九州の味とともに 夏

この料理の"味のキーワード"

魚

佐伯で一般的な『ごまだし』にはエソが使われるが、タイなどを使った『ごまだし』も作られている。米水津(よのうず)ではイリコが一般的

調味料

醤油、みりん、酒などが主な調味料。その配合や、隠し味を加えることなどで、作り手によって味が変わっていく

合わせ方

『ごまだし』は、エソの身、すりゴマ、調味料を合わせてできあがり。その時の合わせ方や熱の加え方によっても味わいは変わる

語り 味愉嬉食堂 磯貝直利の「ごまだしうどん」

磯貝直利さん

「今日もいいエソが手に入ってよかったです!」とうれしそうなのは店主・磯貝直利さん。

新鮮なエソ。この大きさで一匹500gくらい

エソや『ごまだし』の可能性を探り続ける研究熱心な方だ。
「エソは白身魚で身はぷりぷり。けれど弱ると身がやわらかくなるので、いいエソかどうか触るとすぐにわかるんです。今日のはプリプリ。刺身にしても食べられるこの新鮮なエソで『ごまだし』を作ります。エソを焼いてから冷凍することもできますが、僕は、その日に獲れたものでしか作りません」。

ウロコを取り、頭や内臓を取って2枚におろす

さばきながらエソのお話をしてくださった。
「歯が鋭いから噛まれたら危ない、血が止まらないですよ。まずウロコを取って、頭を落として内臓を取ります。新鮮なエソはね、ほとんど捨てるところがないんです。卵は絶品で、焼いて食べます。頭は半分に割って、塩焼きにしたり、ヒレの部分を鳥の形に似せて「ツバメ」として紹介しています。エソは背骨がついている半身と、ついていない半身との2枚におろします。小骨が多いんだけど、肛門から後ろの部分は骨がなくて、唯一刺身にできるところですね。エソは1年を通して手に入る魚ですが、夏前の時期は卵をもっていて旨いです。11月くらいの脂がのってきた時も美味しいですね。料理しづらいので、釣り客も捨てて帰ってた魚ですが、今は値段も高くなってきてますね」。

おろした身を天火で焼く

2枚におろしたエソを天火で焼く。
「海の魚は普通皮から焼きますが、エソは身のほうから焼いていきます。焼いたエソの身は美味しいのですが、骨が多くてとても食べにくいんです。焼き魚にはむかないですね。

焼けたらすぐに皮をはぐ

焼き上がったら、すぐ皮を取ります。熱い時のほうが取りやすいですね」。

皮は捨てずに折りたたんでおく

皮は折りたたむようにしておき、後で使うとのこと。
「この皮も『ごまだしうどん』に使うんです。うどんを茹でる時に入れておくといい出汁が出ますよ。皮の魚臭さが旨さに代わるんです。皮にくっついてるマリンコラーゲンももったいないですから(笑)」。

丹念に身をむしる

磯貝さんのお母様も一緒に身をむしっていく。
「骨を取りながら身をむしっていくんです。骨がある場所は大体わかるから、それを考えながら取っていきます。手をかけるから美味しくなるのかもしれません。愛情がたくさん入ってるもんね(笑)」。

炒ってすったゴマとエソの身をすりあわせ、調味料を入れる

『ごまだし』は、エソの身をほぐしたもの、炒ったゴマ、醤油とみりんを合わせて作られる。

なめらかになるまですりあわせる

「ゴマとエソの身を1:1の割合で入れ、醤油とみりんを入れます。醤油は、エソの中骨と醤油を炊いて作る特製醤油なんです。だからエソのエキスもたっぷりですね。この醤油を作った後の中骨が骨せんべいみたいにならないか試してみたけど、これはうまくいきませんでした(笑)」。

“エソを少しも無駄にせず使い切りたい”という想いから、そんなことも試されていたのだ。

できあがった『ごまだし』

通常の『ごまだし』は、すべての材料を合わせる時に、加熱しながら練り上げるが、磯貝さんは加熱しない『生ごまだし』も提供している。
「練る時に火を入れると日持ちする保存食になりますが、そこで火を入れないのが『生ごまだし』です。金曜に作って土・日曜だけ店で出していますよ。熱を加えていない分、『生ごまだし』は、魚の風味とともにごまの香りがより際立ちますね」。

