九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

猪肉と野菜

スライスして使われる猪肉には皮付きと皮なしがある。白菜、大根など秋から冬にかけての旬の野菜がたっぷりと入る

味のベース

スープそのものに味をつける醤油仕立て・味噌仕立てにすることが多いが、水炊き風・すきやき風といった食べ方もある

作り方・食べ方

スープで猪肉と野菜類を煮込んで食べる。薬味には柚子こしょうが添えられることが多い。締めはうどんや雑炊だ

語り 一寸法師 一法師照幸の「猪鍋」

店主・一法師照幸さん

山鹿市菊鹿町(きくかまち)の山間にある矢谷渓谷(やたにけいこく)は特に夏の納涼・水遊びスポットとして知られており、キャンプ場も整備された自然豊かな場所。湧水に恵まれ、ヤマメやマスなどの養殖場が点在している。『一寸法師』はこの矢谷地区に1987年にオープンした食事処だ。
「私の実家は近くにある棚田の横にあり、父親は農業をやりながら、ここでヤマメとマスの養殖を行なっていました。私は和食修行の後、この場所で店を始めたのです。店の裏手には養殖場があって、店で使う魚はここで育てていますよ」と店主・一法師照幸(いっぽうしてるゆき)さん。四季折々の風景を肌で感じながら、ヤマメやマス、自家製の米や野菜などを使った料理を楽しむことができるお店だ。ヤマメが美味しいのは初夏から9月下旬くらいまでとのこと。その後の10月から3月まで味わうことができるのが『猪鍋』だ。

お話をうかがっている店内の壁には猪の頭部の剥製が飾られている。

店内に飾られている猪の頭部の剥製

「あれは以前に食べた猪の頭ですよ(笑)。『猪鍋』を出し始めた頃は竹田(たけた・大分県竹田市)で飼育されている猪の肉を使ったりもしていましたが、今は地元で獲れる猪の肉を使っています。猪は猟のやり方や血抜きなどの下処理が悪いと肉が臭くなってしまいます。信頼のおける猟師さんが獲った猪の肉を使っていますね。1頭が50〜60kgの猪の肉が美味しいですよ。100kgを越えると肩は鎧のようになっていますし、肉もかたくなってしまうのです。そうそう、野生の猪と飼育されている猪は見ればすぐわかるんですよ。野生の猪はいろいろなものをひっかくから爪が削れていますし、しっぽもいろいろなものにこすれるので、先っぽがすれているんです」。

厨房で『猪鍋』についてお話をうかがった。まず、見せていただいたのは猪肉の塊だ。
「肉はロース肉、バラ肉、モモ肉などの部位ごとに分けられています」。

猪のロース肉(手前)と皮付きのバラ肉

「『猪鍋』にはその時々で、いろいろな部位の肉を使っています。私は皮付きの肉を使うことが多いですね。皮付きの食感は独特ですし、皮と脂身の間にゼラチンがあってそこも美味しいのです。皮を取って料理する方もいらっしゃるようですが、猟師さんたちは『皮がないと猪の肉じゃない』と言われますね(笑)。私が使っている肉は皮付きでも、毛はしっかり抜かれていますし、うぶ毛もきれいに剃られています。けれど、人吉あたりは豪快で、『チクチクする毛の喉越しがないと物足りない』という方も多いようですよ(笑)」。

猪肉はスライスして大きな皿にきれいに盛りつけられる。
「肉の盛りつけがぼたんの花のようなので『ぼたん鍋』と呼ばれることもあるのですが、地元ではみんな『猪鍋』しか言わないですね(笑)」。

スライスした猪肉が“ぼたんの花”のように並べられる

猪肉と合わせて、白菜、シイタケ、ニンジン、長ネギ、ゴボウ、エノキ、春菊といったたっぷりの野菜、そして、うどん、はるさめ、厚揚げ、餅巾着が器に盛りつけられる。

野菜類を切り器に盛りつける

「地元の野菜が中心ですし、シイタケは自家製です。肉は冷凍しておけばいいので1年中いつでも出せるのですが、『猪鍋』には冬の野菜が欠かせませんから、やっぱり冬の料理なんです。締めのうどんを添えていますが、『おじやにしたい』という方にはごはんと卵も用意しています。米は自家製の棚田米ですし、湧水で炊いていますからごはんも美味しいですよ」。

