鶏肉、野菜、カマボコ、高野豆腐、もちなど十数種類の具材が入っている。島原特産の白菜である『シロナ』を使うことも多い
コンブ、カツオブシなどからとった出汁と醤油などで作られたあっさり味が基本。出汁をとるのに使う島原の湧水も大切な要素だ
数人前を一度に作るのではなく、土鍋で一人前分ずつ煮込んでいく。具材の旨味の出方やもちのやわらかさが適度になるようにする
店の前には『具雑煮』と書かれた力強い看板。文字からもにぎやかな彩りからも、元気なお店だということがなんとなくほとばしり出ているようだが…。
「遠くからよういらっしゃいました!!まあ、入って入って」と予感通り、中に入るなり店主・高原信義さんがよく通る元気な声で出迎えてくださった。
「食べることが得意なんです(笑)。小さい頃、街に出た時にショーウィンドーに並ぶ寿司を見て、こういうの作って食べてみたいと思って寿司職人の道を選びました」という島原出身の高原さんは、かつて東京・新橋で仕事をされていた。かの松下幸之助氏に寿司を握ったこともあるのだそうだ。
島原に帰ってきて、昭和42年11月1日に『江戸新』を開いた。
「その時から、東京仕込みの寿司と、小さい頃から食べていた具雑煮との二本立てでやっていこうと決意しておりました!!」。
高原さんが店の柱として作り続けている具雑煮は、全14〜15種類の具材が入る本当に具沢山のもの。
「もち、ゴボウ、ニンジン、シロナ、みつば、ちくわ、なにわカマボコ、赤いカマボコ、高野豆腐、切り昆布、焼きアナゴ、鶏肉、シイタケの13種類は必ず入ります。あと時期によって春菊や小松菜なども入り全部で14〜15種類の具材になるんです。アナゴは諫早湾で獲れる最高のものですよ。もちは具雑煮用に特別に作っていただいたものです」。
それらの具材がツユを入れた土鍋に山盛りにのせられる。ツユはそれぞれの具材の味わいを引き出すために研究を重ねて作られたものだ。
「昆布、カツオブシ、アゴ、アナゴなどでとった出汁がベースです。使っている水は島原の温泉水ですよ」。
火をつけるとできあがるまで鍋の前につきっきり。
「ぐつぐつしてきたら、途中でツユを加えないといけないし、もちは煮過ぎるといかんし、目が離せませんね。山盛りだった具材が沈んでしまったらできあがりです」。
たくさんの野菜の甘味がとけだしたツユは、とてもやさしい味わいとなる。もちにからまる野菜も美味だ。
「昔は、お正月のごちそうでしたね。私も大好きです。今でも、鍋に口つけてツユの最後の一滴まで飲み干しますよ(笑)。具雑煮食べて元気になれます」。
具雑煮に使われる野菜も、寿司飯も寿司ネタもほとんどが地元のもの。長崎県農林部農政課が認定する《長崎地産地消こだわりの店》の認定も受けているほどだ。
「島原の食材は海と土と太陽の恵みです。具雑煮をはじめ、地元の食材をふんだんにとりいれた料理で、旬の島原の美味しさを感じていただきたいですね。出前に行くと、野菜をたくさんもらったりもするんですよ。野菜もすばらしいものができているし、人情もありますね。地域の食をつうじて島原のためになにかやっていければと思っています。『具雑煮ってどんなものですか』という質問をはじめ、島原のことをよく尋ねられますので、料理を作るだけではなくて、観光的な説明もしないといけないですね。楽しみながらやらせていただいてます(笑)」。
最後にお店の玄関で直筆の看板とともに写真を撮らせていただいた。店の前を通る人みんなとあいさつを交わす高原さん。具雑煮に負けないくらい、この街にしっかりと根をおろされているようだ。
もち、ゴボウ、ニンジン、シロナ、みつば、焼きアナゴ、鶏肉などの定番13種類に加えて、時期よって春菊や小松菜なども入り全14〜15種類
昆布、カツオブシ、アゴ、アナゴなどでとった出汁がベース。出汁をとるのに使われる水は、島原の温泉水だ。具材の味を引き立てる
煮たってきたら、途中でツユを加える。もちを煮過ぎないようにするため、煮ている間はつきっきりだ。具材が沈んでしまったらできあがり
かつては東京・新橋で寿司を握っていた店主・高原信義さん。昭和42年、地元・島原に帰ってきてからは、「東京仕込みの寿司と、小さい頃から食べていた具雑煮との二本立てです!!」。具雑煮のツユは、島原温泉水とコンブなどをベースにしたもの。中に入る14〜15種類の具材はどれも島原産だ。多彩な寿司メニューでは、島原の旬を楽しむことができる。