九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

蓮根

産地、形などで味わいが異なるので各店とも独自に仕入れる。また、ゆで方によって食感が変わってしまうので、職人の腕の見せ所

からし味噌

味噌とからしを合わせて作られ、蓮根の穴に詰められる。辛めのも、甘めのもの…各店の個性を出すための重要な味となる

揚げ方

小麦粉、クチナシ色素などを水で溶いた衣をつけて揚げる。箸ではない先端がカギ状にまがった“手カギ”を使うのは各店とも同じだ

語り 上田からし蓮根店 上田智子の「からし蓮根」

上田智子さん

お店におじゃますると、蓮根の節の部分が箱に入れられて干されていた。
「乾かして煎じて飲むとぜんそくに効くんだそうです。漢方薬にも使われているようですね。知り合いから頼まれて作ってます。うちの蓮根は自家製ですから、からし蓮根には使えないこの部分はいくらでもあるんです(笑)」。

店頭で干されていた蓮根の節

からし蓮根店の中でも珍しく、『上田からし蓮根』で使う蓮根は自家製。からし蓮根作りの話をうかがう前に、上田智子さんに蓮根畑に案内していただいた。

蓮根畑では上田健也さんが収穫中

蓮根の収穫をしているのは、智子さんのご主人・健也さんだ。4本歯のクワで粘土質の土を丹念に掘り起こしている作業は見るからに大変なお仕事だ。
「品種改良された蓮根を砂地のようなところで育て、水圧で水掘りするところもありますが、うちの蓮根は粘土質の土で育てているので手作業でしか掘れません。掘るうちに茎の部分が見えてくると、蓮根が土の中でどんな具合に育っているかわかるんです。深さ50cm〜1mのところに埋まっていて、やわらかい土壌の中ならば水平にまっすぐのびていますね。最後は手で土をどかしますよ。私たちが育てている蓮根は、『シャンハイ』という品種で、今はあまり栽培されていないですね。特徴は節と節の間が長いんです。ゆでた時に他の品種よりやわらかいので美味しいんです。1日に120kgほど掘る時もありますよ」。

4本歯のクワで掘ると立派な蓮根が現れる

収穫は9月の中頃から始まり次の年の5月まで続く。
「収穫したらその土地は耕しておいて、3〜4月から小さい蓮根を植えて次の期の収穫の準備をします。土が固いと蓮根が自由に伸びることができなくて、身もかたくなってしまいます。だから水の管理が大切ですね。土の上にある葉や茎が枯れたら、それは『美味しい蓮根ができました』というサインなので、そこから掘り始めます。旬は10〜2月くらいですね」。

蓮根畑で採れたての蓮根を見せてくださった上田さん夫妻

収穫した蓮根と一緒に、お店の一角にある加工場へ。収穫された蓮根は、節のところで折って洗浄機の中に入れられるが、折る時に、ポキポキと小気味いい音がする。
「昔はたわしで洗っていましたが、今は洗浄機で泥を落とします」。

収穫された蓮根はきれいに洗われる

蓮根がころころと回りながらきれいになっていく。とても表面がきれいな蓮根だ。そして、皮をむかずにゆでる。
「収穫の時期で蓮根の持つ水分量も違うので、ゆで加減は勘ですね」。

ゆでた蓮根にからし味噌を詰める

ゆであがった蓮根に、今度はからし味噌を詰めていく。固定した蓮根に、圧縮空気の力で下から押し出されるからし味噌を詰め込むという仕組みだ。
「からし味噌は、麦味噌とからしを調合して作っています。時期によってからしの量を変えたりもします。昔はすべて手で1本ずつ、味噌の上で回すようにしながら詰めていました。今でも最後の仕上げは手できれいに詰めることもありますよ。味噌は冬になるとかたくなるので力作業でもありますね」。

からし味噌が詰められた蓮根

からし味噌を詰めてから一日ねかせた後、衣をつけて揚げる。
「衣の材料は、水、小麦粉などです。衣をつける前に、蓮根の切断面の端の面取りもします。そうしないと、揚げた時にそこから衣がはげやすくなってしまうんです。表面にでこぼこがある場合は、粉がたまらないようにそこをなめらかにもします。なたね油に入れて揚げる時は、箸だとふれた部分の衣がはげてしまうので、かぎ状の道具でひっかけて鍋に入れます。油の中に入れすぎると割れてしまいますし、揚がり具合は色で判断ですね。揚げる作業を自動化していた時もあったのですが、やはりフライヤーで1本ずつ手で揚げることに戻しました」。

切断面の端を面取りし、衣をつけて揚げる

こちらのからし蓮根は、やわらかな辛みで食べやすい。蓮根は歯応えがありつつ、もっちりとした食感もある。
「食感はゆで方がポイントです。『辛いとは苦手やけど、これは食べられる』と言ってくださる方も多いですね。オーブントースターで温めればできたての感じでも食べられます。醤油も合いますし、マヨネーズをつけるとまろやかになってそれもいいですね」。

辛みも香りも、焼酎のためにあるのではないかとも思えるからし蓮根。お正月、お盆、運動会…人が集まる時によく食べられている料理なのだそうだ。
「帰省した人が、『からし蓮根を食べんと熊本に帰ってきた気持ちがせん』とよく言われますね。だから、蓮根もがんばって育てて、美味しいからし蓮根を作らないといけないですね。からし蓮根作りを、蓮根を育てるところからやっているのはうちだけだと思いますよ!! 6月と7月は蓮根が収穫できないので、からし蓮根作りもお休みなんです」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

蓮根

蓮根は自家製の『シャンハイ』という品種。粘土質の土で育てるため、すべて手掘り。節と節の間が長いこと、ゆでるとやわらかいという特徴を持つ

からし味噌

麦味噌とからしを調合して作る。時期によってからしの量を変えることもある。ゆでた蓮根の穴に詰めた後、揚げる前に1日ねかせておく

揚げ方

衣の材料は、水、小麦粉など。切断面の端の面取りをしたり、でこぼこの部分をなめらかにした後、なたね油で一本ずつ手で揚げる

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上田からし蓮根店 丹念に育てた自家製の蓮根で作るからし蓮根

自家製の蓮根『シャンハイ』種は、粘度質の土で育てるためすべて手掘り。麦みそとからしを合わせたからし味噌を詰めた後、衣をつけ、1本ずつ手で揚げる。通常のサイズのもの(100g250円)に加えて、小さめのものは縦割りにするなどしても販売(1コ100円)。丸かじりするのも美味しい。卸しはしていないので、手に入れるには、店頭まで行くか、取り寄せにて。

からし蓮根は100g250円
JR鹿児島本線『宇土駅』から車で10分ほどの場所にある

上田からし蓮根店

住所 熊本市城南町下宮地905-3
電話 0964-28-3452
営業 8:00〜19:00
休み 6・7月は休業
カード 不可
駐車場 あり
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