九州の味とともに 夏

この料理の"味のキーワード"

ダルム

『久留米焼きとり』を代表する一串で、主に豚の腸のこと。下ごしらえされた後、表面はパリッ、中はジューシーになるよう塩焼きにする

塩とタレ

『久留米焼きとり』は主に各店が吟味した塩で塩焼きされることが多い。タレ焼きのタレは醤油ベースで継ぎ足しながら使っている

キャベツ

ほとんどの店で、おかわり自由のキャベツがサービスで提供される。醤油と酢を合わせさっぱりした味わいのタレがかけられる

語り 久留米焼きとり 焼とり鉄砲 花畑店 木下敏光の「久留米焼きとり」

代表・木下敏光(きのしたとしみつ)さん

焼きとり屋と言えば、暖簾をくぐった先にもうもうと立ち込める煙というイメージをもつ方が多いかもしれない。しかし、『焼とり鉄砲 花畑店』はオシャレなレストランのような店構え。店内もすっきりとしたスタイリッシュな空間だ。創業者である代表・木下敏光さんにお話をうかがった。「創業は1979年。その頃、焼きとりは、“男性がお酒を飲みながらつまみに食べるもの”だったわけですが、私はそのイメージを変えたかったんですよ。酒のつまみという位置付けではなくて、“焼きとりを食べる”がメインで、そこにお酒があるというイメージですね。女性も家族連れも楽しめるお店にしたかったんです」。現在、本店、花畑店、上津バイパス店の3店があるが、花畑店と上津バイパス店は特に家族連れの利用が多いそうだ。久留米の焼きとり文化にずっと関わり続けてきた木下さん。現在の久留米の焼きとり店の特徴について教えてくださった。

●内臓系の焼きとりが多い
「かつて久留米には屠殺場があったのです。海から離れていたこともあり、肉や内臓などがよく食べられていました。鶏、豚、牛、馬となんでもありますね。それから、久留米は大学病院などがあって昔から医療の街として知られています。ユニークな名前のダルム(豚の腸)、センポコ(大動脈)、ヘルツ(心臓)など医学生の方がそう呼び始めたといわれています。『腸をください』じゃなくて『ダルムをください』のほうがスマートですよね(笑)。初めはユーモアからだったのかもしれませんね」。

●メニューの種類が多い
「焼きとり屋ですから、焼きとりの種類が多いのはあたりまえですが、その他の料理の種類も豊富ですね。これは、久留米が交通の要衝であり様々な素材が手に入りやすかったこと、久留米のまわりが自然に恵まれ農産物が豊かであったこととも関係しています。私たちも、春には菜の花、秋にはきのこを使ったりとたくさんの一品料理をお出ししています。溶岩焼きなどもやっていますよ。目指しているのは飲み屋ではなくて『焼きとりレストラン』ですね」。

●家族連れが多い
「サラリーマンをはじめ大人だけではなく、家族連れが多いことは、他の地域にはあまりない特徴かもしれませんね。うちも、親子3代で来てくださる家族もいらっしゃいますし、子どもさんの誕生会をやることもあるんですよ。子どもは焼きとりが好きですからね。ファミリーレストランのような使われ方もしていただいているようです。市が主催する子どもたちの体験授業で、私たちの仕事ぶりを見ていただくこともありますよ。『大人になったらうちに就職せんね』とか言ってますよ。焼きとりファンが増えるといいですね」。

●食べ放題のキャベツ
「久留米のほとんどの焼きとり屋ではキャベツは無料で食べ放題です。筑後地方はキャベツの産地なので、そのスタイルが定着したのでしょう。キャベツには専用のタレがかかっているのですが、店ごとに味は違います。うちは酢と醤油をベースにした特製タレですね。作ってねかせることで味がまろやかになります。サラダのドレッシングだとしっかりした味にするのですが、キャベツのタレはさっぱりしたもの。焼きとりがメインになるよう、口直しにぴったりの味わいにしています」。

●巻物串
「『女性にももっと来ていただきたいな』と思い、新しい商品として考えたのが豚肉で素材を巻いた巻物串です。最初に作ったのはアスパラ巻き、しそ巻き、えのき巻きですね。季節によって旬の素材を巻いたものを作ったりしていますよ」。

木下さんが考案したと言われる巻物串は、多くの焼きとり屋にも欠かせない人気商品となっている。その他にも焼きとりに関するおもしろい話を聞かせていただいた。「昔はね、焼きとりって同じもの3本以上じゃないと頼めなかったんです。1本からでも焼くようになったのは久留米が早かったんじゃないでしょうか。来られる方は何種類も食べたいですし、その希望に合わせたんですね」。

