殻からのびる尾のような肉茎の先端についた砂を落としきれいにする
『メカジャ』の味わいを生かすため、調味料は酒、みりん、醤油、砂糖などシンプル
下ごしらえした『メカジャ』を身が縮まない程度に軽く煮込んでできあがり
カウンターに並ぶ数々の大皿料理。有明海特産の魚介が使われているものも多く、『メカジャ』の鉢もその一つだ。
「『メカジャ』はうちの店の名物の一つでもあるので、切らさないようにしてます。手に入りにくい時もありますが、漁師さんに、獲れたらすぐに連絡してもらうように言ってますね。連絡が入ったらとにかくすぐに取りに行きますよ(笑)。殻の緑色は天然の硫酸銅の色なのだそうです、生の『メカジャ』はもう少し明るい緑色ですね」。
カウンターの中でお話してくださるのは店主・古川則雄さん。昭和57年から『ふるかわ』を営まれており、県内外から“佐賀の味”を求めて多くの人が訪れる。
メカジャの料理法についてうかがった。
「『メカジャ』を仕入れたら下ごしらえをします。殻から出ている尾のような部分の先に泥がついているので、1コずつ手にとってプチッとちぎる感じでそれを取り除いていきます」。
「けっこうな時間がかかりますよ(笑)。いい『メカジャ』は大きなサイズのものだと思います。小さいものしかない時は、お客様に申し訳ないですし、私たちも料理しにくいですね。下ごしらえしたら、熊本の赤酒、酒、薄口醤油で煮ます。うちの料理には砂糖は使わないので、赤酒(古くから熊本地方に伝わる酒。もろみに木灰を投入して作るもの。)の甘味だけで上品な味わいになりますね。赤酒はアルカリ性なので身をふっくらとさせる効果もありますし。煮込み過ぎると身がやせてしまうので5〜6分くらいでできあがりです」。
鉢から器に盛りつけられた『メカジャ』をいただいた。深みのある味で、からまっている汁も旨い。
「身や尾の部分もですが、煮付けた汁がまた旨いでしょう?海の風味と言いますか、コクのある味がしますね。『メカジャ』には汁がからまっていますから、手でつまんでしゃぶりながら食べていただくといいですね。汁まで全部どうぞ。焼酎のつまみにぴったりの有明海の珍味ですね。料亭の料理には、尾の部分の中心部だけを抜いたものをすりつぶした後、だんごにして味噌汁に入れるという、手のかかる料理があるんですよ」。
『メカジャ』にまつわる古川さんの想いも聞かせていただいた。
「『ミドリシャミセンガイ』のことを有明海沿岸では『メカジャ』と呼んでいます。漢字だと『女冠者』とも書くし、『女貝』と書くこともあるんですよ。その由来はよくわからないのですが…。昔は魚屋さんにも売っていたし、家でも食べていたものですが、今は少なくなってしまい値段も高くなってしまいました。やがて絶滅が危惧されるんじゃないかと心配です。守っていくべきものだと思いますね。『メカジャ』をはじめ、有明海の魚介とその料理法は伝統文化として残していかなければなりません。『メカジャ』にしても『ワケ(イソギンチャク)』にしても煮込むのにコツがあるんですよ」。
有明海の恵みと長年引き継がれてきた料理人の技によって、有明海の珍味は生まれるのだ。
泥がついている肉茎の先端をひとつずつ手でちぎるようにして取り除く
赤酒、酒、薄口醤油。赤酒は甘味を持ちアルカリ性なのでふっくらと仕上げる効果もある
煮込み過ぎると身がやせてしまうので、5〜6分くらい煮込んでできあがりだ
カウンターに並ぶ大皿料理には有明海ならではの魚介を使った珍味が並ぶ。店主・古川則雄さんと、食材や地元の話をしながら焼酎を楽しめる。『メカジャ』は薄口醤油と酒の他、砂糖の代わりにほどよい甘味を持つ熊本の赤酒を使い、コクがありながら上品な味に煮付ける。がん漬けを豆腐にのせたお店の名物の『ヨコバイ豆腐』も焼酎に合うつまみだ。