胸肉、もも肉、ササミなど家庭ごと、店ごとに様々な部位を使う。ニンニクや醤油などで下味をつけ、適当な時間ねかせておく
衣の材料は冷水、小麦粉、卵。卵の分量を多めにすることで、ふんわり感が出るように揚げるのが『とり天』の特徴だ
酢醤油、カボスを使ったポン酢、天ぷらのツユなどで食べる。いずれもジューシーな鶏肉に合うようにさっぱり目に作られている
「取材用のとり天はとっちょかなねっていいよりました。ちゃんとありますよ(笑)」。
そう言って私たちを迎えてくださったのは、仲恵美子さん。ご主人の真(まこと)さんも横でにこにこしながら出迎えてくださる。『美味 なかよし』の創業は1971年、2011年で40周年を迎えた。
店内に掲げられたメニューは『とり天定食』『日替り定食』『日替わりととり天セット』の3つのみ。『日替わりとり天セット』はとり天と日替わりをミックスしたものだから、実質2種類ということだ。
「店をはじめた当時はいろんなメニューがあったけど、『とり天』と日替わりだけになりました。日替わりには、ササミのしそ巻きとかトンカツとかサバの味噌煮とか用意しとるんですよ。「日替わりは今日は何?と聞く人は多いけど、結局『とり天ください』となるんですよ(笑)。『とり天』頼む人が8割やね」。
それほど『美味 なかよし』の味は愛されているのだ。
「私は犬飼出身、主人は津久見出身。私が大分に来ておぼえた味よ。味も作り方も変わってないですね〜」。
「ちょっとせまいけどごめんなさいね〜」。と厨房に案内してくださった。
「うちでは鶏もも肉を使うんやけど、きれいに皮をはぎます。皮をはいだほうが食感がいいものね。皮ははぐけど身はジューシーよ。一口大に切ったら下味つけます。おろしニンニク、砂糖を少し、醤油を合わせて鶏肉を入れて軽く混ぜて、1〜2時間ほど漬けておきます。唐揚げだと下味の材料を入れてしっかりもみこむけど、とり天はさっくりと混ぜます。タレにつけて食べるから、漬けすぎると味がしつこくなってしまうんよね」。
ほどよく下味がついた鶏肉に衣がつけられる。
「衣の材料は、水と卵と小麦粉。私はおおざっぱだからなんでも目分量(笑)。だけど、卵は多めですね」。
油が入った鍋は開店当初から使われている年季のはいったものだ。
「油に入れて沈んだものが浮かび上がってきて、泡と音がいい感じになったらできあがりです。揚げ方が大事ね。揚げすぎると固くなるっていうか、味がなくなっちゃうんです。ちょっと早いかなくらいがちょうどいいね。余熱で熱が通っていい感じになるからね。忙しい時には2つの鍋を使って一度に6〜7人前の鶏肉を揚げます。じゃんじゃん揚げる時はいいんだけど、1人前だけとかのほうがむずかしいかな(笑)」。
揚がった鶏肉にはキュウリとたっぷりのキャベツが添えられる。それは毎朝手切りされたもの。
「黙々と切ってますよ。店の前を通って通勤される方たちの姿を見ながらね。『あの方が通ったとか、あの方は今日は遅いな〜』とか思いながらね(笑)」。
揚げたてのとり天をタレにつけて一口。じゅわっとジューシーな鶏肉に、さっぱりした酸味がありピリリと辛いタレがからみつく。
「主人が国道沿いでラーメン屋をやっていた時期もありまして、その時に作っていたギョウザのタレをアレンジしたのがうちのタレなんですよ。材料や分量は秘密ね(笑)。お客さんに出す前に、一味唐辛子とゴマを加えます」。
さて、大分のとり天にはからしが添えられていることが多いのだが、こちらのとり天にはからしは添えられていない。
「私が、からしの香りが得意ではなくて、入れなかったのが元々の理由です。からしがなくてもピリリとしたタレだしね。それが、他の店とは違うということでみなさんにうけたみたいです(笑)」。
ボリュームもあるこちらのとり天、お皿には一口サイズの鶏肉を、基本11コ盛るのだそうだ。
「一番初めは10コだったんだけど、おまけで1コつけて11コにしたんです。それがそのまま続いてます。大体数えてやってるんだけど、忙しい時は12コになることもあるね〜(笑)」。
その量にして、今まで(2011.11.09現在)値上げは1回しか行なっていない。
「前は500円だったけど、消費税が上がった時に600円にしたとよ。がんばってます(笑)。小さい頃来てくれよった子が、やがて奥さん連れてきて、子ども連れてきて…2世代、3世代のお客さんもいてうれしいですね」。
かつては大分だけのものだった『とり天』も、今や全国区。仲さん夫妻も毎日忙しい。
「ブームがきて、ありがたいですね。県外の方もよう来てくれて、昼間は座られんごと来てもらえるとよ。県外の方は席が空いていればそこに座るけど、大分の人は相席が嫌いみたいやね(笑)。みなさん食べに来てくれるけど、私たちはあんまり食べんよ。見るのも嫌なほど毎日揚げよるけんね(笑)」。
鶏もも肉の皮をきれいにはぐ。一口大に切って、おろしニンニク、砂糖、醤油などを合わせてさっくり混ぜ、1〜2時間ほど漬けておく
衣は、水と卵と小麦粉。卵は多めに入れる。揚げすぎると固くなるので、早めに油から出し、余熱で熱を通してやわらかく仕上げる
ほどよい酸味と甘味を持ち、仕上げに一味唐辛子とゴマが加わる。こちらのタレには、からしが添えられないのも特徴の一つ
メニューは『とり天定食』『日替り定食』『日替わりととり天セット』の3種のみ。優しい笑顔の仲恵美子さんが作る『とり天』は、開店以来、味も“一皿11コ”という数も変わっていない。鶏もも肉の皮を手間ひまかけてすべて取り除いているので、さっぱり&ジューシー。ゴマと一味唐辛子が入った特製タレがもも肉の旨味とよく合う。地元の方々でいつもにぎわう。