ニンジン、シイタケ、サトイモなど阿蘇で収穫される野菜が中心で肉類は入らない。仕上げにはネギがちらされることが多い
小麦粉と水で作る“だご”が主流。水加減、生地のこね方、切り方やのばし方など、様々な種類の“だご”がある
出汁は昆布やいりこをベースにしたものが多い。味の決め手となる味噌には作り手の好みや工夫が反映されている
『だご汁』や『高菜めし』など素朴な阿蘇の味を食べることができる『山賊旅路』。元気な笑顔で出迎えてくれたのは、いつも半袖姿の女将・永野慶子さんだ。
「うちの『だご汁』はボリューム満点やけん、『だご汁』単品とか、それにおにぎり1コつけて食べる人も多かね。けど、『だご汁』と『高菜めし』のセットが人気よ。それが“田舎のセット”よね(笑)。だから、『だご汁』と『高菜めし』のどっちが人気があるかはわからんね」。
まずは『だご汁』の具材を見せていただいた。
「使う野菜は芋ガラ、モヤシ、ニンジン、油揚げよ。家によっては、サトイモを入れたりゴボウを入れたりもするね。芋ガラというのはね、サトイモの茎なんです。収穫して皮をむいて干したものを、軽く洗って切って使うんよ。知らん人は『フキですか?』と言ったりもするけど、イモの味もするし、うちの『だご汁』には欠かせない味なんよね。芋ガラを入れるといい具合にとろみも付くしね。芋ガラはこのあたりでは昔からお煮しめ(煮物)にしたり、甘辛く炊いて巻き寿司の具にしたり、よく食べよったよ。食べると腸の中をきれいにしてくれるという話もあって、長生きの具材とも言われています。高森町とか清和村で元気なお年寄りは、みんな食べよったみたいよ」。
具材と“だご”を出汁に入れ、味噌を溶いてできあがる『だご汁』。すべて注文が入ってから作られている。
「うちの『だご汁』の味は、主人の母親の味。『だご汁』作りは主人が頑張っています」。
ご主人の永野博吉さんに『だご汁』を作っていただいた。
昆布出汁を温めて、まずニンジンとモヤシを入れ、その間に別の鍋で“だご”をゆがきます。
“だご”の生地は、国産小麦粉と水を合わせて前の日に手でこね、一晩ねかせたもの。
注文が入ったら麺棒でのばして5cm幅くらいに切ってゆがくんです。
素早くのばさんといかんから、生地はやわらかめですね。
ゆであがったら、ざるに上げて水でしめてから、先ほどのニンジンとモヤシが入った鍋にいれます。この時、火力を強くしとかんと、いかんですね。そして、残りの野菜を入れて味噌を溶きます」。
『だご汁』に使われる味噌は5種類だ。
「赤味噌、麦味噌、米味噌などをその場で合わせています。同じ味噌でも、その時々で熟成具合や味が違ったりもするので味見もするけど、色を見れば大体わかりますね。味噌汁に使う味噌は2種類やから、『だご汁』は、ちょっとぜいたくかな。それから、『だご汁』は1度に(1つの鍋で)7杯しか作りません。そうしないと味が変わってしまうんですよ」。
撮影のため、ゆっくり作っていただくようにお願いしていたのだが、それでもかなりの早さだった。
「いつもは今日の10倍早いよ」。
器に盛り、おろしショウガ、ネギ、カマボコ、海苔、薄焼き玉子をのせてできあがりだ。
「『だご汁』はね、できあがってから3分以内に提供しないと、主人に怒られるんよ(笑)」。と慶子さん。
「『だご汁』は麺と同じで、時間が経つとのびちゃいますし、表面がべちゃっとしてしまうけんね。熱々を食べてほしいしね」。と博吉さん。
熱々の『だご汁』は、味噌の深い味わいの中にツルッとしてモチッとした“だご”の食感が踊る。芋ガラはザクッとした食感とともに『だご汁』にコクを与えているようだ。おろしショウガがさらに身体を温めてくれる。
「“だご”に使う小麦粉は、前は輸入ものを使っていたのですが、国産小麦にしてから、味も食感も格段に良くなったね」。
『だご汁』の“だご”と言えば小麦粉を使ったものが多いが、こちらでは米粉で作る“だんご”が入った『米だんご汁』を食べることもできる。慶子さんは小さい頃は、この『米だんご汁』をよく食べていたのだそうだ。
「米粉で作る時は丸めるので“だご”ではなく、“だんご”と呼ぶんよね。私は家が農家だったから、米粉の“だんご”を使った『だんご汁』をよく食べよったんやけど、昔は米は貴重やから、どこの家でもよく食べていたわけではなかったみたいよね。うちの“だんご”はもち米と米を2対1の割合でこねた生地を丸めたもの。もち米だけだと粘りが出すぎるけんね。もち米も、米も自家製よ。米粉の“だんご”は、ねった後で1コずつ丸めんといかんし、ゆでるのもちょっと時間がかかるね。小麦粉の“だご”よりも、もちもち弾力があって、『だんご汁』も美味しいよ」。
慶子さんがそう話してくださった、ほのかな甘味もある米粉の“だんご”は、お腹にたまり、より腹持ちが良さそうだ。
「『だご汁』はね、子どもさんも好きみたいでたくさん食べてくれるんよ。うれしいね(笑)。最近、阿蘇は食材として赤牛も有名になってきたけど、『だご汁』がおろそかになったらいかんけん、あんまりメニューは増やせんね」。
『だご汁』や『だんご汁』、『高菜めし』を求めるお客さんと、慶子さんをはじめ元気に店内を駆け回るスタッフのみなさん。お店はいつも明るくにぎやかだ。
煮込む具材は芋ガラ、モヤシ、ニンジン、油揚げ。最後にネギ、カマボコ、海苔、薄焼き玉子焼きがのせられる
国産小麦粉と水を合わせたものを、前の日にこねて一晩ねかせ、注文が入ったら麺棒でのばして5cm幅くらいに切ってゆでる
出汁は昆布出汁。味噌は赤味噌、麦味噌、米味噌など全部で5種類。鍋に入れる際に、それぞれの適量をおたまで加える
国道57号線沿いにあり、『高菜めし』や『だご汁』など、食べるとほっとする素朴な料理を提供し続けている。女将・永野慶子さんを先頭に、スタッフのみなさんが元気に応対してくれる。『だご汁』の“だご”は、国産小麦粉と水をこねて一晩ねかせ、注文が入ってからのばして切る。5種類の味噌を使って生まれるコクのある味わいがよくからむ。