猪肉の皿、野菜などが盛りつけられた器とともに土鍋がテーブルに運ばれ、コンロの火がつけられる。土鍋の中に入っているのはスープとささがきゴボウだ。
「猪の骨からとった出汁に、3種類の味噌にバターやゴマを合わせた特製味噌を加えた味噌仕立てのスープです。『猪鍋』用につくった特製味噌ですね。スープの中にまず肉を入れて煮込んでください。そうすると特に脂身からいい旨味が出るんですよ。風味づけにささがきゴボウは必須です。肉に火が通ったら野菜類を入れて食べてください」。

初めに猪肉を煮込み、その後に野菜を入れて食べる

「食べる時は自家製柚子こしょうが必須です!(笑)」。

濃厚な味わいを持つ猪肉とコクのあるスープに爽やかでピリリと辛い柚子こしょうがよく合う。猪肉も、少し歯応えのある皮もかむほどに味わいが増す。食べすすめていくうちにスープには野菜の旨味も溶け出し、締めのうどんまで絶品だ。

締めはうどん

「残ったスープを持って帰る方もいらっしゃいますよ(笑)。ドングリなどを食べて太った寒い時期の猪は脂がのって美味しいみたいですが、発情した春のオスはあまり美味しくないようです(笑)。私の父親がつくる『猪鍋』は醤油仕立てのスープでしたし、すきやき風にしても美味しく食べられますね。猟師さんたちは塩焼きも好きみたいです。山間の地区で貴重なタンパク源だったのでしょう」。

お店のすぐ横にも猪が出没することがあると笑う一法師さん。そんな猪の骨までも無駄にせずに使い、地元の農産物とともにつくる『猪鍋』。まさに矢谷の地産地消料理だ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

猪肉と野菜

地元で獲れ、きちんと下処理された猪の肉、店主が育てている自家製シイタケをはじめとした地元産の旬の野菜がたっぷり使われる

味のベース

猪の骨からとった出汁に、3種類の味噌をブレンドしてバターやゴマを加えた特製味噌を加えたスープが『猪鍋』の味のベース

作り方・食べ方

初めに猪肉を煮込んで旨味を引き出す。その後で野菜を入れ、自家製柚子こしょうと合わせて食べる。締めはうどん

このページを共有・ブックマークする

一寸法師 自然に囲まれた矢谷渓谷近くの料理処

湧水に恵まれた場所にあるお店の横で養殖されるヤマメやマス、自家製の野菜や棚田米を使った料理を四季折々の風景とともに楽しめる。10〜3月に食べられる『しし鍋』もたっぷりの地元野菜と地元で獲れる猪の肉を使った一品。猪の骨からとった出汁に特製味噌を合わせたスープに自家製柚子こしょうを溶き、濃厚な旨味の猪肉と野菜を食べる。

『しし鍋』1人前2160円(税込)(2人前より・写真は3人前)は締めのうどん付き。少量を楽しめる『小鍋』648円(税込)もある
マス塩焼き、マス刺身、山菜、刺身コンニャクなどが付く『清流御膳』1944円(税込)
マス塩焼き、マス唐揚げ、山菜、刺身こんにゃくなどが付く『姫御膳』1620円(税込)
窓の外には自然が広がる店内。すぐ近くに猪や鹿が出没することもあるそうだ

一寸法師(いっすんぼうし)

住所 熊本県山鹿市菊鹿町矢谷1170-21
電話 0968-48-9977
営業 11:00〜OS16:30 ※夜は予約のみ受付
休み 火曜
100席
カード 不可
駐車場 あり
URL http://www.yamame-issunboshi.com/
※記載した内容は2017年1月20日現在のものです。
お店情報をプリントする