九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

具材

ニンジン、シイタケ、サトイモなど阿蘇で収穫される野菜が中心で肉類は入らない。仕上げにはネギがちらされることが多い

だご

小麦粉と水で作る“だご”が主流。水加減、生地のこね方、切り方やのばし方など、様々な種類の“だご”がある

出汁と味噌

出汁は昆布やいりこをベースにしたものが多い。味の決め手となる味噌には作り手の好みや工夫が反映されている

語り あそ路 井芹正吾の「だご汁」

井芹正吾さん

熊本から阿蘇を通り大分へと続く国道57号線沿いには、『高菜めし』と『だご汁』の看板が多く見られるが、それらの店の中で一番初めにメニューとして『高菜めし』を提供した元祖が『あそ路』だ。『だご汁』も『高菜めし』と並んで開店当初から提供されている。現在は2代目・井芹和徳さんと3代目・井芹正吾さんを中心に変わらぬ味を守り続けている。

井芹正吾さんにお話をうかがった。
「店は私の祖父母が昭和43年に始めましたが、『高菜めし』と『だご汁』は、私の曾祖母の“サキばあちゃん”の作り方と味を、ずっと受け継いでいるんですよ。『高菜めし』はうちが出すようになって広まりましたが、『だご汁』は阿蘇地方で昔からよく食べられていた料理。今でも、家庭で鍋料理まではしなくても、『だご汁』を作ることは、よくあるようです」。

『だご汁』作りを見せていただいた。

「『だご汁』に入れる野菜はニンジン、サトイモ、白菜、シイタケ、ナスです。春から夏はサトイモがないので、芋ガラ(芋の茎を乾燥させ、戻したもの)を使っていますよ」。

味がしみこみやすいようにそれぞれ切り揃えられた具材

太めに千切りした白菜、下ゆでしたサトイモ、切って水にさらしてアク抜きしたナスと、それぞれに下ごしらえした具材が大きなボールやザルの中に入れられて準備されている。
「お昼時は一度にたくさん作らないといけないですからね」。

味付けに使う味噌も一人前ずつ丸めて並べられている。
「1つ約40gです。3人前を丸めた大きな玉もありますよ」。

『だご汁』は作り置きすることはなく、すべて注文が入ってから作るのだ。
「作り置きすると美味しくなくなってしまいます。野菜の瑞々しい感覚を残したいですしね。ひと鍋ずつ丁寧に作っています」。

出汁の材料と、毎日とる出汁

2人前を作っていただいた。まず、鍋の中に出汁を入れて沸騰させる。「出汁は北海道の昆布、煮干し、サバ節を使って毎日とっています」。

出汁にニンジンとシイタケを入れて煮立たせる

ニンジン、シイタケを入れて一煮立ちさせた後、“だご”の生地が入れられる。ボールに入った生地を、おたまの一部ですくい、鍋に入れると一口大の餃子のような形になる。

やわらかめの“だご”の生地を、おたまですくって鍋に入れる

「生地は小麦粉と水を溶いたもの。水分が多く、やわらかい生地なので、こねたりはしません。それをおたまですくって入れるんです。“すくいだご”です。このほうが素早くできますからね。かつて、『だご汁』は農作業の合間にみんなで食べることが多く、一気に大量に作ることが多かったようです。それで、私の曾祖母もこの作り方をしていたのでしょう。全体的にうちの料理は量が多いのも、農作業の合間に食べていたものがベースにあるからでしょうね。“だご”はあまり大きくすると火が通りにくくなるので、ちょうどいい大きさというのがありますね。うちとは違う作り方で、練った生地をのばして切る“のべだご”というものもあります」。

“だご”を入れている間も、かなりの強火だ。

ナスと白菜を入れる

「出汁はぐつぐつと沸騰していないといけません。温度が低い状態だと、“だご”が溶けて汁がどろどろになってしまうんですよ。強火にするので、鍋の持ち手のプラスチックの部分は、すぐにだめになってしまいます。そして、金属の部分も曲がってしまったり…そうなってこそ、うちでは立派な“一人前”の鍋ですね(笑)。底に穴が空くまで使いますよ」。

小分けされた味噌を入れて溶く

“だご”に火が通ったら、ナスと白菜を入れて味噌を溶いてできあがり。器に盛ってネギではなく、ニラをちらす。
「ニラにしているのは、がまだすように(=元気が出るように)ということなんです。これも、農作業の合間にみんなで食べていたからなんでしょうね」。

器に盛り、ニラをちらしてできあがり

アツアツの『だご汁』は味噌の風味がやわらかな味わい。“だご”は表面は滑らかで、こねていないのに、もっちりとした弾力感がある。
「味噌は米味噌なので、ちょっと甘味があって上品な味になりますね。阿蘇は水が豊富に湧きますから、水が美味しいのも『だご汁』の美味しさの秘密の一つだと思います。水の力は大きいですよね。『和食は水をいかに美味しくするかが大切』という話を聞いたことがありますが、とてもよくわかります。いい水は出汁を美味しくしてくれます。“だご”は強い火で一気につくることで、手ごねしたようなコシができるんですよ」。

『だご汁』の“だご”の表面はぷるぷるだ。薬味の『しその実の塩漬け』を入れて食べるのも旨い

薬味に添えられる『しその実の塩漬け』を入れると、さらにひと味違う風味を楽しめる。
「しそをしごいて実を取り、唐辛子と一緒に塩漬けしたもので、なかなか手間がかかるんですよ。昔から作っていたものです」。

『だご汁』、『高菜めし』、小鉢、漬け物と、こちらの料理はどれも素朴でやさしい味わいだ。
「漬け物も全部手作りです。特別なものは何もありませんが、“サキばあちゃん”がやっていたように、出汁を丁寧にとったり、手順をきちんと踏んで、手間ひまかけて作っています。それを“美味しい”と感じていただけるとうれしいですね。寒くなると大根の葉の漬け物などをお出しするのですが、初めて食べる方もいらっしゃるようです。そんな失われかけているもの、昔と変わらないものを提供していくことも、続けていきたいと思っています」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

具材

ニンジン、サトイモ、白菜、シイタケ、ナス。春から夏はサトイモの代わりに芋ガラを使う。仕上げにニラをちらす

だご

生地は小麦粉と水を溶いたもので、水を多く加えたやわらかいもの。こねたりはせず、おたまですくって鍋に入れる

出汁と味噌

出汁は、北海道の昆布、煮干し、サバ節を使ったもの。味噌は米味噌で、『だご汁』に甘味と上品な味わいを与える

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あそ路 『高菜めし』元祖の店の上品な『だご汁』

油で炒めた高菜漬けをごはんに混ぜ込む『高菜めし』の元祖としても知られる店は、昭和43年開店。『だご汁』も開店当初からの人気メニューだ。『だご』の生地は、小麦粉に水をたっぷり加えたもので、おたまですくって出汁に投入すると、ひと口大の餃子のような形になる。米味噌が溶かれた出汁の上品な味わいと『だご』の食感を楽しみたい。

『だご汁』325円。一口大の餃子型の“だご”が5コ入っている。薬味に、しその実の塩漬けが付く
『高菜めし定食』1,260円には、元祖高菜めし、ホルモン煮込み、『だご汁』他が付く
テーブル席もある1階にはおでん(1本105円)のいい香りも。2階は座敷スペースだ

あそ路

住所 熊本県阿蘇市的石1476-1
電話 0967-35-0924
営業 11:00〜17:00(土曜・日祝日〜18:00)
定休日 月曜(祝日の時は翌日の火曜休み)
120席
カード 不可
駐車場 あり
URL http://www.asoji.com/
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