佐伯で一般的な『ごまだし』にはエソが使われるが、タイなどを使った『ごまだし』も作られている。米水津(よのうず)ではイリコが一般的
醤油、みりん、酒などが主な調味料。その配合や、隠し味を加えることなどで、作り手によって味が変わっていく
『ごまだし』は、エソの身、すりゴマ、調味料を合わせてできあがり。その時の合わせ方や熱の加え方によっても味わいは変わる
丼に入ったうどんの上にのせられた直径4cmほどの丸い玉。寿司屋である『つね三』特製の『ごまだし』だ。
「カメラマンさん、冷えたら美味しくないわ。早よ撮って早よ食え(笑)。旨さは口で言うてもわからんやろ。食べんとわからん(笑)」。
店主・染矢恒明さんの威勢のいい声が店内にこだました。
「『ごまだしうどん』は、この10年くらいで佐伯に定着してきたかな。平成18年に『ごまだしうどん』選手権というのがあって、15店舗くらい参加したんやけど、そこでうちの『ごまだしうどん』が金賞をとったよ!」。
その味の秘密は手間をかけた作り方にある。
「使う魚はエソやけど、頭を取って、内臓取って、ウロコを外さずにそのまま200度くらいのオーブンで30分焼くよ。オーブンで焼くと、全体的に身がふっくらとするけんね。ウロコをつけたまま焼いとくと、皮がペロッとむけて、ウロコも一緒に取れるね。そいで、小骨を取りながら身をむしります。小骨もついたまま機械にかけてすりつぶしてもいいんやけど、そうすると、エソの力っちゅうのがなくなるんよ。さっき見たようなだんごの形になりにくくなるんよね。そやけん、みんなでむしります。黙々とむしります(笑)。たま〜にごまだしに骨が残っている時もあるけど、骨にあたった人はいいことあるよ(笑)。エソは安い魚でね、昔はそこいらへんにほったらかされとったよ。エソ以外の魚で作ってみたこともあるけど、アジはちょっと生臭い、タイは淡白すぎかな。エソは脂も持ちつつ、白身でクセのない魚、だから『ごまだし』作るのにぴったりやね。今ではカマボコの材料にもなっとるし、少し手に入りにくくなったね」。
ゴマの炒り方、すり方にも一工夫。
「炒りゴマを香ばしくなるように、さらに炒ります。それからゴマをすります。でも、完全にすりつぶしてしまうとこまではやらんよ。ゴマの風味を出すために粒が少し残るくらい、ちょうどいいくらいやね。手の空いとる時に、すり鉢とすりこぎで1度に1kgくらいすりよるよ。これもなかなか大変やね」。
次にエソの身に調味料を加え、かき混ぜる。
「味付けは、濃口醤油、みりん、酒、味噌をほんの少し。薄口醤油は少し辛くなるけんね。濃口のほうが旨味と甘味があるね。大分県は臼杵の醤油を使いよります。調味料を合わせたものとエソの身をフードプロセッサーで攪拌するけど、ペースト状にはせんよ。どろどろになってやわくなってしまったら、やっぱりだんごみたいに作れんけんね」。
最後にゴマと練り合わせてできあがりだ。
「味付けしてミンチ状になったエソの身にすりゴマを加えて、火にかけながら練り合わせます。うちのは、すりゴマ1kgに対して2kgのエソを入れるよ。1対1くらいでもできるけど、魚の風味を出したいんよね。冷めたら3日くらい冷蔵庫で寝かせとくよ。ゴマが醤油を吸って味がなじむんよね。そしたら旨味も増します」。
『ごまだし』があれば、『ごまだしうどん』はすぐにできる一品。うどんをゆで、湯を切り、丼にうどんを入れる。その上に『ごまだし』とネギなどの薬味をのせ、静かに湯を注いだら出来上がりだ。無事に撮影も終わったところで、『ごまだしうどん』をいただく。見た目は色が濃くて少し辛そうだが、そんなことはない。エソとごまの風味がしっかりと感じられる。
「『ごまだし』は基本的にお湯で溶くんよね。『ごまだし』のだんごをよく溶かしてから食べてよ。食欲がない時でも食べられるし、簡単に作れるし、昔の知恵やね。宮崎の冷や汁にも似とるね。インスタントラーメンができるずっと前からあるけん、“元祖インスタントラーメン”と思うよ(笑)。もろきゅうと食べたり、夏は冷やしうどんとかそうめんにも使えるよ。あとね、『ごまだし』に味噌、砂糖、魚を加えた魚みそや、『ごまだし』に味噌、ニンニク、唐辛子を加わえたピリ辛ごまだし鍋の素なども作っとるよ」。
染矢さんが作る『ごまだしうどん』のルーツはどこにあるのだろうか?
「小さい頃は海沿いじゃなくて川沿いに住んどったんよ。田植え時やらは田んぼにフナがおって、フナの身を使って、冷や汁のようなサラサラのものを親が作りよったね。それは『フナさつま』と呼びよったよ。それを使ったうどんを食べたのが、最初やね。その後、学生になってから、いわゆる『ごまだしうどん』を店で食べるようになったけど、当時は1杯100円くらいやったかな」。
『ごまだし』は瓶詰めにして販売もされている。それさえあればお店と同じ味が食べられるはずなのだが…。
「店で食ったほうが旨いという人が多いね。それはなんでかっていうたら、家で作るときはみんな入れる『ごまだし』の量をけちっとると思うんよね(笑)。うちのは辛くないから、たっぷり入れんとね。あとね、俺の毒舌聞きながらのほうがいいっちゃない?(笑)」。
小さい頃から寿司職人になりたかったという染矢さん。こちらで作られるどの寿司もネタが大きい。
「普通だよ。一口で食えるやろ?。ネタはすべて佐伯のものやけんね。フグもハモもいろんな魚が獲れるし、佐伯の魚は天下一品と思うよ」。
佐伯の方々は刺身を食べ、寿司を食べて新鮮な魚介の味を堪能する。しかし、最後は『ごまだしうどん』でしめる方が多いのだそうだ。
エソの頭と内臓を取って、オーブンで焼いた後、皮をむく(ウロコも一緒に取れる)。小骨をとりながら丹念に身をむしっていく
濃口醤油、みりん、酒、味噌をほんの少し使う。濃口醤油を使うのは、旨味と甘味があるからだ
エソの身に調味料を撹拌した後、炒ってすったゴマを入れて火を加えながら混ぜ合わせる。合わせるゴマとエソは1:2で、エソの割合が多い
「佐伯の魚は天下一品と思うよ」と言う店主・染矢恒明さんが握る、ネタの大きな寿司を楽しめる。ウニは海苔を使う軍艦巻ではなくシャリの上にのせるだけ。素材の味をそのまま味わってほしいという想いからだ。『ごまだしうどん』は焼いたエソを丹念にほぐしてたっぷり使う自家製『ごまだし』を使ったもの。さっぱりとした中に魚の風味が凝縮している。
住所 | 佐伯市内町6-4 |
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電話 | 0972-23-7645 |
営業 | 11:30〜14:00/17:00〜22:00くらい |
休み | 日曜 |
席 | 40席 |
カード | 不可 |
駐車場 | あり(2台) |
URL | http://www.saiki.tv/~tunesan/ |