まず、しゃくについている泥をよく洗い流してきれいにすることが必要。足を取り除いたり、小麦粉のまぶし方を工夫している店もある
しゃくをからっと揚げたり食べやすいようにするため、天ぷらの衣、油、揚げ方には様々なやり方がある
天ツユが付く店もあるが、塩をふりかけて食べるのが基本。しゃくの味をより引き出すため、塩にもアレンジが加えられている
熊本市の中心部から一本入った上乃裏通りに店を構えたのは2006年。
「この界隈にある店は、郊外的でもあり、地元重視でもあり、そんな雰囲気があわさったところが魅力かもしれません。20歳代の方からこの近くに住んでいらっしゃる80歳代の年配の方まで、幅広い年齢のお客さんに向けて、しっかりした和食から少しくだけた和食までをつくっていきたいと思ってます。目指すのは誰でも入りやすい和食の居酒屋さんですね」。
そんな想いのもと、店主・児玉光平さんが毎日手書きしている“今日のおすすめメニュー”はおよそ100種類。日々すこしずつ変わっていき、値段も500円前後とお手頃だ。
「辛子蓮根などは、注文があってから辛子味噌を詰めて揚げていますよ。年配の方に適当に料理を出していると思われてはいけないと考えています。地元の方々に来てもらいたいし、何度でも来てほしい。だから季節ごとの旬の料理というものは外せません」。
熊本の夏の味『しゃくの天ぷら』も、児玉さんにとって大切な一品。とても丁寧につくられている。
「しゃくは熊本市内の田崎市場で仕入れてきます。陸にあげるとすぐに死んでしまうので、新鮮なうちに料理しないといけないですね。しゃくは泥の中で生きているので、まず水を流しながらしっかりと泥を洗い落としてきれいにします。そして、しゃくと天ぷらの衣をつなぐという役目を持つ小麦粉をしゃく全体につけます」。
小麦粉は、一尾ずつ刷毛で丁寧につけられていく。まるでしゃくに化粧をしているようだ。
「よけいな粉がつくと粉っぽくなりますから。一緒に添える野菜にもハケで小麦粉をつけますよ」。
氷水と小麦粉と片栗粉を混ぜてつくった天ぷらの衣をつけて、170度の油で揚げていく。児玉さんはしゃくをすぐに油の中に入れてしまうのではなく、尾を手で持ち油の中でしゃぶしゃぶの用に揺らしている。
「エビは殻をむいてから揚げますが、しゃくは殻がついたまま。衣が必要以上に身にまとわりついてしまうので、それをはがすように初めは油の中で揺らすのです。そのまま揚げると、まるくなって腹のところに衣がかたまったりもしますから」。
最低限の衣しかついていないしゃくの天ぷらは、背中の部分が鮮やかな赤色を帯びる。
できあがった天ぷらは塩でいただく。青のりと塩を合わせたものや、山椒が入っている黒七味、暑い日が続く時には塩とカレー粉を合わせたものを出したりするのだそう。
「ごはんのおかずというより、酒の肴になりますね。私の家でも親父が食べていたので食卓には並んでいたのですが、当時はあまり美味しいとは思っていませんでした。お酒が美味しくなったのが20代前半。その頃からしゃくの天ぷらもおいしく思えてきました。料理の仕事をしていたので味覚の開花も早かったのかもしれませんね(笑)」。
料理の仕事を始めてから、年々奥深い和食の可能性を感じているという児玉さん。
「塩、醤油、酒、みりん、酢、味噌、出汁などの基本的な調味料で何万種類もの料理ができる和食はすごいし、おもしろいと思いました。らっきょ漬けなど今風ではない昔ながらのものをつくるのも大好きです。それを若い方々にどう楽しんでもらえるのかなどをいつも考えていますね」。
児玉さんの手によって、しゃくの天ぷらもきっと次世代に伝わっていくに違いない。
よく水洗いした後、しゃく全体に小麦粉をまぶす。余分な粉がつくと揚げた時に粉っぽくなるため、一尾ずつ刷毛で丁寧にまぶす
衣をつけた後、しゃくの尾を手で持ち、初めは油の中でしゃぶしゃぶの用に揺らして揚げる。余分な衣をはがすためだ
写真の塩と青のりを合わせたものや、塩とカレー粉を合わせたものでいただく。山椒が入った黒七味などを出すこともあるとのこと
店主・児玉光平さんの「幅広い世代の方に気軽に和食を楽しんでもらいたい。地元の方に何度でも来てもらいたい」という想いから、毎日手書きするメニューには1品500円前後から楽しめる100種類以上のメニューがずらり。本日のお造り盛り合せ(1500円〜)、5〜9月に食べられるしゃくの天ぷらなど、旬の魚介や野菜を味わえる。