九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

豚肉

豚肉の骨付きあばら肉を使う。現在、飲食店では、鹿児島特産の黒豚の肉を使っているところが多い。軟骨を一緒に使う場合もある

味付け

基本は、味噌、黒砂糖、芋焼酎と鹿児島で馴染みの深いもの。仕上げにミリンを加えたりもする。使う味噌は麦味噌や合わせ味噌など

作り方

豚肉の余分な脂を抜いた後、調味料と一緒にコトコトと煮込んでいく。火を止めた後でねかせることで、肉に味がより染み込む

語り 正調さつま料理 熊襲亭 黒川真理の「とんこつ」

黒川真理さん

昭和41年に開店した『正調さつま料理 熊襲亭』。屋号の前にある“正調さつま料理”とは何なのだろうか?
「鹿児島のすばらしい素材を使った鹿児島ならではの料理をコース仕立ての料理で伝えようということで初代が考案したのが『正調さつま料理』なのです。その中で、『とんこつ』、『キビナゴ』、『酒ずし』がうちの3本柱です。『とんこつ』も看板メニューの一つですし、ぜひ召し上がっていただきたい一品ですね。ご存知ない方には『骨つきの豚のあばら肉を使った、角煮と似ているけど違うもの。角煮は醤油ベースでとんこつは味噌ベースです』とご説明してお勧めしています」。

若女将・黒川真理さんは『とんこつ』の美味しさを広く伝えようとされているのだ。

豚肉の脂を抜くために焼く作業。豪快だ

黒川さんが自信を持って勧める味わいは、料理長・佐々木等さんを中心とした料理人さんたちの腕から生まれる。
「『とんこつ』は、1度に黒豚の骨付きあばら肉200kgほどを使って作りますよ。1コ120gくらいにカットしたものをまず焼きます」。

フライパンに油をひき、豚肉が焼かれていく。フライパンをガステーブルの上で勢いよく揺するので、フライパンの底面は凸凹だ。
「30年以上使ってますから年季の入ったフライパンですね(笑)。煮込んだ時に形が崩れないように全体に焼き目をつけます。煮込んだ時に色ののりも良くなりますね」。

時折大きな炎もあがる豪快な作業だ。そして、ここからさらにスピード感のある作業が進む。肉を焼く横には大鍋で湯が沸かされている。フライパンから直接そのお湯の中に肉を入れ、すぐに網で取り出したら、流水にさらす。
「お湯で脂を抜いて、さらに流水でも脂を落としているのです。脂が抜けたところで、水に芋焼酎とショウガを入れて2時間ほどアクをとりながら煮込みます。豚肉の臭みが取れて、身がやわらかくなりますね」。

『とんこつ』に添えられるその他の素材

ここからが味付けだ。
「合わせ味噌、白味噌、赤味噌、黒砂糖、地酒などを合わせたものを水で溶いた煮汁で1時間ほど煮込みます。これが1回目の煮込みで、煮汁の色はまだ白っぽいです。次に1回目よりも濃い煮汁で煮込みます。これで2回目。そして、さらに濃い煮汁で煮込みます。これが3回目。その後一晩ねかせ、みりんなどで仕上げます。つまり3回煮込んで徐々に味を濃くしていくのです。この煮汁は継ぎ足し継ぎ足ししているものなので、家で作ることはできません。うちは専門店ですからね(笑)。合計3時間以上は煮ているので箸でほぐれるほどやわらかいですし、なんこつの部分も食べられますよ。一緒に添える大根とコンニャクなどはあまり色が濃くならないように、豚肉の1回目の煮込みに使う煮汁で別に煮込んでおきます。野菜はタケノコや、夏は大根の代わりにトウガンを使ったりもしますね。冬は大きめの桜島大根を入れることもありますよ」

飴色になった豚肉に煮込まれた野菜、ネギと針ショウガが添えられてできあがり。肉の塊は一般の角煮などと違って大きめなので豪快にも見えるが、味噌や黒糖の風味をまとったやさしい味わいだ。焼酎も欲しくなる、ごはんも欲しくなる。

最後に黒川さんが郷土料理に対しての意気込みを教えてくださった。
「『とんこつ』は武士たちが戦場で作っていたのが発祥と言われていますが、その後、鹿児島の家庭料理になっていますからね。懐かしく感じる味でもあるのではないでしょうか。この甘さは美味しいと思います。若い方にもこの懐かしい味を食べていただきたいですね。継ぎ足し継ぎ足しのタレを使って作るうちの『とんこつ』は調理人が変わっても変わらない、創業以来の味です。50年、100年やっていきたいと思っています。郷土の味を継承し、発展させていくこと…『とんこつ』をはじめ、素朴でやさしい味わいのさつま料理を通して、地域社会に貢献するのが私たちの使命だと思っています」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

豚肉

黒豚の骨付きあばら肉を、煮込んだ時に形が崩れないように全体に焼き目をつける。その後、湯に通し流水にさらすことで余分な脂を取る

味付け

合わせ味噌、白味噌、赤味噌、黒砂糖、地酒などを水で溶いた煮汁で味付け。濃さの違う煮汁が3種類ある(写真は最も濃いものと薄いもの)

作り方

濃さの違う煮汁が3種類あり、薄味のものから濃い味のものへと3回に分けて煮こむ。合計3時間以上かけて肉をやわらかくする

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正調さつま料理 熊襲亭 コース仕立てで、さつま料理を味わう

昭和41年の創業以来、変わらない作り方で、さつまの素朴な味を伝え続けている。『正調さつま料理』(2800円〜)をいただけば、とんこつ、キビナゴ、さつま揚げといった鹿児島を代表する味わいを一度に楽しむことができる。2011年からメニューに加わった、『さつま黄金しゃぶ』は、魚介系の金色の出汁を使った新しいスタイルの黒豚しゃぶしゃぶだ。

ネギと針ショウガものって、彩りも美しい『名物黒豚豚骨』840円。おみやげにもできるし、真空パックしたものを取り寄せることも可能
自家製辛子酢味噌でいただく『キビナゴの刺身』1575円、ごはん1升に対して酒1升を使うという『酒ずし』1575円
写真は旅行客も気軽に入れる1階の席。2階には大小の宴会場がある

正調さつま料理 熊襲亭

住所 鹿児島市東千石町6-10
電話 099-222-6356
営業 11:00〜OS14:30/17:00〜OS21:30
休み なし
300席
カード
駐車場 なし
URL http://www.kumasotei.com/pc/
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