『干しわらすぼ』を木槌などでたたく。中にある骨を砕いてやわらかくする。炙った後で食べやすくするためだ
反ったり波をうったりしないようにおさえたり網ではさんで焼く。何もつけずにそのままかじるのが基本的な食べ方
春から夏にかけての旬の時期は刺身や、生の身を甘辛く炊いた『わらすぼ』を食べることもできる。味噌汁に入れる地域もあるとのこと
1969年に開店した『かっぱ亭』。お店の壁面や店内には、有明海の魚介をかたどったオブジェが飾られている。
「全部自分で作ったとですよ。外のはポリプレート製、店内のは新聞紙を刻んでミキサーにかけて粘土みたいにしてかためて色をつけたもの。有明海の魚介は見た目が少し変わっとるので、親しみやすくしようという理由もあります。見た目は変わっとるけど、食べれば美味しいけんね(笑)」。
お料理はもちろん、電飾で華やかなお店の看板、メニューなどまですべて手作りされているのは店主・長谷川洪治さんだ。
「なんでもおもしろいほうが楽しいけんね。おもしろいと言えば、『わらすぼ』は見た目も顔もおもしろいもんね(笑)。よその人が生きとるのを見たら、肌は紫色やし顔はグロテスクやしね。でも、それが美味しいからおもしろいよね。昔は有明海と言えばむつごろうやったけど、最近は『わらすぼ』人気がでてきたよ(笑)」。
そう言って見せてくださったのは干した『わらすぼ』。これも手作りだ。
「干潟に行くといくつもの巣穴があいとるよ。それがむつごろうの穴なのか、カニの穴なのか、『わらすぼ』の穴なのかは素人にはわからんけど、漁師さんたちにはわかるんよね。その穴にめがけて『すぼかき』という先が曲がった道具を突き刺して『わらすぼ』をひっかけるんよ。
昔は漁師さんだけではなくて、農家の人はみんな「すぼかき」を持っていて、自分で獲って食べよったね。うちは、生きた『わらすぼ』を仕入れて『干しわらすぼ』を作っています。首のとこを切ってジゴ(内臓)を出して干すだけやけどね。『わらすぼ』は春先から夏がよく獲れるんやけど、梅雨の時期は干されんね。湿気が多いからか、干していると、身が全部に落ちてしまって骨だけが残るんよね。この事を『流れる』という言い方もするね。天気のいい日に干さんといかんね(笑)」。
長谷川さんおすすめの、『わらすぼの炙り』を作っていただいた。
「まず『干しわらすぼ』を金槌で叩きます。中の骨がかたいから叩いて骨を砕いてやわらかくするんよね。そして、塩、コショウやスパイスなどを合わせた特製調味料をふりかけるんやけど、表面は乾いとるからそのままふりかけても全然くっつかんのよね。だから表面に軽く油を塗ってからふりかけます。
全体にふりかけると味が濃くなりすぎるので、特製調味料をふりかけるのは片面だけやね。さらにふりかけたあと、軽く叩いて余分な調味料は落とします。あとは炭火で焼くんやけど、長い時間は焼かんよ。軽く炙る程度やね。あとね、くねっと反らないように押さえながら焼いていきます。そうせんとまっすぐにならんけんね」。
炙られた『干しわらすぼ』はそのまま皿にのせられる。
「『干しわらすぼ』を炙った後、切ってから出すやり方もあるんやけど、うちはそのままの姿で出しよります。このほうが形がわかるけんね。みんな驚くよ(笑)。そのままかじってください。頭まで食べられるけど、頭は少しかたいけん、じわっとゆっくり噛まんといかんよ」。
香ばしさと『わらすぼ』独特の旨味に、特製調味料のスパイシーな風味が加わって、焼酎がすすむ。
もう一品、『わらすぼの煮付け』も作っていただいた。甘辛い中に『わらすぼ』の濃い旨味が広がる煮付けも、まさに焼酎のつまみという味わいだ。
「煮付けは、生の『わらすぼ』をぶつ切りにして甘辛く炊いたもの。他にも、生をぶつ切りにしたものを入れた味噌汁などもメニューに出しとるよ。刺身なんかで食べる人もおったり、『わらすぼ』にはいろんな食べ方があるけど、干したのを炙るとが一番美味しいかもしれんね」。
長谷川さん手作りの『干しわらすぼ』は、お土産として買うこともできる。
「みんな自分で食べようということじゃなくて、人に見せるのがおもしろくて買ってくれるみたいなんよね。だから、前は1袋5本入りで売ってたけど、1袋1本入りも始めました(笑)」。
ご自身も『わらすぼ』をよく食べられるという長谷川さん。『わらすぼ』にまつわる興味深い話も聞かせてくださった。
「『わらすぼ』は生命力が強くて、首を切っても動きまわりよるし、頭だけになってもかみついてくるけんね。見るからに滋養強壮に効きそうやね。佐賀藩の殿様が、『干しわらすぼ』を戦の時に兵士たちに持たせていたという言い伝えもあるよ。名前なんやけど、干す時に、頭のとこに麦のわらすぼ(藁の穂の芯)を通して干しよったけん、『わらすぼ』という名前になったという説もあるよ。麦の収穫期と『わらすぼ』の一番の漁期は重なっとるもんね。地元では『じんきち』という呼び方もあるけど、『すぼ』と言うことが多いやろうね」。
長谷川さんはお店に訪れて佐賀ならではの味を食べたお客さんに、やはり手作りの“郷土料理認定書”をプレゼントされている。
「初段から七段まであるんやけど、1回来てくださるごとに段があがっていくんです。一度にいろんなものを食べても段は上がらんよ(笑)。それは一年を通していろんな味わいがあるから。何度も足を運んでいただいて、四季折々の有明海の魚介の味を楽しんでいただきたいと思っとるけんね」。
自家製の『干しわらすぼ』を金槌で叩いて中の骨を砕きやわらかくする。表面に油を塗って特製調味料をふりかける
炭火で軽く炙るが、身がそらないように押さえながら炙る。丸ごと皿に盛りつけられるのでそのままかじって食べる
生の『わらすぼ』をブツ切りにして甘辛く炊いた煮付け(写真)や、やはり生のものをブツ切りにして使う味噌汁もある
入口ではユニークなカッパの石像も出迎えてくれる居酒屋。居酒屋メニューに加えて、有明海の魚介を使ったものなど佐賀ならではのメニューも多いので、県外からのお客さんも多い。陽気な店主・長谷川洪治さんとお話しながら何を食べるか決めるのも楽しい。佐賀のご当地グルメ『シシリアンライス』950円は、昼も夜も食べられる人気メニュー。
住所 | 佐賀県佐賀市駅南本町4-24 |
---|---|
電話 | 0952-26-4244 |
営業 | 11:30~13:30/17:00~OS22:30 |
休み | 第1・3日曜日 |
席 | 60席 |
カード | 可 |
駐車場 | なし |
URL | http://kappatei.homepagelife.jp/ |