九州の味とともに 夏

この料理の"味のキーワード"

鶏肉

一番好まれているのは骨なしもも肉。その他、骨つきもも肉、むね肉、手羽先、手羽元、砂ずりなども使われている

タレ

ニンニク、ショウガ、塩、醤油を基本に、野菜、果物、香辛料などを合わせて、各店独特のタレに鶏肉を漬け込む

揚げ方

漬け込んだ鶏肉にデンプン(片栗粉)をまぶして揚げる。継ぎ足しながら使う油も調味料の1つとして考えられている

語り 中津からあげ 総本家 もり山 森山文弘の「中津からあげ」

二代目・森山 文弘(もりやま ふみひろ)さん

大きな看板がなければ店とはわからずに前を通り過ぎてしまうかもしれない。しかし、休日ともなれば多くの人でにぎわう。ここが1970年創業の『中津からあげ 総本家 もり山』。中津で初めてからあげを提供したことで知られるからあげ専門店だ。「店は創業当時のまま。ホームページはきれいにしているのでギャップがすごいでしょ?(笑)」と二代目・森山文弘さん。父親である創業者の森山韶二(もりやま しょうじ)さんと一緒に、変わらない味を作り続けている。

『中津からあげ 総本家 もり山』のからあげの味を作るための基本は鶏肉、タレ、油の3つなのだそう。

●鶏肉
「鶏肉は鮮度が一番重要です。新鮮な鶏肉を使っていますよ。その日のうちに切り、塩と数種類のスパイスで下味をつけてから秘伝のタレをもみ込んで一晩ねかせ、タレの味を染み込ませます。そして、次の日にからあげにするのです」。

●タレ
「タレは塩味ベースのニンニクダレです。ニンニクは香りと旨味が強い小ぶりの九州産。大量に皮をむくのですが、刺激が強くて手が痛くなりますよ(笑)。その他、ショウガや果物なども合わせています」。タレの撮影をお願いしたが、「秘伝のタレなので撮影NGです。タレが入っている器の写真でお願いします(笑)」とのことだった。

●油
揚げ油が味に関係するというのはあまり聞くことのない話だが、油は重要な役割をもっているようだ。「油は菜種白絞油。新しい油は鶏肉に染み込んだ味や肉の旨味を吸い取ってしまうんです。骨つき肉を揚げると、骨から出汁が出ます。だから油にも鶏の旨味が含まれているということなんです。この油がないとうちのからあげの味は出ないのです。毎日継ぎ足しながら使っているんですよ。実はからあげにとって油が一番重要ではないかと思ったりもします。油の状態でからあげの揚がり方も変わりますね。いつも一番いい状態になるように調整しています。今日の油もいい感じですよ(笑)。うちのからあげは全国に発送できるのですが、タレをもみ込んだ状態で発送しますから、お客様に揚げていただかなければなりません。家庭だと油が全然違うので、残念ながら完全に店と同じ味にはならないですね」。

一番人気の骨なしもも肉のからあげを作っていただいた。タレをもみこんだ肉に片栗粉をまぶし、ザルにいれてふるい、揚げる。

注文が入ると、タレをもみ込んでおいた鶏肉に片栗粉をまぶし、ふるいにかけて薄衣にする
油に投入する

「ザルでふるうのは薄衣にするためです。片栗粉の衣は薄い膜のようになってタレの味が染み込んだ鶏肉の味をとじこめてくれるんです。180度の油に入れて4分半ほど。揚げ方としては肉同士がくっつかないようにすることかな。泡の出方と音で揚がり具合を判断していますね」。

