九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

麺

小麦粉と塩水のみで作る麺は各店特製。自家製麺を使う店も多い。ゆで時間に影響する太さや形にも各店の特徴がある

ゆで方

大きな釜で注文が入ってからゆで始める。使いこんだ羽釜を見ることも多い。ゆであがりは、麺の状態を見たり、麺に触れたりして判断する

ツユ

昆布、カツオ節、イリコ、干しシイタケなど出汁の材料は各店様々だが、味付けは醤油とミリンだけというシンプルなところが多い

語り 釜揚げうどん 戸隠 猪野龍治の「釜揚げうどん」

店主・猪野龍治さん

夜の繁華街・西銀座通り沿いに、1967年に創業した『戸隠(とがくし)』。壁に多くの有名人のサインが飾られた店内は80席という広さだ。
「私の両親が社交ダンスを教えていて、ここはかつてダンスホールだったんです。生徒さんたちを子どものように思っていた両親は、夜になっておなかが減った生徒さんたちにいろいろなものを食べさせていました。その中で一番評判がよかったのが『釜揚げうどん』でした。初めは隅の一角でやっていたのですが、口コミで聞きつけた方がいらっしゃるようになり、だんだんお客さんが増えて、昭和42年にうどん屋をやろうということになったのです」。
店主・猪野龍治さんはご両親の味を踏襲しつつ、『さらに美味しいものを』と2014年に麺を改良した。「宮崎では、うどんの麺はやわらかいものが好まれます。お客さんが注文して、生麺からゆでなければ本当の釜揚げではありませんが、15分も20分も待っていただくのはなかなか難しい。なるべく短い時間でゆであがるように細麺です。そして、やわらかさの中にも、もちもち感がある麺を目指して試行錯誤したのです。かなりいい麺になったと思っています」。

『釜揚げうどん』に欠かせないツユの味は、昔から変わらない味わいだ。「母の叔父が料亭旅館で花板(板長)をしていたので、日本料理のコツを教えてもらってできあがりました。昆布とカツオ節で出汁をとり、醤油とミリンで味付けします。宮崎はシイタケとかイリコの出汁が好まれますが、うちでは一切使っていません。カエシ(醤油・砂糖・ミリンなどを合わせ、加熱した調味料)も使わないですね。営業が終わってから、次の日に使うツユを毎日作っています。作ってすぐではなく半日ねかせることで、まるみが出てやわらかい味わいになるんです。ツユは私ひとりで作っているんですよ」。
ツユに入れられる薬味はネギ、揚げ玉、ユズペースト。「このペーストは、ユズの皮をすりつぶしたものです。11月〜12月のユズの収穫シーズンに仕入れて皮の状態で保存しておきます。昔はユズの皮を小さく切って入れていたのですが、ペーストにしておくと口の中でユズの皮の感触を感じることもないですからね」。

厨房には大きな羽釜が4つ。そば用、うどん用、元湯、うどん用という並びだ。「1つの釜にうどん玉が20玉入るので、一度に40玉をゆでることもありますよ」。

麺をざるにとって羽釜に入れる。1人前は110g〜120gくらいだ

「お湯は開店当初は透明ですが、やがてだんだん白濁してきます。麺の旨味が溶け出してくるんですね。ツユをゆで汁で割って飲むのも美味しいですね。ちなみに、父がそば好きだったので、開店当初から釜揚げそばもやっています。そばを食べられる方は全体の1割くらいかな」。そうお話してくださりながらうどんをゆでる猪野さんのユニフォームは、身体が透けて見える網シャツだ。
「元々は自宅の一角みたいな厨房で作っていましたから、とても暑かったんです。夏は60度ぐらいになるし換気もよくなかったですね。だから薄着になるのですが、うどんをゆでているとお湯がはねます。普通の肌着だとお湯が肌着に張り付いたようになって火傷しやすいんですよ。網シャツのほうが、肌着にくらべ火傷しにくいんです。それが今も続いているんですよ。インパクトがあるとは思います。『戸隠は忍者の里だから?』とも言われます(笑)。たまに着ていないと常連さんに『今日は網シャツじゃないと?』と言われることもありますね」。
『戸隠』は創業前、知合いの方に提案され、“天岩戸伝説で、宮崎と戸隠(長野県)とは縁がある”ということもあり命名されたとのことだ。

タイマーなどはなく、ゆで時間は感覚とのこと

麺は湯の中に入れて6〜7分でゆであがる。
「ゆで時間は天候によって変わりますね。最終的には手でつまんで確認しています」。

丼に麺とゆで汁を入れる

ゆであがった麺をツユにつけて食べると、ユズペーストの風味が広がり、味も香りも奥深い。この味にいなり寿司がよく合う。

温めたツユを器に注いでできあがり

「うどんにも、ツユにゆで汁を加えたものを飲みながら食べても合うようにいなり寿司は甘めにしています。最近の若い方は、麺とごはんを一緒に食べないですね。糖質×糖質だから敬遠されているのでしょうか。美味しいのにね(笑)」。

夜の繁華街に近いことから、飲んだ後の締めで訪れるお客さんが多いという猪野さん。
「21時くらいにピークが来ます。1次会で帰られる方が寄ってくださるんです。平日の21時過ぎはスーツ姿の方がいっぱいで、社員食堂の様な感じになっています(笑)。そして、週末は午前1時過ぎにもピークがやってきます。やはり飲んだ後の締め。宮崎人は飲むとうどんが食べたくなるようです(笑)。プロ野球の秋季キャンプとゴルフトーナメントで11月と12月はにぎわいますし、2月はプロ野球のキャンプでさらににぎわいます。多い時は1日に800人くらい来られるんですよ」。
『釜揚げうどん』で身体も心もあたたまったお客さんを見送った後、猪野さんは明日に向けてツユ作りを始めるのだ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

麺

なるべく短い時間でゆであがるようにと細麺。宮崎で好まれるやわらかさの中にも、もちもち感がある麺を目指したものだ

ゆで方

麺は湯の中に入れて6分〜7分でゆであがる。ゆで時間は天候によって変わるということで、最終的には手でつまんで確認する

ツユ

昆布とカツオ節だけで出汁をとり、ミリンと醤油で味付け。薬味はネギ、揚げ玉、ユズの皮をすりおろしたユズペーストだ

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釜揚げうどん 戸隠 料亭の技を基本にしたユズ香るツユ

1967年創業。店主・猪野龍治さんは閉店後の深夜に翌日用のツユを仕込む。「両親が店を始めたのですが、母親の叔父が料亭の料理人で、教えてもらった日本料理のコツを使ってツユを作りあげました」。昆布とカツオ節で出汁をとり、醤油とミリンを合わせる。ユズ皮のペーストを加えることで、味も香りも奥深いものとなる。細めの麺との相性も抜群だ。

『釜揚げうどん(並)』650円(税込)には漬け物がつく。『釜揚げそば(並)』も650円(税込)
甘めの味付けが『釜揚げうどん』によく合う『いなり』150円(税込)
『山かけうどん(並)』850円(税込)。ミキサーできめ細かく泡立てた卵白・すりおろした山芋・卵黄を加えたツユで食べる珍しいスタイルで人気の品
店を訪れた有名人のサインを見るのも楽しい店内

釜揚げうどん 戸隠(とがくし)

住所 宮崎県宮崎市中央通7-10
電話 0985-26-2872
営業 19:00〜翌2:00
休み 日祝日
80席
カード 不可
駐車場 なし
URL http://www.miyazaki-togakushi.com
※記載した内容は2015年12月21日現在のものです。
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