真水に入れて泥をはかせたり、湯通しして表面の薄い皮をはいだりと、手間のかかる下ごしらえが行なわれている
甲羅や肉を、水や出汁などでしっかりと炊くことで旨味満点のスープもできる。アクが出るので丹念に取り除くことが必要だ
肉やエンペラは、鍋のスープに直接味をつけてスープと一緒に食べたり、ポン酢を使ったりする。肉類の後は野菜類を食べ、〆は雑炊だ
安心院の名瀑(めいばく)・東椎屋の滝(ひがししいやのたき)。落差85mの断崖を垂直に流れ落ちた水は津房川(つぶさがわ)となって安心院の市街地へと流れていく。
「店を始めた頃は、ここから滝が見えていたんですよ。それで『滝見苑』という名前にしたのですが、今では樹々が生い茂って“滝、見えん”になってしまいました(笑)」。
店主・池田欽一さんは1977年の開業以来、清らかな水が流れるこの地で、川魚料理、地鶏料理、すっぽん料理などを作り続けている。
「この辺は滝から近く水が冷たいのですっぽんはいませんが、下流にはまだいます。地元の方が釣り針にエサをつけて川の淵などにしかけ、すっぽんを捕まえて、うちに売りにきたりもするんですよ。いいのがあればその天然のすっぽんを使うこともありますね」。
仕入れたすっぽんは真水に入れて泥をはかせてからさばく。
「脂ののりは季節によっても変わってきますが、大きさでも違います。小さいすっぽんは脂ののりが悪いんです。逆に大き過ぎると脂ののりはいいですが身がかたくなってしまうんです。12kg前後がちょうどいい大きさのようですね。メスで玉子を持っていると身が少なかったりもしますね。コースだと、大体一匹で2人前がとれます。まず、かみつかれないように注意して首をつかみ、ぐっとひっぱってから切り落とします。活血はリンゴジュースで割ります。活血も飲むと身体にいいんですよ。首だけになっても油断してるとかみつく時があるので注意しとかないといかんのです。私も、手をかまれたことがありますよ」。
動かなくなった胴体部分には、さらに下ごしらえがある。
「お湯をさっとかけて表面の薄い皮をはぎます。細かいところはタワシでこすってきれいに落とします。
そして、甲羅をくり抜くように切り取ります。甲羅の縁のほうは『エンペラ』と言って、コラーゲンそのもので食べられる部分ですからね。内臓も肝臓などは食べますが、胆のうだけは苦いので取り除きます」。
食べられない部分を取り除いたところで、身をさばく。
「すっぽんの肉は足の部分だけです。前足の根元、人間で言うと肩の部分は刺身になります。その他の部分はぶつ切りにして唐揚げにしたり鍋に入れたりします。ツメのところは食べられないことはないんですが、そのままの形で鍋から出てくるとびっくりする方がいるので取り除いてますね(笑)」。
下ごしらえが終わったらスープ作りだ。
「鍋に先ほど取り除いた甲羅とぶつ切りにした身を入れて、水と酒で炊いていきます。水は地下150mくらいからの地下水です。甲羅からはいい出汁が出るんですよ。
アクがすごく出てきますので、丹念にすくいます。アクを取ると、鍋の中の水分が減るので、水を足しながら炊いていきます。アクが出なくなるまで約20分くらい炊きますね。アクをきれいに取ることで美味しいスープができるんです。アクが出なくなったら、ゴボウのササガキを少し入れてさらに煮込みます。いろいろ試してみたのですが、ゴボウを入れたほうがより美味しくなりますね。
そして、スープに塩と醤油だけで味付けします。スープそのものに味付けする『すっぽん鍋』は、このあたりではあまりないですが、うちの『すっぽん鍋』はスープと一緒に食べていただくんです」。
鍋の準備と並行して、唐揚げ作りも見せていただいた。下味をつけた肉のぶつ切りを揚げる。
「すっぽんは火が通りにくいので、揚げる時は弱い火でじっくり揚げないといけないですね。刺身で食べられるほど新鮮なものですから、多少赤くても大丈夫です」。
『すっぽんコース』をいただいた。活血、刺身、エンガワの酢の物、唐揚げとすっぽん料理をいただく。リンゴジュースで割った活血は飲みやすい。刺身は鶏肉の刺身のような歯応え。酢の物や唐揚げはコラーゲンたっぷりのプルプルの食感も楽しめる。そして鍋の登場。プルプルとしたコラーゲンもついた身を、ほどよく味付けされたスープと一緒にいただく。鍋の底には甲羅が沈んでいた。
「甲羅の縁のやわらかい部分はコラーゲンなので食べられます。箸でもほぐれるのでどうぞ。きれいに食べていただいた甲羅を干すと硬い部分だけになります。うちでは、それに刺身をのせているんですよ」。
刺身がのせられていたものはすっぽんの甲羅だったのだ。身を食べてしまったら、スープに野菜を入れて炊き、ポン酢でいただく。すっぽんの旨味に野菜の旨味も加わったスープはそれだけでもごちそうだ。
「スープにもコラーゲンがたっぷり含まれているので、冷えると煮こごりみたいにかたまるんですよ」。
最後は雑炊にしてそのスープをすべていただく。雑炊に加えられたゆず胡椒の香りと辛みが爽やかだ。
すっぽん料理は注文がはいってから作り始めるので、できれば予約しておくのがお勧めだ。
「いきなりいらっしゃると待たせてしまうことになりますね。ですが、その時は『滝を見てきてください』と言うんです。ゆっくり滝見物をしていただければ、ちょうどいい具合にできあがりますよ」。
真水に入れて泥をはかせた後、湯をかけて表面の薄い皮を取り除いてきれいにする。すっぽんは天然ものが使われることもある
甲羅とぶつ切りにした身を鍋に入れ、地下150mからの地下水で炊く。アクを丹念にすくい、水を足しながら20分ほど炊く
スープにゴボウのササガキを入れて少し炊き、塩と醤油だけで味付けする。肉類はスープと一緒に、野菜類はポン酢で食べる。〆は雑炊
『すっぽん鍋』は、まず清らかな地下水と酒を合わせたものの中に、甲羅と肉を入れてアクを取りながら炊く。そして塩と醤油で味を整え、ゴボウのササガキを一つまみ。栄養豊富なスープの味を引き締めている。肉、ポン酢でいただく野菜、残ったスープで作った雑炊も旨い。地鶏の炭火焼き、ヤマメの刺身や塩焼きも自慢の品だ。