ(外側から剥いでいかないとうまく剥げないよ)』とよく言われますね」。
「食べるのはいもじの部分なので葉を切り落とします。そして、表面の皮をむいていくんです。折りながらやったほうがうまくむけますね。アクが強いので手がかゆくなる時もありますよ」。
皮をむいたいもじは、しばらく水につけてアク抜きする。長さを切りそろえたら煮込んでいく。
「砂糖、酢、薄口醤油を合わせたものに唐辛子を加え、いもじを煮込みます」。
「いもじがうっすらとピンク色になります。煮汁も同じようにうっすらとピンク色になりますね。煮過ぎるとやわらかくなって歯ごたえがなくなってしまいます。作り方のコツは煮込み過ぎないことです。シャキシャキ感が大切ですからね。味見をどうぞ!」。
シャキシャキとした食感と甘酸っぱい味わいが爽やか。まさに夏の料理だ。「子どもの頃はおかずでしたが、大人になった今でも焼酎のつまみにぴったりですね(笑)。私は柚子こしょうを入れて食べるのも好きです。酢の物ですから身体にもいいですね。煮汁につけた状態で保存できる保存食でもあります。冷蔵庫で冷やしておくと味が染み込んで美味しいですよ」。
不思議な響きの料理名『にいもじ』についてもお話をいただいた。
「佐賀では芋茎のことを『いもじ』と呼んでいます。『煮る』+『いもじ』で『にいもじ』と呼ばれているようです。『にいもじ』以外のいもじの食べ方としては、味噌汁に入れたり、煮魚の汁で煮たりもしますね。いもじの皮をむいて干して塩漬けにした後、塩抜きして食べる食べ方もあります。ただ、いもじはほとんどが水分なので、大量のいもじを使っても塩漬けはほんのちょっとしか作れないですね(笑)」。
定期的に料理教室などをおこなっているという原田さん。夏の時期には『にいもじ』作りも教えられているそうだ。
「そうやっていかなければ、次の世代につながっていかないですから。私が作る『にいもじ』も祖母から教えてもらったものなのです。佐賀の大切な夏の郷土料理を伝えていくことはとても大切なことですね」。
水芋の芋茎を適当な長さに折りながら表面の皮をむき、水につけてアク抜きする。食べやすいようにきりそろえておく
味付けには酢、砂糖、薄口醤油、唐辛子を使う。唐辛子以外を鍋に合わせて一煮立ちさせ、切った唐辛子を加えて煮汁を作る
煮汁に芋茎を入れて煮込む。シャキシャキした食感を残すために煮込みすぎないのがコツ。煮込んだ後、冷やすと味がより染み込む