クチゾコの身が持つ旨味を引き出すために、煮汁の素は、出汁、酒、醤油といったシンプルな調味料のみだ
クチゾコの身の特徴であるふっくらと、とろけるような食感を壊さないように、強い火ではなく小さな火で静かに煮る
唐揚げなど、煮付け以外の料理も美味。脂ののった11〜12月には、刺身を食べられる店もある
店長・土海高資さんは福岡県久留米市出身。久留米市は有明海に近い場所ではあるが、海に面してはいない。
「クチゾコという魚は、私は知らなかったんですよ。有明海沿岸の街の方々には、昔からよく知られている魚なのですが、形が靴の底に似ているからクチゾコというのも面白いと思いました。唐揚げにする時などは3枚におろしますが、厚みのない魚なのでおろしにくいし、骨もやわらかいからやりにくいですね」。
この地方で一番知られている『クチゾコの煮付け』作りは、ウロコ取りから始まる。
「クチゾコのウロコは細かいですね。裏側の白いほうのウロコは白くて見えにくいので、手でさわりながら感触を確かめ、きれいにしていきます。その後、内臓を取りますが、クチゾコの内臓は小さいですね」。
次に、鍋で煮汁を作る。材料は酒と醤油だけだ。
「クチゾコの煮付けの味付けは、酒と醤油だけで、砂糖など他のものは使いません。佐賀の醤油は、甘味を持っていてしっかりした味わいですから、他の調味料を入れる必要がないんです。シンプルな味付けで、クチゾコ本来の旨味を活かして、それを楽しんでいただきたいと思っていますから」。
煮汁の中に下準備したクチゾコを入れ、それから火にかける。
「熱い煮汁の中に魚を入れると、皮が破れたり、身がばらばらになりやすいんです。小さい鍋だとくずれやすいので大きな鍋で煮ますね。また、煮汁が多過ぎても魚が鍋の中で踊ってくずれてしまうので、ヒタヒタになるくらいに。
内臓を取った腹の部分が割れてきたら、できあがりです。炊き過ぎてばらばらになってしまわないように、ほどよく煮ることが必要ですね。ただし、春から夏にかけてのお腹に卵をもっているメスは、卵に火が通るように、少しだけ長めに煮ていますね」。
醤油の甘味がふわりと、やわらかいクチゾコの身味を引き立てる味付けだ。オスももちろん旨いが、メスをいただくことができれば、より幸運かもしれない。
「クチゾコの煮付けをはじめ、ムツゴロウの蒲焼きなどもそうですが、佐賀の味は少し濃い目のものが多いかもしれません。それが焼酎によく合うんですよ」。
注文が入ってから作られるクチゾコの煮付け。いつでも食べられるメニューにのっているわけではないとのこと。
「いいクチゾコが入った時だけ、『今日のおすすめメニュー』として煮付けをお出ししています。地元の方ではなく、遠くから来られた方からは『クチゾコありますか?』と尋ねられることも多いし、人気ですよ。地元の有明海沿岸の方の中には、見飽きている方もいらっしゃるようですが(笑)。最近、魚の食べ方が上手な方が減っていますが、佐賀の方は魚を食べるのが上手だと思います。クチゾコの煮付けも、きれいに食べてくださいますよ。エンガワの部分は小骨が多いですが、そこもしゃぶるようにしてきれい食べてくださいます。うれしいですね」。
オーナー・河井澄さんが、おもしろいクチゾコ料理についてもお話ししてくださった。
「クチゾコは煮付けの他に、唐揚げ、ムニエル、塩焼きなどにもできます。クチゾコには色々な種類がいますが、その時の旬のものが美味しいですね。今日、煮付けたのは特に身が美味しいクロクチゾコです。うちでは、7月から秋にかけて、『クチゾコの一夜干し漁師風』というクチゾコ料理も提供しています。これは、夏によく獲れるササクチゾコを、薄い味付けで煮付けて一度乾かし、再び焼いて食べるというものです。知り合いの漁師さんから教えてもらったんですよ。初めに聞いた時、身がばらばらになるんじゃないかと思いましたが、これが美味しくて、焼酎に最高に合うんです! 有明海はプランクトンも豊富な自然豊かな海です。その恵みが育てたクチゾコをぜひ食べていただきたいですね」。
酒と醤油だけの味付けで、クチゾコの味を引き立てる。甘味を持ち、しっかりした味わいの佐賀の醤油が味の決め手となる
煮汁の中に下準備したクチゾコを入れ、それから火にかける。煮汁はヒタヒタくらいにして、皮や身がばらばらにならないように煮る
『クチゾコの一夜干し漁師風』。夏によく獲れるササクチゾコを、薄い味付けで煮付けて一度乾かし、再び焼いて食べるというもの
しっとりと落ち着いた和の空間で、その季節の旬の食材を使った和食をいただくことができる。有明海や玄界灘の新鮮な魚介を使った『特選刺身盛り合せ1人前』2380円は人気の一品だ。クチゾコの煮付けやムツゴロウの蒲焼きなど、有明海ならではの魚介を使った珍しい味も楽しみたい。個室は、宴会はもちろん、法事、接待などにも利用可能。