基本的な材料はエゴノリとイギス。産地や採れる海の深さによって質が異なるので、天日に当てたり、ブレンドしたりして調節する
材料を湯に入れて煮込み溶かす。材料と水の割合もできあがりを左右する。丹念に混ぜることも不可欠
煮溶かしたものを裏ごしして小判型に成形。かつては一枚ずつ手作業だった。冷えて固まったらクルクルと丸めるのが博多流
「『おきゅうと』は祖母が作り始めて、私が3代目。昭和10年創業です」。
成形など機械化がすすんだ部分もあるが、3代目・南里一正さんは創業以来の味を守り続けている。奥様の文子さんと一緒に『おきゅうと』についてお話ししてくださった。
まずは材料となる海藻について。
「国産のエゴ草(エゴノリ)100%で作っています。昔は博多湾をはじめ玄海でも採れていましたが、今では地草(じぐさ)は採れないので、石川とか新潟とか佐渡産のものですね。産地や採れる海の深さによって、色も質も違うんですよ。海の底のほうに生えているものは、太陽の光が届いていないから力強くて色が黒いんです。ちなみに、深いところにあるエゴ草は、海女さんが潜って採るので値段も高いです(笑)」。
こちらでは、様々な質の違うエゴ草を何種類かブレンドして材料にしている。
「水洗いして汚れなどを取ります。エゴ草は一度水洗いして天日に当てると、色は白くなり香りは薄くなります。できあがった時の色と香りを一定にするために、微妙な調整を行なうんですよ。黒すぎても白すぎてもだめなんです」。
『おきゅうと』の材料はエゴ草と水だけ。初めにじっくりと煮込んでいく。
「1時間以上煮てエゴ草を溶かします。エゴ草の量と水の量の割合が大切ですね。割合や煮方は、原料の状態で調節します」。
釜の中からは海の香りが広がる。そして、どろどろになったエゴ草を裏ごしして、成形する。
「裏ごししないとなめらか感が出ませんね。裏ごししたものは小判型に伸ばして冷やします。冷えると固まるんですよね。今は機械で小判型にしてコンベアーで流れていきますが、昔は、おたまに掬って一枚一枚伸ばしていたんですよ。なぜか、博多は小判型です」。
冷えた小判型の『おきゅうと』は重ねてパッケージされるものと、クルクルと丸め筒状にしてパッケージされるものに分かれる。
「丸めたものが元々の形です。昔は駅弁売りのように木箱に『おきゅうと』をのせて売り歩く『おきゅうと売り』がいました。小学生もよくやっていたようです。丸めたもののほうが乗せやすいし売りやすいですからね。
その様子を表現した博多人形もありますよ。『おきうとワイとワイ、きうとワイ』というかけ声もあったようです」。
南里商店が『おきゅうと』につけたキャッチコピーは、『さっぱりおいしか 博多ん味』。その通りに、ポン酢やカツオ節と一緒にいただくとツルリと喉越しもいい。
「テングサで作るトコロテンとは違って、『おきゅうと』はもっちりという食感も楽しめますよね。温度でも食感が違いますし、冷蔵庫で一晩ねかせて冷やしたほうが美味しいと思います。熱を加えれば溶けてしまいますから、もちろん生食です。『みそ汁に入れたらなくなってしまった』というお客さんもいらっしゃいましたよ(笑)。くせのある味ではないですし、海藻でできた自然食品でカロリーもほぼゼロで身体にいい。一日一回食べるとお通じもよくなりますよ。けれど、硬くもないし軟らかくもないし味もあるようなないような…「なんかいな?」って食べ物ですよね(笑)」。
新潟界隈では、やはりエゴ草を使って作る『おきゅうと』に似たものがあるのだそうだ。 「『いごねり』というものがあるんですが、あちらのは色が黒いですね。煮る前に天日に当てたりしないようです。それから裏ごしする時の網の目が荒いので、食感が違います。材料は同じですが、博多のほうが上品に仕上げていますね(笑)。あちらの人に言わせると、博多のは上品でなめらか過ぎてものたりないんだそうです」。
一般的な食べ方の他、おもしろい食べ方も教えていただいた。
「小判型ではなくて、厚めのものも作っているんですが、これは酢みそをつけて刺身風に食べるおきゅうと。ポン酢などで食べる定番のおきゅうと。野菜と一緒にマヨネーズやゴマドレッシングをかけるサラダ風のおきゅうと。軍艦巻きのようにしてごはんと一緒に食べるおきゅうと。最後は、きなこと黒蜜をかけてわらび餅風のデザートに。おきゅうとのフルコースです(笑)。海藻だけでできた自然食品でおなかはふくらんで、カロリーは低い。身体にいい食べ物なので、いろんな食べ方で楽しんでいただきたいですね。パン食の方でも、サラダのようにすると美味しいですよ!!」。
※本文中では「おきゅうと」と記載していますが、南里商店の商品名は「おきうと」が正しい表記となります。
石川、新潟、佐渡など国産のエゴ草(エゴノリ)。産地や生育条件によって質の違うエゴ草を何種類かブレンドする
エゴ草と水だけでじっくりと煮込み、エゴ草を溶かす。エゴ草の量と水の量の割合ができあがりの味の決め手となる
裏ごし後、機械で小判型に伸ばして成形し、冷えて固まったら手作業でパッケージ。平たいまま重ねるものと丸めた筒状のものがある
昭和10年創業。創業以来変わらない味の『おきゅうと』をはじめ、『辛子明太子』、『いわし明太』など博多の味を作り続けている。いずれも厳選された材料を使い、目指しているのは“お客様に本物の味をお届けする”こと。本葛を使った『ごま豆腐』、『もずく』、あおさやもずくが入った『海藻さしみ(さしみこんにゃく)』、『博多明太コロッケ』なども人気の品。
住所 | 福岡県福岡市中央区那の津3-15-3 |
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電話 | 092-737-2627 |
営業 | 10:00〜18:00 |
休み | 土曜、日祝日 |
カード | 不可 |
駐車場 | あり |
URL | http://okiuto.com |