田芋、田芋の茎に、写真のラフテーを細かく刻んだもの、水で戻したキクラゲと干しシイタケの3つが加わる
泡盛、水、醤油、黒糖、三温糖を合わせて豚三枚肉を煮込んだラフテーの煮汁と、豚出汁(豚三枚肉のゆで汁)で味付けする
下ゆでした田芋と田芋の茎をラフテーの煮汁と豚出汁を合わせたもので煮込む。その他の材料を合わせ弱火で熱を加えながら練り上げる
様々な沖縄の伝統工芸品が飾られた店内に一歩入るだけで、沖縄の雰囲気を感じることができる。店主・仲村佳子(なかむらけいこ)さんは沖縄の伝統的な織物である『首里織』の作家さんでもあり、ご主人は漆喰でシーサーを作る作家さん。店名の『糸ぐるま』も仲村さんの“織”の仕事に由来するものだ。開店は1993年、お店の歴史は2018年で四半世紀。
「当初は週に2~3日営業していたんですよ。料理は私の母親から教わり受け継いだものだったんです」。『ドゥルワカシー』も当時からあった一品だ。
「『ドゥルワカシー』の材料である田芋は水を張った田んぼで育ちます。金武町(きんちょう)や大山(宜野湾市大山)産のものが多いようです。田芋は里芋の仲間ですが、アクがすごく強いんです。ゆでてアクを取り、皮をむきますが、さわるとかゆくなることもあるんですよ。田芋と田芋の茎以外の材料は作る人によって違います。私は母親から教わりましたが、量をたくさん作りますから、4人前ほどの量を作ることはできないですね。そもそも正確なレシピはなくて、『田芋このくらい』とか分量は見た目です(笑)」。
現在、その味を引き継いで料理するのは、息子さんの英優(ひでまさ)さんだ。
「初めに田芋をきれいに洗うんですが、さわるとかゆくなるので手袋が必須です(笑)。田芋の茎と一緒に塩ゆでしてアク抜きした後、ラフテーの煮汁(泡盛、水、醤油、黒糖、三温糖を合わせたもの)と豚出汁(豚三枚肉のゆで汁)を加えて煮込みます。
田芋以外の材料は水で戻した干しシイタケとキクラゲ、ラフテーの端切れを細かく刻んだものの3つ。煮込んだ田芋と田芋の茎にこの3つの材料を加え、とろ火で温めながら練り上げます。
徐々に粘りが出てきてだんだんと力が必要になってきますね。30分ほど練り上げたらできあがりです。
練り上がりのサインは、刻んで入れたラフテーがさらに細かくなった時という感じです。『ドゥルワカシー』は一般的にはグレーの色味ですが、うちの『ドゥルワカシー』は少し緑色がかっています。これは田芋の茎の量が多いからなんです。田芋の茎は特に食物繊維が豊富ですから身体にもいいですね」。
できあがった『ドゥルワカシー』は地元の陶芸家が焼上げた器に盛りつけられる。豚肉や干しシイタケの旨味に田芋の風味が広がるやさしい味わい。それは里芋とは異なるものだ。「口に入れていただければわかると思いますが、噛めば噛むほど味が出ますよね。観光の方はコース料理を食べてくださる方が多いのですが、初めて琉球料理を食べた方の感想として『ドゥルワカシー』が一番美味しかった」という言葉をよくいただくんですよ」と佳子さん。「『ドゥルワカシー』を食べたいからと、来てくださる方も多いんですよ。私は小さい頃はあまり好きではありませんでしたが、今は美味しいと思います。すっきりとした芋焼酎が合いますね」と英優さん。
今では沖縄料理店のメニューで見ることも多い『ドゥルワカシー』だが、元々は沖縄宮廷料理の一品だった。
「沖縄宮廷料理の魅力は和食とも違う、沖縄独特の料理だということだと思います。当時はごちそうであり珍味だったのではないでしょうか。器も高級なものが使われていたはずです。その後、『ドゥルワカシー』のように、沖縄で広く食べられるようになりました。田芋は親芋のまわりに子芋がたくさんできるということで、赤ちゃんが生まれた時、長寿のお祝い、お正月などおめでたい時に、縁起物として食べられていますが、作るのに手間ひまがかかるので、今は家で作る人はあまりいないようです。今では、沖縄の人でも食べたことのない人や知らない人もいるようですね」。そう話してくれる佳子さんの横で、英優さんから力強い言葉をいただいた。
「私たちはあえて創作などせず、沖縄の伝統的な料理を守っています。それが多くのお客様に愛していただいている理由なんだと思っています。これからも伝統の味を守り、伝えていきますので、その味を楽しんでいただけるとうれしいですね」。
英優さんの作る沖縄の味は一品料理でも食べられるし、コースも用意されている。
最後に『ドゥルワカシー』のエピソードを佳子さんに教えていただいた。
「江戸時代にペリーが来た時、浦賀に行く前に沖縄に立ち寄っているんです。その時に宮廷料理をふるまっているようなので、ペリーも『ドゥルワカシー』を食べているかもしれないですよ(笑)」。
田芋、田芋の茎に、写真のラフテーを細かく刻んだもの、水で戻したキクラゲと干しシイタケの3つが加わる
泡盛、水、醤油、黒糖、三温糖を合わせて豚三枚肉を煮込んだラフテーの煮汁と、豚出汁(豚三枚肉のゆで汁)で味付けする
下ゆでした田芋と田芋の茎をラフテーの煮汁と豚出汁を合わせたもので煮込む。その他の材料を合わせ弱火で熱を加えながら練り上げる
沖縄の伝統的な織物である『首里織』の作家でもある店主・仲村佳子さんが1998年に開いた店。伝統的な琉球料理を今に伝えている。一品料理もそろうが、多くの味を楽しみたいのならば会席料理がおすすめ。田芋、田芋の茎、刻んだラフテー、キクラゲ、干しシイタケをラフテーの煮汁などで煮込み練り上げる『ドゥルワカシー』。それぞれの旨味が重なるやわらかな味わいだ。