佐伯で一般的な『ごまだし』にはエソが使われるが、タイなどを使った『ごまだし』も作られている。米水津(よのうず)ではイリコが一般的
醤油、みりん、酒などが主な調味料。その配合や、隠し味を加えることなどで、作り手によって味が変わっていく
『ごまだし』は、エソの身、すりゴマ、調味料を合わせてできあがり。その時の合わせ方や熱の加え方によっても味わいは変わる
佐伯から車で30分ほど南にある米水津(よのうづ)。ここも魚介が豊富に揚がる港として知られている。その地で2009年に店を開いたのが金田輝正さん・真智子さん夫妻。輝正さんは漁師で、店の屋号『豊洋丸』は輝正さんの船の名前だ。
「当初はごまだしを作る作業場として使っていたのですが、近所の方が、『ここでも『ごまだしうどん』を食べられるようにしなさい』とテーブルにする木材などを持ってきてくれて…こんなお店になりました(笑)」。
そんなふうに、地域のつながりが強い港町。金田さん夫妻が作る『ごまだし』も、地域の結びつきがなければ生まれなかったものだ。
「『ごまだしうどん』は、子どもの頃から家族と一緒に食べていました。ここから3kmほどのところに、小浦地区というのがあるんですが、そこの婦人会のみなさんが作っていた『ごまだし』が美味しかったんです。粟島神社のお祭りがある毎年1月15日、年に1回だけ売っていましたが、すぐに売切れるほどの人気でした。その方々に作り方を教えていただいたんですよ。だから、私たちが作る『ごまだし』の味のベースは、その婦人会の味ですね」。
そうやって作り始めた『ごまだし』は、佐伯エリアでよく作られているものとは、大きく違うところがある。エソではなく、イリコを使っているのだ。
「このあたりでは、イリコを使うことのほうが多いんです。イリコは、カタクチイワシをボイルして乾かしたもの。カタクチイワシは夏の前によく獲れますが、僕が獲ってきたカタクチイワシをイリコにしているんです。そのイリコの頭、はらわた、骨を取ります。大きいサイズのものについては、皮もとって身だけにします。ここできれいにしておかないと、お湯で溶いた時にざらっとした感触が残ってしまうんですよね。イリコの身をほぐす作業は、漁に出れない雨の日などにラジオを聞きながら黙々とやってます。瓶詰めにした『ごまだし』10本分(ごまだしうどん約50杯分)のイリコをほぐすのに2時間くらいかかるでしょうか。作業が終わった後は、爪の中にイリコの粉も入ってしまうので、手を出すと猫が寄ってきますよ(笑)」。
丹念にほぐされたイリコの身にはさらに手が加えられ、ごまだしが作られる。ここから先は、真智子さんの仕事だ。
「ほぐしたイリコの身はカラカラに炒ってからフードプロセッサーで粉にします。この粉だけでもふりかけになりますね。
そこに炒ってすったゴマ、醤油とみりんを加えて混ぜます。醤油は大分で作られているものですね。
うちの『ごまだし』は、どろどろではなくて液体に近いサラサラですね」。
イリコのごまだしで、『ごまだしうどん』を作っていただいた。
「うどんを茹でて丼に入れ、そこに大さじ3杯の『ごまだし』と、エソなど地魚で作ったすり身の天ぷら、ネギ、ゴマ、海苔をのせます。
最後に静かにお湯を注いでできあがりです。『ごまだしうどん』は、やわらかい麺のほうが『ごまだし』によくからんで美味しいですね」。
魚の風味が強くない、さっぱりと香ばしい味わいはとても食べやすい。
「イリコの『ごまだし』は魚臭くないので、魚がきらいな人も『美味しく食べれたわー』と言ってくださいますね。『ごまだしうどん』が好きな子どもたちも多いですよ。よく食べにきてくれたりします。このあたりでは給食にも出ますからね。地域の大切なものなので、婦人会の方々と子どもたちが『ごまだしうどん』を一緒に作ったりもしているようですね」。
こちらの人気メニューであるボリューム満点の海鮮丼。一緒に付いてくる冷や奴にも『ごまだし』が使われている。
「豆腐の上に『ごまだし』をかけて、シラスをのせて、ネギとゴマものせて…美味しいですよ。また、お茶漬けも美味しいので、『ごまだし』の食べ方としておすすめしています。手軽で美味しいんです。梅干しともよく合いますよ。自分たちが食べる時は何ものせずに、『ごまだし』のみの茶漬けですが(笑)。あとは、卵かけごはんにかける醤油の代わりにしてもいいですね。『ごまだし』は簡単に食べられて栄養が取れますからすばらしい食材ですね。家を離れている大学生の長男にも、いつもお米と『ごまだし』を送っていますよ。友人にも好評みたいです(笑)」。
きれいな海と、手間から生まれる『ごまだし』のやさしい味わい。それは、初めて食べる息子さんの友人にも確実に伝わっているのだ。
カタクチイワシを加工したイリコを使用。写真のように頭、はらわた、骨を取った後のものをフライパンで炒り、すって粉状にする
大分産の醤油とみりんを合わせたものを使う。シンプルな味付けにすることで、イリコの風味が引き出される
粉状にしたイリコ、炒ったゴマをすったものに調味料を混ぜ合わせてできあがり。こちらの『ごまだし』は液体に近いサラサラだ
漁師の金田輝正さんと奥様・真智子さんのお店。『ごまだし』には、金田さんが獲ってくるカタクチイワシを加工したイリコを使用。イリコの頭・はらわた・骨を取り除いて炒り、ゴマや調味料と合わせる。それを使った『ごまだしうどん』は、魚が苦手な人でも食べやすいさっぱり味だ。金田さんが獲って来る魚介を使った『海鮮丼』や『しらす丼』も人気。