九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

蓮根

産地、形などで味わいが異なるので各店とも独自に仕入れる。また、ゆで方によって食感が変わってしまうので、職人の腕の見せ所

からし味噌

味噌とからしを合わせて作られ、蓮根の穴に詰められる。辛めのも、甘めのもの…各店の個性を出すための重要な味となる

揚げ方

小麦粉、クチナシ色素などを水で溶いた衣をつけて揚げる。箸ではない先端がカギ状にまがった“手カギ”を使うのは各店とも同じだ

語り 村上カラシレンコン店 村上範年の「からし蓮根」

村上範年さん

ゴトゴトという路面電車の音が響く場所にあるお店は昭和32年(1957年)に開店した。
「父親と祖母が始めた店なんです。僕は小さい頃はあまり食べてなかったですね。食べ始めたのは大人になって、お酒を飲み始めてからかな。からし蓮根作りは、親父に教えてもらいました。けれど、何も教えてはくれなかったですね。『見て覚えろ』みたいな感じで」。
そう言いながら笑う村上範年さんに、からし蓮根のことを教わった。

からし味噌はスピーディーに詰める。手で詰める場合も

からし蓮根に使う蓮根は『フヨウ』種と呼ばれるもの。下処理としては洗うだけで皮はむかない。
「蓮根は山芋と同じで切ると糸をひきますよね。皮をむくと、そのぬるぬるが出てきて、衣がつきにくくなるんですよ。だから皮付きのままなんです」。

きれいに洗った蓮根はゆでて冷やされ、穴にからし味噌を詰める。
「特製の麦味噌にからしを混ぜます。普通の味噌とは風味も違うからし蓮根専用の味噌なので、みそ汁にしても美味しくないですね。味噌とからしを混ぜる時は生のままです。火を入れると味噌が焦げるし、辛子の風味がとんでしまいますからね」。

からし蓮根にとって、からしの風味はとても大事なもの。その風味を落とさないために、詰め方も大切なのだそう。
「手で詰める場合もありますが、機械を使って一気に詰めます。からし味噌は空気にふれると風味がとんでしまうので、できるだけ短い時間でやることが必要なんです。スピーディーにやらないといけませんね」。

からし味噌を詰める作業をしながら、蓮根には上下があることを教えていただいた。
「蓮根には頭とおしりがあります。断面を見て、小さな穴の数が多いほうが下のほうなんですよ。頭を下側にしてからし味噌をつめていきます」。

蓮根の上側の断面と下側の断面。下側のほうが小さい穴の数が多いことがわかる

からし味噌を詰めたら一日ねかせ、なたね油で揚げる。
「余分なからし味噌が蓮根の穴からうきあがってくるので取り除きます。それと、ねかせるのには、水分が蒸発することによって熟成するという意味合いもありますね」。

衣は小麦粉、空豆の粉、ウコンの粉を冷水と混ぜたものだ。
「冷水じゃないとうまく混ざらないですね。混ぜすぎると粘りが出てしまうし、混ぜ方は難しいところです」。

衣をまとった蓮根は、先端がかぎ状になっている棒でさして、フライヤーに入れられる。
「真ん中ではなくて、やや左側にさすことで、重心の具合で蓮根がたてになり、油に入れやすくなります」。

なたね油が入った円形のフライヤーに入れられ、自動で揚げられていく。きれいな黄色のからし蓮根が次々に揚がっていく。
「黄色は食欲増進の色ですね。輪切りされたからし蓮根は食べたことがある方でも、元の形を知らない方もいらっしゃいますね。かたまりの状態を初めて見た方は、卵焼きと思われたりもするようです。小ぶりなやつをレモンと言う方もいましたよ(笑)」。

