細かなウロコを取り、さばいた後、片栗粉をまぶす。この段階で塩をふるなどして下味をつける場合もある
中まで火が通った後も少し長めに揚げたり、二度揚げしたりと、表面がカラリと揚がるような工夫がなされている
揚がったものに、柑橘類の絞り汁をかけ、塩をふりかけて食べる。シンプルな調味料が『めひかり』の美味しさを引き出す
『日本料理 高浜』は、大正5年創業の老舗日本料理店。『めひかり』の美味しさが広く知られるようになったのは、こちらが『めひかり』料理を作られたからだ。女将・町田栄子さんにお話をうかがった。
「『めひかり』はエビなどを獲る時に一緒に獲れる雑魚だったようです。網をあげたらいっぱい入っているという感じだったのでしょうね。目は大きくて奇妙だし、あまりきれいじゃなくて美味しそうでもない…けれど、漁師さんたちだけは食べたら美味しいことを知っていたんです。素朴で淡白な味わいなので、『漁師が365日食べても飽きない』とも言われていました。当時の漁師さんたちの食べ方は、出汁をとる時にいりこなどの代わりに使ったり、煮付けにしたりしたと聞いています。あんまりたくさん獲れるので、養殖ハマチや豚の飼料になっていたほどなんです。そんな折、昭和56年に映画評論家の荻昌弘さんが延岡に来るということで、『延岡でしか食べられないものはないだろうか?』と、先代女将で私の義母である町田伸子に相談がありました。知り合いの漁師さんと話をしている中で、『めひかりを使った料理を作ってみてはどうだろう?』というヒントをいただいたんです。そして、試行錯誤の上、『めひかりの唐揚げ』と『めひかりの塩焼き』を作り上げました。荻さんも『これは美味しい』と喜んでくださったそうです。当時、グルメ雑誌やグルメ番組の創成期で、食通だった荻さんも雑誌に連載記事を書かれていました。数年後、うちに改めて取材に来てくださったんです。再び来ていただいた時には、唐揚げと塩焼きに加えて、昆布巻き、みりん干し、刺身、寿司も考案されていました。昭和59年に『サンデー毎日』で『めひかり』料理が紹介されまして、それから全国的に広く知られるようになったんです。延岡の人間はみんなのんびりしているというか、控えめなので、『めひかり』は、最初宮崎で盛り上がって、延岡では後から火がつきましたね(笑)。母はよく『めひかりちゃん』と呼んでいました。『めひかり』を美味しい郷土料理として広く知らしめたい、たくさん食べてもらいたいと常々思っていたようです。バイタリティーのある母で、お料理教室などで『めひかり』料理の作り方を教えたりもしていたんですよ。今では病院食や学校給食にも出るようになりました。母の想いがつながっているようでうれしいですね」。
厨房で料理を作ってくださったのは、栄子さんのご主人である大将・町田博信さんだ。
「唐揚げにするには、まず、小さなウロコを包丁を使ってこそぎ落とします。これはなかなか面倒ですね。
頭を落とす時に斜めに切って、胸ビレとエラも一緒に落とします。
その後、内臓を出して水洗いします。『めひかり』は福島県いわき市あたりでも食べられていますが、むこうはウロコを取らずにそのまま唐揚げにしているようですね」。
下処理された『めひかり』には特製塩コショウがふりかけられる。
「この塩コショウは先代女将が作り上げた特別な配合のものです。『めひかりの唐揚げ』に合うように作った専用のもので、他の料理には使いません。この塩コショウをした後、片栗粉をまぶして急速冷凍します。揚げる時は冷凍のまま油に入れます。お店ではすぐにお出しすることができますし、鮮度はまったく落ちませんので、ご家庭でもお取り寄せで食べていただくことができますね」。