泡の出方や音に注意しながら揚げる
油から出し、余熱を使って仕上げる

美味しそうに揚がったからあげ。すぐに食べようとすると森山さんから「待った!」がかかった。
「揚げたては熱くて本当の味がわからないと思うんですよ。15分後ぐらいが食べ頃です。車で買いに来られた方は、家に着く頃が、ちょうど食べ頃になると思います。ただ、うちのからあげはニンニクが効いていますし、車にのせると3日くらいはにおいが抜けないんですよね。密閉できるビニール袋などを試したこともあったのですが、蒸れてしまって美味しくなくなるんです。車で来られる方、すみません!美味しいからあげのために、ちょっとだけ苦労をお願いします」。
15分後、口にすると熱々だがしっかりとした味わいが感じられる。あっさりした塩味の中に広がるニンニクの風味とコクのある味わい。これが、半世紀に近い歴史を持つからあげの味だ。
「もみ込むタレは、ベースは同じですが部位によってちょっとずつ調整しています。いつも私が心がけているのは、食べる人の気持ちになって作ること。ひょっとしたら、目の前にいるお客さんは、中津で初めてからあげを食べる方なのかもしれません。そんな方にがっかりしてもらいたくないのです。中津にはからあげを出す店はたくさんありますが、その方にとってはこれから食べるうちのからあげ=中津からあげになるかもしれません。常にそう思いながら、丁寧に作り続けていきたいと思っています」。
揚げてから15分後に食べるという他にも、美味しい食べ方を教えていただいた。「何もせず、からあげ単体で食べていただきたいですね。味がしっかりついているのでマヨネーズやポン酢など不要です。レモンを絞るとレモンの味がせっかくのからあげの味を台無しにしてしまいます。この味はおにぎりに合いますね。焼酎にもよく合います。中津ではおやつ感覚で食べられることも多いですね。衣に味があるのではなく、肉に味があって、それを衣が包み込むから冷めたからあげも美味しいんですね。私はあまり推奨してはいませんが(笑)、甘辛く煮て食べたりとか、からあげ茶漬けなども中津ではよく食べられています」。

取材班のために揚げてくれたからあげはお皿の上に山盛り。骨なしもも、砂ずり、手羽先で全部で1kgほどだ。
「中津だとこれで3人前くらいですかね。骨なしは1コ30gくらいですが、10コくらい食べるのは普通。みなさんたくさん食べられます。うちにも80歳を超えているお客さんも多いんですよ。うちのからあげは見た目よりあっさりしていますしね。中津の方は本当にからあげ好きですね(笑)。特に忙しいのはお盆とお正月で、1月2日が最高に忙しいです。帰省の方もいらっしゃるからでしょうね」。

実は森山さんは、以前は東京でまったく違う仕事をしていたとのこと。中津に戻り、からあげ屋を引き継いだのだ。
「私がやらなければ父親が作りあげ、たくさんの方に愛されているからあげが一代限りで終わってしまうと思ったのです。心を込めて作ることと合わせ、『こうしたらもっと美味しくなるかも』という変な下心をもたないことが大切かもしれません。いろんなバリエーションもありますが、やはり変わらず残ってきたものが美味しいからあげなのだと思います。父親からの教えである『商売に関して一喜一憂しないこと。辛抱づよくしっかりと続けていくことが大事』を肝に命じています」。

森山韶二さん(左)と文弘さん(右)

この料理人こだわりの「味のキーワード」

鶏肉

鶏肉は鮮度が一番重要ということから、新鮮な鶏肉を使用。その日のうちに下ごしらえし次の日に揚げられるように準備する

タレ

タレは塩味ベースのニンニクダレ。ニンニクは香りと旨味が強い小ぶりの九州産だ。鶏肉に下味をつけた後で、タレをもみこむ

揚げ方

タレをもみ込み一晩ねかせた鶏肉に片栗粉をまぶし、ふるいにかけて薄衣にする。油は継ぎ足しながら使う、鶏の旨味を含んだ油だ

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中津からあげ 総本家 もり山 ニンニクが香る塩味ベースのからあげ

1970年創業。中津で初めてからあげを提供した専門店として知られている。タレは香りと旨味が強い九州産ニンニクを使った塩味ベースのニンニクダレ。肉にもみこんで一晩ねかせて味を染み込ませた後、開店以来継ぎ足しながら使われる油で揚げると、さっぱりとした塩味の中にもコクがあるからあげとなる。油にも鶏の旨味が含まれているのだ。

『骨なし(もも肉)』100g240円(写真は500g)
『砂ズリ』100g210円(写真は200g)
『手羽先』100g220円(写真は200gほど)
開店当初からのフライヤーもあるそうだが手入れが行き届いている店内
素朴な店構え。駐車場は道路の向かい側だ

中津からあげ 総本家 もり山

住所 中津市三光原口653
電話 0979-43-2056
営業 9:30~19:00
休み なし
カード 不可
駐車場 あり
URL https://karaage-moriyama.com
※記載した内容は2018年7月24日現在のものです。
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