こちらの『ごまだしうどん』は、うどんと湯が入った丼に、『ごまだし』が入った器が別に添えられて、お客様へ出される。
「『ごまだし』は、お好みの量を入れてどうぞ。せっかく来てくださったんだから、好きなだけ食べていただきたいと思ってます。ただ、この器が一人分だと勘違いして、全部食べてしまう人がごくまれにいらっしゃいます。それは多すぎですね(笑)」。

通常のごまだしには熟成されたコクのある旨味があるし、『生ごまだし』には深いごまの風味が感じられる。丼の中には焼いた後で外されていた皮も、少しだけ添えられている。

うどんを茹でる時に先ほどの皮を加えると、皮からいい出汁が出る

「皮の脂がうどんと『ごまだし』をつないでいると思うんです。ただ、『ごまだし』の冷やしうどんもあるんですが、冷たいうどんにはこの皮はむかないですね。生臭くなってしまいます」。

冷たい『ごまだしうどん』以外にも、『ごまだし』を使った様々な食べ方を体験できる。オリジナルつけ麺、かけ、おにぎり(ごまだしを塗って食べる)、茶漬け…。『ごまだしうどん定食』を頼めば、すべてを味わうことができる。
「食べてくださる方が、どれを気に入ってもらえるかわからないから、いろいろ用意しています」。

このように、『ごまだし』に関して様々な試みもされている磯貝さん。いつから始められたのだろうか?
「B-1グランプリなどの影響もあって、地元の人には当たり前のものが、注目され始めました。改めて『何がいいんだろう』、『なぜ美味しいのだろう』というあたりから見つめ直して、研究したりとか新たな試みを始めました。漁師さんも『エソが一番美味しい』と言われるんですよね。これは、骨が多いから旨味も多いということなんです。ゴマを使っているのは、京都からの流れなのでしょう。そんなふうにやっていくとおもしろいですよね。まだまだエソや『ごまだし』の可能性を追求していきたいと思っています」。

最後に磯貝さんが感じていらっしゃる『ごまだしうどん』の過去・現在・未来についてお話をいただいた。
「『ごまだし』は、今はスーパーなどでも売られていますが、僕らの子どもの頃にはスーパーなんかありませんでした。だから、『ごまだしうどん』は、文化祭やバザーで食べていた味ですね。その前はめでたい日と普段の日で言うと、普段の料理。日常生活に密着した料理だったと思います。今はB級グルメの味、大分の町おこしの味というところでしょうか。お店でも食べられるようになりましたが、うどん専門店はなくて、定食屋さん的なところで出されていますね。名曲は時代とともに生き続けますが、名物も時代とともに食べ続けられていくもの、普遍的なものだと思います。『ごまだしうどん』は、宮崎の冷や汁と一緒で、食がすすまない時にでも食べやすい料理です。食べる人のことを気遣った料理だと思うんです。美味しいことはもちろん、『ごまだしうどん』のそんなところにも惹かれていますね(笑)」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

魚

その日に獲れた新鮮なエソを使う。ウロコを取ってから天火で焼き、皮をはいだ後、小骨を取りながら身をむしる

調味料

味付けは醤油とみりん。醤油は、焼いたエソの骨を醤油と炊いて作る特製の“エソ醤油”で、エソのエキスもたっぷり

合わせ方

エソの身と調味料を合わせてすり、そこに炒ってすったゴマを入れて火を加えながら混ぜ合わせる。火を加えない『生ごまだし』もある

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味愉嬉食堂『ごまだし』料理と出会える大衆食堂

「『ごまだし』に、ごまかしなしやね(笑)」と、元気な大将・磯貝直利さん。エソの骨は醤油と炊いてエソ醤油を作るなど、手間をかけて『ごまだし』を手作りしている。かけうどんの他、つけダレで食べるうどん、冷やしうどん、お茶漬けなど、様々なメニューで『ごまだし』の美味しさを味わえる。毎週土曜・日曜にはゴマの風味が際立つ『生ごまだし』も登場!

『ごまだしうどん』525円。『ごまだし』は好きなだけ入れて食べられる。様々な『ごまだし』の楽しみ方が味わえる『ごまだしうどん定食』は840円
『冷やしごまだしうどん』525円。自家製の麺つゆに『ごまだし』を入れ、うどんにからめていただく
『ごまだし茶漬け』420円。『ごまだし』と梅干しとの相性も抜群
オムライスや焼きそばといったメニューもある、地元の方々に愛されている食堂だ

味愉嬉食堂

住所 佐伯市中村南町7-25
電話 0972-23-7240
営業 11:00〜22:00
休み 火曜
18席
カード 不可
駐車場 あり
URL http://www.gomadashi.com/
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