凍ったままの状態で約180度の油で揚げると、一度沈んだ『めひかり』は、3〜4分で浮き上がってくる。いい色味になったらできあがりだ。
「『めひかり』は仕入れる時に、大、中、小の3種類の大きさがありますが、唐揚げに使うのは中くらいの大きさが一番美味しいと思いますね。大きいものは塩焼きがいいですね」。
再び栄子さんのお話をうかがいながら、できたての『めひかりの唐揚げ』を味わった。特製塩コショウで下味がつけられているので、そのままでも美味しい。丸ごと食べても骨はまったく気にならない。
「唐揚げは骨の感じがしないから、『骨抜きされているんですか』とよく尋ねられます。骨まで丸ごと食べられるほど、やわらかくて食べやすい魚なんです。クセのない淡白な味だけど、甘味があるし、子どもからお年寄りまで食べていただけますね。カルシウムも満点ですしね。そのままでも美味しいですが、一緒に添えたポン酢をつけても美味しいですよ。先代女将が大分県の竹田出身ということもあり、竹田でたくさん採れるカボスを使って作り上げたものです。時期が来ると、みんな総出でカボスを手絞りします。手絞りじゃないと苦みが出ますからね。それに、母から味を受け継いだ主人が、調味料を合わせます。秘密のポン酢なので、主人が密かに作っていますよ(笑)」。
酸味の効いた、とてもさっぱりとしたポン酢をつけて食べると、『めひかり』の旨味がさらに増すようだ。
『めひかりの塩焼き』も作っていただいた。やわらかくホクホクとした身の食感は、唐揚げとは、またひと味違うものだ。
「塩焼きは、唐揚げのようにウロコは取らずに、丸ごと焼きます。ウロコは焼けてしまいますから。関東あたりでは塩焼きも多いようですね。他にも天ぷら、南蛮漬け、寿司なども美味しいですよ。夏限定で、『めひかり』を開いて焼き、身をほぐしたもので作る『めひかりの冷や汁』もありますね。それから、いつもできるわけではないのですが、タイミングが合えば『めひかり』の刺身も食べていただくことができます。例えていうと、馬のタテガミのような感じで濃厚です。『めひかり』は、実は脂ののった魚なんです。ですから、加工場で『めひかり』に触れている方の手は、とてもきれいなんですよ」。
『めひかり』で有名な『高浜』だが、料理に並んでもう一つ有名なものがある。
「それは『高浜のおはぎ』なんです。砂糖のない戦時中、新田原(にゅうたばる)基地まで行き、砂糖が入っていた袋を叩いてなんとか砂糖を取り出し、おはぎを作っていたんです。それは『美味しいものを食べていただきい』という創業者の想いでした。その想いは『めひかり料理』にも息づいています。宮崎県は、宮崎市や高千穂は有名ですが、延岡市などがある県北は、いまひとつ注目されていません。けれど、美味しい食材もあるし、美味しい料理を出す店もたくさんあるので、もっとたくさんの方に知っていただきたいですね。うちの店だけでなく、県北で『美味しいものを食べていただきたい』と思っています」。
小さなウロコを包丁を使ってこそぎ落とし、頭・胸ビレ・エラを切り落とし、内臓を取って特製塩コショウをふって片栗粉をまぶす
下ごしらえして急速冷凍したものを、約180度くらいの油で揚げる。沈んだ『めひかり』が、4〜5分して浮き上がってきたらできあがり
下ごしらえの時にふりかけられる唐揚げ専用の特製塩コショウが味の決め手。酸味の効いた自家製ポン酢も添えられる
大正5年創業の日本料理店。先代女将・町田伸子さんの「延岡ならではの味を提供したい」という想いの元、昭和56年に『めひかり料理』は登場した。特製塩コショウとポン酢でいただく唐揚げをはじめ、塩焼、南蛮漬け、天ぷら、寿司、冷や汁など、様々な料理で『めひかり』を味わえる。いい『めひかり』が入った時には、脂ののった刺身も食べられる。