夏は石鯛、冬はブリなど、旬の魚介類が中心で、サザエ、ヒオウギ貝、イカなども。野菜類では特産の『対馬しいたけ』がよく使われる
しっかりと熱された石英斑岩の上で食材を焼く。食材を焼き過ぎないようにすることが美味しく食べるコツ
醤油ベースのタレが基本。焼肉のタレのように濃くはなく、魚介類の味を引き立てるようにコクはあるがサッパリしたものが多い
対馬市の中心地・厳原(いずはら)に店を構えて30年ほどが経つ『味処 千両』。
二代目・浅野竜一郎さんにお話をうかがった。
「対馬は島の90%くらいが山で自然豊かな島ですね。魚介類の豊かさは他に引けを取らないと思います。赤ムツ、サバ、アジ、タチウオ…美味しい魚が揚がりますから、対馬には魚介を使った料理が多いですね」。
こちらのメニューにも、和・洋・中・イタリアンなど新鮮な魚介を使った様々な料理が並ぶ。
その中の一つ、対馬の郷土料理として知られているのが『石焼』だ。
「『石焼』は石英斑岩という石を焼いて、その上に魚介などをのせて焼いて食べる料理です。
漁師さんたちが浜で始めたもので、バーベキューみたいな料理ですね」。
『石焼』の準備は石を焼くところから始まる。
「石を最低でも30分は焼かないといけませんから、ご予約をいただいたほうがいいですね」。
「初めに素材をのせるほうを下にして火にかけ、熱くなったら裏返します。その後、油を6〜7回に分けて塗りながら焼いていきます。充分に焼けたかは、水を落とした時のジュッという音で判断しています」。
石を1つだけ焼いているのだが、周りは熱くなってくる。
「石からは遠赤外線が出ているので、周りも熱くなってくるのです。1度に3コも焼くと厨房全体が暑くなって大変です(笑)」。
かつては、この石を海岸に拾いに行かれていたとのこと。
「台風の後に大きい石が浜に打ち上げられていて、拾いに行って使える石を選んでいましたね。今は石材屋さんにお願いしていて、焼く面を削って平らにしていただいたりしています。石自体、今はあまり拾えないので大事に使っています。石は使い込むと油がのりやすくなっていきますし、だんだん使いやすくなっていくんですよ」。
石が充分に焼けたら、焼く素材とともにテーブルに運ばれる。
「素材は新鮮な旬の魚介が中心です。今日は石鯛ですが、冬はブリが多いですね。皮目がしっかりした青背魚が美味しいですよ。皮がパリッと焼けて香ばしくなるんです。刺身にすると皮が厚くて少し食べにくいものでも石焼にするといいですね。刺身でも食べられるものですから、レアな状態で食べてください」。
魚を石にのせると、“ジュッ”という音と香りが食欲をそそる。
「最初は魚が少し石にくっつきやすいですが、静かにはがしてひっくり返してください」。
両面がほどよく焼けたら、食べ頃だ。まろやかな口あたりの藻塩、ポン酢、醤油・ミリン・酒などを合わせた自家製タレが添えられているので好みの味付けで食べることができる。表面の香ばしさと合わせて中はふっくらとした食感。藻塩でもポン酢でも自家製タレでも素材の旨味が引き立つ。生でも食べられる新鮮な魚介を焼くというぜいたくな味わいだ。
「皮と身の間にあるゼラチン質の旨味を味わっていただきたいですね。これは刺身にはなくて、『石焼』にすると生じる『石焼』ならではのものです。具材にタレをかけてから焼く食べ方もありますね」。
野菜類もふっくらと焼き上がって旨い。対馬は原木シイタケの『対馬しいたけ』が特産品とのことで、秋から春にかけては『石焼』にも欠かせないのだそうだ。
石はガスコンロにのせられ、食べ終わるまで火にかけられている。
「火を弱火にしてはいけません。ガンガン火をたいていないと、具材が石にくっついてしまうからです。それは、魚が新鮮だから起こることなんですよ」。
そのため、食べていると身体も熱くなってくる。
「冬は鍋料理を食べられる方が多くて、『石焼』は夏に食べられる方が多いのですが、鍋料理よりも『石焼』のほうが熱いかもしれないですね(笑)。熱でおなかがいっぱいになったりもするんです(笑)。ですから、4人のお客様でも、『石焼は2〜3人前で十分ですよ』とお伝えします。対馬には美味しいものがいろいろありますから、いろんなものを食べていただきたいということもありますしね。『石焼』の後の締めには、『ろくべえ』、『対州そば』、『鯛茶漬け』などがおすすめです」。
浅野さんに尋ねれば、『石焼』とともに、対馬ならではの様々な味わいを楽しむことができる。
旬の魚介類が中心で、夏は石鯛、冬はブリなどがよく使われる。野菜類では、秋~春には対馬の特産品である『対馬しいたけ』が欠かせない
魚介類は生でも食べられるものなので、焼きすぎないように焼く。素材がくっつきやすくなるので、途中で火を弱めてはいけない
藻塩、ポン酢、醤油・ミリン・酒などを合わせた自家製タレが添えられる。藻塩とレモンの絞り汁をかけて食べるのも美味だ
対馬の新鮮な魚介類を和・洋・中・イタリアンなど様々な料理で食べられ、対馬の郷土料理もそろう。生でも食べられる新鮮な魚介類を中心に焼く『石焼』は、まろやかな口あたりの藻塩、ポン酢や、醤油・ミリン・酒などを合わせた自家製タレの3種の味わいで楽しめる。『石焼』ならではの、魚の皮と身の間にあるゼラチン質の旨味を堪能したい。