肉として使われるのは赤身、霜降りのバラ肉など。熊本ではレバ刺し、コーネ刺しなど珍しいものが食べられる店もある
馬肉は色が変わりやすいので、各店とも注文が入り、切る直前まで冷やしている。食感がよくなるように、繊維を断つように切る
スライスしたタマネギ、ネギ、おろしショウガ、おろしニンニクが添えられる。醤油は甘口かつ濃口の醤油が使われる
上通り近くにある『杏屋』は、元々民家だった空間を改装したお店。木で囲まれたやわらかな空間は、ランチタイムも夜の食事タイムも賑わっている。
「かしこまっていない、ゆるい空間ですから、年齢層も性別も関係なく、みなさんに気軽に利用していただいていますね。若い方たちにも、入りやすいお店にできればと思っています。僕も、ゆるい感じでやらせていただいていますが(笑)」。
お話してくださる店長・畠田佑輝さんもにこやか。このおだやかな空間の中で、『馬刺し』も気軽に食べられるのだ。
「熊本っぽい料理としては、『馬刺し』、『馬焼き』、『馬肉のカルパッチョ』などがありますが、その中でも『馬刺し』は人気ですね」。
『馬刺しの4点盛り』を作っていただいた。冷蔵庫から出される馬肉の塊は、切る前からきれいだ。
「卸屋さんにお願いして、状態のいい馬肉を仕入れています。4点盛りに使うのは、赤身、バラ肉、特選バラ肉、コーネです。一般的に、お店でも売られていて家庭でよく食べられているのは、モモの部分の赤身ですね。やわらかくて旨味もあります。サシがはいっているバラ、バラよりもランクが上なのが特選バラ肉です。コーネは馬のタテガミの下あたりの脂肪の部分です。部位によって違う味わいや歯応えを楽しめますね」。
それぞれの塊を素早く切っていく。
「卸屋さんから届いたものは、あらかじめ筋などを取っておき、スライスして出すだけの状態にしておきます。注文が入ってスライスする時、馬肉は繊維が多いので、その繊維に沿って切ってしまうと口の中で引っかかる感じがするんです。ですから、食感をよくするために、繊維を断つように切ることが必要ですね。そして、『馬刺し』は新鮮で、切ってすぐのものがいいです。時間が経ってしまうと、色が変わって黒くなったり、中の水分が抜けて、パサパサした旨味の少ないものになってしまいます」。
スライスしたタマネギをのせた皿に盛りつけられ、ネギ、おろしショウガが付く。
「おろしニンニクもお出しできますが、醤油にネギと、おろしショウガを入れて食べるのが、それぞれの味の違いがわかりやすいかもしれませんね。醤油は甘めで、味の濃い刺身醤油がよく合います」。
やわらかな赤身も、口の中でとろけるバラ肉も、もっちりとした歯応えのあるコーネも濃厚な味わい。濃い味わいの醤油がさらに引き立てる。サシが入っている部分も、しつこい脂ではない。
「脂の質も、牛肉などとは違って低カロリー。女性の方もがっつり食べられますね。うちでは、赤身でコーネをはさむように盛りつけているんですが、赤身とコーネを一緒に食べると、高級な霜降り馬刺しのような味わいになりますよ。コーネは時間が経つと溶けてしまうほどで、脂の旨さがありますからね。赤身は脂が少なくてやわらかいですから、年配の方の中には、『赤身のほうが美味しいね』と言われる方もいらっしゃいます」。
切った馬肉の端の部分を味見される畠田さん。熊本県のご出身ということだが、幼い頃に馬刺しを食べたことはなかったとのこと。
「うちでは食卓にのぼらなかったので(笑)、料理の仕事を始めてから食べるようになりました。独特の風味もあるし、脂はさっぱりしているし、とても美味しいものだと思いましたよ。今は、熊本の方でもひんぱんに食べているというわけではなくて、ちょっと特別な時に食べるものなのではないでしょうか?」
モモ肉の赤身、サシがはいっているバラ肉、バラ肉よりもランクが上の特選バラ肉、馬のタテガミの下にある脂肪のコーネを使う
時間が経つと色も変わるので素早く切っていく。肉の繊維を断つように切ることで、食感をよくしている
薬味としてネギ、おろしショウガ、醤油は甘めで、味の濃い刺身醤油が付く。お願いすればおろしニンニクもつけられる
元々民家だった空間を改装したお店は、木で囲まれたゆるりとした空気感。昼間はパスタなどのランチメニュー、夜は焼酎に合う和洋メニューを食べられる。かしこまらない雰囲気の中で気軽に楽しめる『馬刺し』は、3点盛り(特選バラ肉・バラ肉・赤身)、4点盛り(3点盛り+コーネ)。刺身でも食べられる馬肉を焼く、『石岩焼きの馬焼き』も人気。