皮をむき、適当な大きさに切る。葉を落として2~3日置いておくと切りやすくなるとのこと。煮物に使う場合は下ゆでする場合も多い
代表的な煮物はぶり大根、ふろふき大根などで、煮汁でじっくりと炊く。旬の冬には郷土料理『とんこつ』の具材に使われることも多い
やわらかく甘みがあるのでそのまま生で食べても美味。酢の物、漬物、(下ゆでして)天ぷらなど、様々な料理でも食べられている
温泉地として知られる指宿。この地で1969年に創業した『さつま味』は、『とんこつ』や『さつま揚げ』など鹿児島ならではのさつま料理と錦江湾で獲れる地魚を提供している。「冬から春にかけては脂がのってくるキビナゴが美味しいですし、真鯛も美味しくなってきますね」と、旬の魚介のお話をしてくださる二代目・濵田一生(はまだいっせい)さんに『桜島大根』についてうかがった。
「『桜島大根』は、かつては10月中旬から2月いっぱいくらいまで収穫され、仕入れることができたのですが、今年は(取材は2019年1月)、なかなか寒くならなかったせいで、12月中旬にしか仕入れることができませんでした。寒くならないと美味しくならないんですよ。ふつうの大根にくらべ、身がぎゅっと詰まっている感じで重たいですね。でも、すぱっと切れます。生でも煮ても、どんな料理にしても美味しい万能野菜ですね」。
冬の時期、看板メニューの一つである『とんこつ』には『桜島大根』が入る。「『とんこつ』には冬瓜を使ったりもしますが、冬は『桜島大根』です。冬の時期にしかないから希少価値もあるし、栄養があるとも言われていますし、何よりも美味しいですからね」。
『黒豚とんこつ味噌煮』作りは、豚肉の表面を焼いて熱湯に通し、油抜きをするところから始まる。
水・焼酎・ショウガを合わせ、鍋で豚肉を2時間ほど炊いた後、合わせ味噌、麦味噌、砂糖を入れてコンニャクとともにほどよく煮込む。
下ゆでした『桜島大根』はこの煮汁を使い別の鍋でじっくりと煮込んでおく。注文が入ったらすべてを合わせ、ネギを添えてできあがりだ。
甘めの味付けの『黒豚とんこつ味噌煮』に入る『桜島大根』は、豚肉の旨味も染み込みやわらかくて美味。主役は豚肉ではあるのだが、その味にひけをとらないほど。焼酎のつまみにぴったりの味わいだ。
かつて、濵田さんは『桜島大根』の美味しさに気づいていなかったとのこと。
「あまり馴染みがなくて触れる機会がなかったのですが、関西で修行して帰ってきた時に『つっでこん』を食べ、改めて『桜島大根』の美味しさを知って驚きました。和食では、京野菜が優れているというイメージがありますが、『桜島大根』は京野菜にまったく劣っていない、素晴らしい野菜です。地元に帰ってきて優れた食材に出会え、うれしかったですね」。
『つっでこん』とは“突く”“大根”という意味。
楕円形の穴が開いたすりおろし器のような器具に大根を突いて、粗めの千切り状にしたものに塩や醤油をかけて食べるシンプルな料理のことだ。
「刻んで刺身のツマにすることもありますし、それだけで食べてもいいですが、昔ながらの感じで『がらんつ(鹿児島県の方言で、小型のイワシの干物を焼いたもの)』に添えることもありますね。『がらんつ』と『つっでこん』を交互にかじりながら焼酎を飲む…最高ですよ(笑)」。
『さつま味』で『桜島大根』が食べられる時期、店頭には『桜島大根』と『桜島小みかん』が“鏡餅”のように重ねて飾られている。
「桜島は、世界一大きい大根と、世界一小さいみかんが育つ場所なんです。厨房で私の横に立っている大将(濵田さんのお父さま)は、今も『桜島小みかん』の栽培を手がけていますが、小さい頃『桜島大根』の栽培を手伝っていたことがあるんです。大きく育てるには一子相伝のコツというものがあるようですし、栽培にも収穫にも大変な苦労があるようです。『桜島大根』は古来から続く伝統野菜。九州を代表する野菜とも言えますし、大事にしていきたいと思います」。
生で食べる場合はそのまま使うが、『とんこつ』などの煮物に使う場合は適当な大きさに切った後で下ゆでしておく
『黒豚とんこつ味噌煮』に使われる。下ごしらえした豚肉を味噌や砂糖を加えて煮る。その煮汁で『桜島大根』を別の鍋で煮て、最後に合わせる
穴が開いたすりおろし器のような器具に大根を突いて、粗めの千切り状にした『つっでこん』は、大根本来の味がよくわかる
温泉地・指宿で、半世紀にわたりさつま料理と錦江湾で獲れる地魚を提供している。看板メニューの一つ『とんこつ』にも冬の時期には『桜島大根』が入り、たっぷりの味噌と砂糖で炊いた甘めの味わいと豚肉の旨味が染み込んだやわらかな味は、肉と変わらないごちそうだ。粗めに切った生の『桜島大根』を醤油で食べても美味しいとのこと。