クチナシの実を割って水に浸けておき、黄色に染まった水を作る。煎じるという方法もあるようだ
研いだ米を黄色に染めた水に浸けて炊く。浸水時間が長すぎたり炊き方によっては緑色に炊きあがってしまうとのこと
大根、ゴボウなどの根菜類、豆腐、魚(エソがよく使われる)のすり身や焼いた身を炒め、醤油などの調味料と水を加えて炒め煮する
古くからある古民家風店舗の一角を改装した『こまちゃん食堂』。店内に一歩入って感じられるぬくもりは、ランチタイムの定食類や夜の一品料理など、笑顔で迎えてくれる店主・児玉千里子さんが作る料理からも感じられる。「すべて手作りですよ。野菜は野津(のつ/臼杵市野津町)で作られている有機栽培の“ほんまもん野菜”が中心で、ランチタイムの後に農家さんのところに足を運んでいます。野菜、魚、米、卵など臼杵はほとんどの食材がまかなえる豊かな場所です。生産者さんのがんばりや想いも伝えていけるといいですね」。
ランチタイムには美味しい野菜をワンコインで食べられる定食もあるが、『臼杵定食』(800円)というメニューもある。臼杵の郷土料理である『黄飯』、『けんちん(かやく)』、『きらすまめし』などを気軽に食べられる定食だ。「以前は臼杵で違う店をやっていたのですが、その時には郷土料理は出していませんでした。ある時、若い方にだんご汁を出したら、とても喜ばれたんです。今の若い方たちはだんご汁みたいな素朴な料理は食べないと思っていましたから、びっくりしました。私ができる範囲ではありますが、県外から来た方にも臼杵の郷土料理を知っていただきたいし、安い値段で気軽に食べていただきたいと思うようになって始めたのが、『臼杵定食』ですね」。
『黄飯』の作り方を教えていただいた。「クチナシの実を割って水に浸けておくとその水は黄色になっていきます。
1時間ほどしたら、そこに研いだ米を入れて、2時間ほど浸けておきます。あとは専用の釜に入れてガスで炊くだけですよ。
『黄飯』が炊ける間、『けんちん(かやく)』作りも見せていただいた。「『けんちん(かやく)』に使う材料はニンジン、大根、ゴボウ、サトイモなど根菜類が中心です。あと、水気を切ってちぎった豆腐と、エソのすり身ですね。
フライパンにゴマ油をひき、根菜類とエソのすり身を炒め、シイタケの戻し汁、味付けとして薄口醤油、砂糖、ミリン、酒を入れて炒め煮します。エソからもいい出汁が出ますね。さらにちぎった豆腐とサトイモを入れて煮詰めていきます」。
30分ほどで『黄飯』が炊き上がる。「釜のふたを開ける時は特にクチナシの甘い香りがふわりと漂いますよ。お花のような感じかな(笑)。今はお茶碗についでお出ししていますが、おひとりずつ炊いて釜飯のように提供して、この香りを感じていただけるようにできるといいなあと思い模索中です。観光の方は黄色いごはんを見て、『うわーっ』と言われていますね。以前、『米を黄色く染まった水に一晩浸けておけばもっと黄色くなるかな』と思ってやってみたんですが、緑色になってしまいました(笑)。長く浸けておけばいいわけではないんですよ」。
『黄飯』と『けんちん(かやく)』に、味噌汁、漬物、『きらすまめし』が添えられた『臼杵定食』。『黄飯』と『けんちん(かやく)』は、かつて臼杵で生まれ、宇佐美裕之(うさみひろゆき)さんが再興した臼杵焼きの器に盛り付けられている。『黄飯』の上に『けんちん(かやく)』をのせて食べるのが“臼杵流”だ。薄味で仕上げ野菜の旨味を際立たせた『けんちん』が『黄飯』によく合う。「『黄飯』は臼杵の殿様が、参勤交代を務めた家老をねぎらう意味で作られていたそうです。倹約令から始まったという説も、(大戸宗麟の時代に)パエリアから始まったという説もありますね。『けんちん煮』は商家が年末などの忙しい時期に作っていたといわれています。臼杵では『黄飯』の上に『けんちん煮』をのせて食べるのが本当の食べ方です。『黄飯』にのせるから(黄飯の具のようになったから)『かやく』と呼ばれるようになったのかもしれませんね。『黄飯』と『かやく』のセットは、武家の料理と商家の料理が合わさったものなのでしょうね。今では、『かやく』のことを『黄飯』と言ったりすることもありますし、『かやく』=『黄飯』と思っている方もいるようです。飲食店で『黄飯』を注文すると『かやく』だけ出てくることもありますよ(笑)」。
児玉さんのエプロンの左胸には丸いマーク「◯」が付いている。そのマークには、人々のつながりを表す「◯」、円満の「◯」、山・川・海などがつながる循環の「◯」などたくさんの想いが込められている。 「臼杵の魅力は…『ないものがない』ということかな(笑)。環境もいいし、食材も豊富ですし、人もあたたかいし、情熱をもった方もたくさんいます。みなさんの「◯」が少しでも増えるようにがんばっていきたいですし、このお店から臼杵の情報発信もやっていきたいと思っています」。
クチナシの実を割って、水に浸けておく。1時間ほど置くと、水は黄色に染まっていく
研いだ米をクチナシの実で黄色く染まった黄色い水に入れ、2時間ほど浸水させて炊く
大根、ゴボウ、エソのすり身を炒め、シイタケの戻し汁と薄口醤油などの調味料を合わせて炒め煮。豆腐とサトイモを加え煮詰める
長屋を改装した味わい深い雰囲気の食堂。地魚や、臼杵市が認証する有機栽培の“ほんまもん野菜”など、地元の食材を使った料理を昼は定食、夜は一品料理で食べられる。おすすめは『黄飯』、『けんちん(かやく)』、きらすまめしなどが付く『臼杵定食』。ほのかな香りがする『黄飯』に薄味で仕上げた野菜の旨味を際立たせた『けんちん』がよく合う。