九州の味とともに 夏

この料理の"味のキーワード"

下ごしらえ

殻から身を外し、よく洗って身を適当な厚さに切る。食べやすいように、切る前に、身に切れ目を入れることもある

味噌

麦味噌や米味噌に、醤油・砂糖・みりんなどを加えて味付けした、作り手自慢の特製味噌が使われている

焼き方

殻に身と肝をのせて特製味噌を塗って焼く。身の食感や甘みを引き出すため、焼き方にも工夫が施されている

語り 味処 井元 井元康浩の「ながらめの味噌焼き」

井元康浩さん

「父が魚屋を営んでいたので、私も小さい頃から魚が好きでした。美味しい種子島の魚介を気軽に食べられる店にしたいと思って始めたのが、この店なんです。競りの権利もありますので私が競りに行って、直に仕入れてきた魚介で料理をしています」。

平成元年にオープンの『味処 井元』。店主・井元康浩さんにお話をうかがった。

5月から8月が漁獲期であり、旬の『ながらめ』。こちらでは、様々な料理で食べることができる。
「味噌焼き、刺身、塩焼き、醤油煮、天ぷら、味噌炒め、味噌漬け、塩漬けなど、いろいろな食べ方があって、どれも美味しいですね。『ながらめ』を冷凍保存することで、味噌焼き、塩焼き、醤油煮などは年中食べられるようにしていますが、やはり新鮮なものが美味しいです。そして、刺身は旬の時期だけのものですね」。

身が収縮する生きている『ながらめ』

まだ動いている『ながらめ』を見せていただき、それぞれの料理を作っていただいた。
「殻の表面には年輪のような模様がついていますが、一潮(満潮と干潮の1サイクル)で1本増えるんです。それで年齢がわかるわけですね。寿命は6年〜7年と聞いています。

まず、生きた『ながらめ』を、タワシでよく洗い、

タワシでよく洗う

殻と身の間にスプーンを入れて貝柱を切り、身を取り出します。

身と殻の間にスプーンを入れる
ゆでて流水にさらしながら肝をきれいに洗う

そして、それぞれの料理に仕上げていきます」。

●味噌焼き
「身を、ほどよい厚みに切って殻にのせ、味噌を塗ります。

身を切って肝と一緒に殻にのせて味噌を塗る

基本的には、麦味噌に、みりんや砂糖を加えた色が薄い甘めの味噌を塗りますが、辛い味が好きな方には、色が濃い辛めの味噌を塗ることもありますね。オーブンで、220度で3分くらい焼きます。身がかたくならないように完全に火を通さないことが大事ですね。

オーブンで焼いてできあがり

オーブンのスチーム機能も使うので、より身がふっくらします」。

●刺身
「食べやすいように切れ目を入れてから切り、皿に盛りつけます。軽くゆでた肝も一緒に添えます」。

●塩焼き
「塩焼きは、切ったものを殻にのせ、塩をふって焼くだけです(笑)」。

●醤油煮
「醤油煮は、身の表面に、かのこ状の切れ目をいれ、水・醤油・砂糖で作った煮汁で煮ます。味が染みるように身を下にして煮ていきます。あまり煮すぎると固くなるので1分くらいですね。煮詰めた汁は、肝を煮るのに使ったりもしますよ」。

●天ぷら
「天ぷらは切って軽く塩をして、衣をつけて揚げます。肝も揚げますよ。天ぷらも、火が通り過ぎないように短い時間で揚げなければなりません」。

どの料理も、コリコリとした『ながらめ』の身の食感が独特。その後に感じる、身のやわらかさと甘味は、それぞれの料理ごとに違うものを楽しめる。
「『ながらめ』はアワビに似ていますが、アワビほど大きくなりません。ですが、アワビよりもやわらかくて、いろいろな食べ方が出来て美味しいです。歯応えがいいですよね。地元では『ひしお』と呼ぶ塩漬けもいいですよ。ちょっと強く塩をして、身も、わたもいれて発酵させたものです。チーズみたいに濃厚な味わいになりますね。それから、長く保存できるのが味噌漬け。身をゆでて干した後、味噌の中につけこんで作ります」。

競りにも出かける井元さん。いい『ながらめ』は、どこで見分けられるのだろうか?
「殻に他の小さな貝などがくっついていないものがいいですね。そういう貝がくっついていると、やはり栄養分が取られるみたいです。そして、厚みがあるもの。身が厚いのが良い『ながらめ』なのです。『ながらめ』は九州南部から南の海に生息していて、宮崎、枕崎、山川あたりでも獲れますが、どこも身が薄いようです。種子島の『ながらめ』は身が肉厚で質が良いんです。ですから、『ながらめ』は種子島でしか食べられていないようです。種子島の『ながらめ』の質が良いのは、黒潮の影響もあるのかもしれません。サバなど他の魚介も、身の質が良くて美味しいですからね。ただ、『ながらめ』のエサとなる藻が、うまく育たなくて、去年、一昨年(2012年と2011年)と大きさも小さくて、あまり良い『ながらめ』は獲れませんでした。今年(2013年)は身が厚くていいですね。昔は、たくさん獲れていたのですが、今は高級食材になってしまいました。小さい頃は私も海に獲りに行っていたんですが、その時にすべるように逃げる動きが、すばやかったのをよく覚えています。小さい頃は、醤油煮が食卓にたくさん並んでいたんですよ」。

井元さんから丁寧に『ながらめ』の話を聞かせていただき、じっくりと料理作りを見せていただいたが、それは種子島の気質でもあるようだ。
「種子島の人は、あまり競争心がないのか、人が良いし親切ですね(笑)。サーファーの方々が全国から裸一貫みたいな感じで移住してくるんですが、よその人が来たら放っておけないんですよ。『ごはん食べた?』『家は?』とか言ってね(笑)。気候と同じでみんな温厚なんですよ。

自然の豊かさと、人の温かさが、忘れられない種子島の味を生み出している…。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

下ごしらえ

タワシでよく洗い、殻と身の間にスプーンを入れて貝柱を切り、身を取り出す。口の部分は取り除き、適当な厚みに切る

味噌

切った身に塗る味噌は、麦味噌に、みりんや砂糖を加えた、色が薄い甘めの味噌。辛い味が好きな人向けに辛めの味噌も用意している

焼き方

オーブンを使い、220度で3分くらい焼く。スチーム機能も使うことで、身をふっくらさせる。かたくならないように完全に火を通さない

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味処 井元店主が競りで仕入れた種子島の魚介を

店主・井元康浩さんが毎朝競りで仕入れた種子島近海の朝穫れの魚介を使った料理で、地産地消を目指している店。刺身他のシンプルな料理から創作料理にいたるまで、種子島の素材が持つ繊細で力強い味を食べられる。定番の味噌焼きや刺身に加えて、塩焼き、醤油煮、天ぷら、塩漬けなど様々な『ながらめ』料理を提供している。

『ながらめ味噌焼き』1枚800円〜(時価)。『ながらめ味噌炒め』1枚1,000円〜(時価)も美味
『ながらめ刺身』1枚800円〜(時価)。※5月〜8月限定
『ながらめ塩焼き』1枚800円〜(時価)
『ながらめ醤油煮』1枚800円〜(時価)
『ながらめ天ぷら』1枚1,000円〜(時価)
ゆっくりと食事ができる座敷席

味処 井元

住所 西之表市西町189-1
電話 0997-22-1218
営業 11:30〜14:00/17:00〜22:00
休み 不定
90席
カード
駐車場 あり
URL http://aji-inomoto.jp/
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