焼き場に案内していただき、久留米名物のダルムが焼かれるところを見せていただいた。 「ダルムは独特の匂いがするのでその匂いを取り除くために、きれいに洗ってゆがき、さらにネギなどの香味野菜と一緒に煮て下ごしらえをします」。

下ごしらえされ串に刺されたダルム

「タレ焼きだと、素材の味よりもタレの味がまさりますが、塩焼きは素材そのものの味が伝わります。ダルムは基本的に塩焼きですから、しっかり下ごしらえしておかないといけないのです」。焼き場では1度に120本を焼くことができるが、ピーク時にはそれでも足りないとのこと。炭火の火力で焼き場周辺は灼熱だ。

岩塩や塩コショウをふりかけて焼く

「火力が弱いとせっかくのゼラチン質が溶けてしまうんです。表面はパリッと、内側はジューシーに…ほどよい火力と焼き方が必要です。料理によって塩を使い分けていますが、焼きとりにはニュージーランド産の塩を使っていますね」。

手前は表面がこんがりと焼きあがったダルム

ダルムとともに自慢の巻物串、ダルムの唐揚げ、センポコの酢の物をいただいた。ダルムは表面が香ばしい串焼きでも、香ばしく揚げられた唐揚げでも臭みはまったくなく、言われなければホルモンとはわからない。センポコの弾力のある食感は他にはないものだ。「センポコはバター焼きもよく食べられていますね」。テーブルに置かれている皿には小さな突起がついている。串から素材を取りやすくするために工夫された特製の皿だ。「女性が食べやすいように考えて作ってもらった有田焼の皿なんですよ!」。

串からネタを外しやすくするために考案された特製の皿

塩焼きされた串物はどれも素材の味が際立つ味わいだが、皮などのタレ焼きも味わい深い。「醤油ダレは醤油ベースに水飴、はちみつなども入れて継ぎ足しながら使っています。継ぎ足していくと味にまるみとうまみが出ます。40年の歴史あればこそのものです。もう一つ、味噌ダレも作っていて2種のタレを素材によって使い分けていますね」。

焼きとり店を営む前はホテルのレストランで仕事をされていた木下さんは、半世紀以上に渡って“食”にたずさわっている。焼きとり店を始めるにあたり熱い想いを込めて、店名を『鉄砲』にしたとのこと。「織田信長は鉄砲を使うことで、戦国時代の戦い方に革命を起こしましたよね。私も焼きとりの世界、食の世界で革命を起こしたいと思ったんです! 和食、洋食、中華と並ぶように“焼きとり”を食のジャンルにしたいですし、世界の“YAKITORI”にしたいですね」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

ダルム

ネギなどの香味野菜と煮るなどの下ごしらえをして独特の香りを取り除く。ほどよい火力の炭火で塩焼きする

塩とタレ

焼きとりにはニュージーランド産の塩。醤油ベースに水飴なども入れて継ぎ足しながら使う醤油ダレのほか、味噌ダレもある

キャベツ

おかわり自由のキャベツにかかる特製タレは、酢と醤油がベース。合わせた後、少しねかせることで味がまろやかになるとのこと

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久留米焼きとり 焼とり鉄砲 花畑店 老若男女でにぎわう焼きとりレストラン

1階は白を基調としたスタイリッシュなカウンター席やテーブル席、2階は完全個室。代表・木下敏光さんは「男性だけでなく、老若男女、家族連れ…誰もが気軽に立ち寄れる焼きとりレストランを目指しています」と、1979年の創業以来、空間づくりにもメニューにも気を配っている。しっかりした下ごしらえで誰でも食べやすくしたダルムをはじめ、アスパラ巻きなど巻物串メニューも豊富だ。

ダルム(1本)172円
ダルムの唐揚げ486円
センポコの酢物518円
しそ巻259円、エノキ巻237円、アスパラ巻259円、ピーマンの肉詰め194円、チーズ巻237円、レンコンの肉詰め216円
“焼きとり屋”のイメージを一新する1階のテーブル席
2階の個室

焼とり鉄砲 花畑店

住所 久留米市西町921-15
電話 0942-39-7139
営業 17:00〜OS24:00(2階はOS23:30)
休み なし
100席
カード
駐車場 あり
URL https://teppo.jp
※記載した内容は2019年7月23日現在のものです。
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