大根、ゴボウ、レンコン、昆布、キクラゲ、凍りこんにゃくなどがよく使われる。具材の数は奇数と決まっている
塩、砂糖、酢、出汁などを合わせて作る。二杯酢、三杯酢などとは少し異なり、『あちゃら漬け』用の味わいだ
切った具材をゆでるなど下ごしらえした後、唐辛子と一緒に甘酢に漬ける。一晩ねかせることで具材と甘酢の味が馴染む
食を通して地域の方々の健康を守る活動や博多の食文化を伝える活動を続けている原多恵子(はらたえこ)さん。日本食生活協会が認定する郷土料理スペシャリスト師範の資格もお持ちだ。
「料理が好きなだけなんですよ(笑)」
まわりにいる人を元気にさせてくれるステキな笑顔だ。
郷土料理スペシャリストは“食文化の継承を図るとともに、日本の食に対する興味や関心を高め、さらなる郷土料理の活性化に寄与すること”を目的として認定が行なわれている資格。原さんに福岡の郷土料理である『あちゃら漬け』についてうかがった。
「『あちゃら漬け』は、家に親戚の人たちなど集まるお盆の時によく作られてきた料理です。お客さんに出す料理ですね。お客さんのお酒のつまみで、私の母も一度にたくさん作っていましたよ。『あちゃら漬け』はお盆の時はいつでも出しますが、精進落としが終わった後は『タラわた』(タラの内臓とエラの干物を戻した後で甘辛く煮込んだもの)を出していましたね。『あちゃら漬け』は、福岡のあちこちで作られていたようですし、場所によって材料や味は違うようです。私は母が作っていた『あちゃら漬け』と『タラわた』が大好きでしたね」。
実際に『あちゃら漬け』作りを教えていただいた。
■具材
「今日使う具材は、昆布、キュウリ、ゴボウ、レンコン、ナス、ニンジン、キクラゲ。一番基本的なものです。白瓜(しろうり)、凍りこんにゃく、花麩(はなふ)など使うことも多いですね。いもがらを入れることもあります。『あちゃら漬け』の具材は奇数にしなければいけないと言われています。縁起をかついでいるのかもしれませんね。家庭料理ですから、その時にあるもので作っていますが、根菜類が中心になります」。
■具材の下ごしらえ
「レンコンは皮をむいて薄く切り、酢水に漬けた後でゆがきます。ゴボウは皮をこさいで切り、ゆがきます」。
「ニンジンは皮をむいて切り、ゆがきます。ニンジンは花形にしてもきれいですね。ショウガは皮をむいて千切りに、ナスは切って塩揉みし、キュウリはとげをこさいで切ります」。
「昆布は切って結んで煮て、キクラゲは水でもどしておきます。準備になかなか手間がかかるんですよ(笑)」。
■甘酢
「甘酢は塩、砂糖、酢、昆布出汁を合わせたものです」。
「この甘酢は『あちゃら漬け』用のもので、甘過ぎず、酸味も強くなくて…ちょうどいい感じの味です(笑)」。
■作り方
「具材を下ごしらえした後、唐辛子を加えた甘酢で和えます。ちょっと時間をおいたほうが、味が馴染んで美味しいですね」。
原さんの『あちゃら漬け』。甘みと酸味ですっきりとした味わいだが、ぬくもりを感じる一皿だ。
「簡単なようですが材料を別々に下ごしらえしないといけないからなかなか大変なんですよ(笑)。素朴だけど、時間と手間がかかる料理です。でも、それこそが家庭料理であり、郷土料理ですね。身近にある食材を使い、工夫して作られてきた郷土料理はすごいと思います。『あちゃら漬け』もそうですね。材料は身近にあるものです。酸味があることで塩分が少なくていいですし、歯応えのある根菜が入っていますのでしっかり噛むことが必要となります。どちらも健康維持に大切なことです。『あちゃら漬け』は身体にいい料理でもあるんです。お盆じゃなくても暑い時期にはよく食べていますしね」。
原さんは『あちゃら漬け』をはじめ、博多の食文化を多くの方に伝えるため、料理教室などを行なっている。
「男の料理教室や親子料理教室などで『あちゃら漬け』を作ることもありますよ。まずは楽しんでいただくこと、美味しく食べていただくことが大事です。その中で、料理にまつわる博多の文化や伝統も伝えていきたいと思っています。『あちゃら漬け』は大切な博多の料理ですから、ずっと伝えていきたいですね」。
福岡市博多区御供所町で、男の祭である『博多山笠』を陰で支え続けてきた原さん。今は博多の食文化を日々支えている。
取材時は、昆布、キュウリ、ゴボウ、レンコン、ナス、ニンジン。白瓜、凍りこんにゃく、花麩、いもがらなどを使うことも多い
塩、砂糖、酢、昆布出汁を合わせる。甘過ぎず、酸味も強過ぎず、ほどよい味わいの『あちゃら漬け』専用の甘酢だ
具材を下ゆでしたり塩揉みしたり別々に下ごしらえした後、唐辛子を加えた甘酢で和える。すこし時間をおいて味を馴染ませる