衣をつけてなたね油の中へ。小さい蓮根だと短い時間で揚げるように設定する

熊本を代表する郷土料理と呼ばれているからし蓮根。村上さんは、その味を守りつつ、新しい取り組みにもチャレンジしている。
「からし蓮根は、熊本名産と言われるけど、1〜2切れ食べれば十分なものですよね。もっと食べていただくにはどうしたらいいのか。切って肴にするだけではなく、もっと料理に使えないのか…。例えば、からし蓮根は野菜なので、トマトにも合うし、マスタード味なのでパンにも合います。輪切りの上にチーズのせてトマトのせてオーブンで焼くとワインにもよく合うんですよ!! そんなふうにいろんなバリエーションがあっていいと思います。基本的なところはしっかりと作って、アレンジを加える。作るだけではなく、食べ方の提案をする。そんなことをやっていきたいですね。昔からの人には邪道と言われるかもしれないけど(笑)、それは新しい発想だと思うのです」。

からし蓮根コロッケの中には、ほどよい粒状態になった蓮根が入っている

そんな中、お客さんの声から2006年に生まれたのが『からし蓮根コロッケ』とそれがバンズにはさまれた『からころバーガー』だ。
「お年寄りから、歯が悪くなってからし蓮根を食べたいけど食べれなくなってしまったという話を聞いたんです。どうしたらいいのかは、お店が提案しないといけないと考えました。お客様の声は大事ですからね。そこでからし蓮根コロッケを思いついたんです。蓮根をゆがいて少し歯応えが残る程度にミンチ状にすりおろし、それにからし味噌をまぜて形をつくり、パン粉だけを衣にして揚げるんです。1コあたり輪切り2切れ分くらいのからし蓮根が入っていますが、味はまろやかです。からし蓮根は土産になってしまっていますが、かつては庶民が普通に食べていたもの。そこで、大衆食のコロッケと組み合わせてみようと考えついたということもありますね。からし蓮根コロッケは子どもにもうけていますよ」。

『からし蓮根コロッケ』にはピリッとする辛さはなく、からしの風味だけが鼻をくすぐる。とても食べやすい味わいだ。

『からころバーガー』は、からし蓮根コロッケとたっぷりのキャベツを、オリジナルのバンズではさんだもの。からし蓮根コロッケにかけられたソースは、名古屋のミソカツのタレに似た、2年かけて開発したというニンニク味噌がベースだ。

「からし蓮根コロッケやからころバーガーのように、酒がすすむ脇役としてだけではない、からし蓮根の食べ方を考えていきたいですね。基本的なことは守りながら、“辛いもの”から“より美味しいもの”へと、いろんな提案をしてからし蓮根を高めていかなければならないと思っています」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

蓮根

『フヨウ』種と呼ばれる蓮根を使用。揚げる時に衣がつきにくくならないようにするため、皮をむかずに洗って、ゆで、からし味噌を詰める

からし味噌

空気にふれて風味がとんでしまわないようにできるだけ短い時間で蓮根の穴にからし味噌を詰める。そのまま一日ねかせて熟成させる

揚げ方

小麦粉、空豆の粉、ウコンの粉を冷水と混ぜた衣をつけ、なたね油で揚げる。余分な粘りが出たりしないように衣をつくるのが熟練の技

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村上カラシレンコン店 『からし蓮根コロッケ』を生み出した店

伝統的なからし蓮根をしっかりと作るかたわら、からし蓮根を使った新たな取組みも行なわれている。『からし蓮根コロッケ』は、ゆでた蓮根をすりおろしたものとからし味噌を混ぜ合わせ、形を整えて揚げたもの。子どもにもお年寄りにも人気だ。そのコロッケにニンニク味噌をベースにしたソースをかけ特製バンズではさんだ『からころバーガー』も美味。

からし蓮根は100g250円。1本500円のものが並べられている。また、スティック状で1本140円のものもある
『からし蓮根コロッケ』1コ100円
『からころバーガー』300円。ソースの甘味とからし蓮根の風味もよく合う
市電『段山町駅』近く。店の前には線路があり、懐かしい電車の音が聞こえてくる

村上カラシレンコン店

住所 熊本市新町3-5-1
電話 096-353-6795
営業 8:30〜17:00
休み 土曜
カード 不可
駐車場 なし
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