シイタケ、タケノコ、フキ、カマボコ、卵焼き、タイ、エビ、キビナゴ、木の芽などが使われる。春に旬を迎える食材が中心だ
“すし”とは言っても酢は使わず、ごはんと合わせるのは地酒。具材はそれぞれ別々に下味がつけられている
『酒ずし』用の桶に、ごはんと具材を交互に広げ、層を重ねる。地酒をたっぷりと注いでふたをし、おもしをして一晩ねかせる
江戸時代の趣深い街並みが今も残る、南九州市・知覧町の武家屋敷群。国の『重要伝統的建造物群保存地区』にも指定されている一角に『髙城庵』は位置している。建物の造りにも、幾つかの火鉢が置かれた座敷の雰囲気にも時の流れを感じる。
「母屋のほうは昭和5年に建てられたものですからそうでもないんですよ(笑)。でも、団体様用の離れは築150年ぐらいですね」。
店主・髙城宰さんが生まれ育った空間で、素朴な鹿児島の郷土料理を食べることができる。髙城さんのお母様が開いたお店では、鹿児島ではよく知られる両棒餅(ぢゃんぼもち/みたらしだんごのような味わいの鹿児島では古くから親しまれている甘味。両棒とは大小両刀、二本ざしを意味しており、竹串が2本刺さっているのが特徴)などを提供していたが、髙城さんの代になり、郷土料理を出すようになったそうだ。
「『酒ずし』は珍しい料理なので観光の方がよく注文されるのですが、注文される方には、初めに3つのことをお尋ねするんですよ。20歳未満ではないですね?アルコールに弱くはありませんね?車の運転はされないですね?という3つです。『酒ずし』には地酒をたっぷり使いますからね。地酒はお屠蘇(とそ)で飲んだりお神酒にしますし、料理にもよく使う独特の甘味と香りを持つ酒です。うちでは多少控えめにはしているのですが、大人数の予約があって一度にたくさん作る時など、作っている時の香りだけでも酔いそうになりますよ(笑)」。
『酒ずし』の具材はタケノコ、シイタケ、カマボコ、さつま揚げ、錦糸卵、きびなごをのせ、山椒(木の芽)など。「具材はそれぞれに下味をつけていますし、きびなごは手で開いているんですよ」。
地酒の香りと風味ともに具材の旨味が広がり、しっとりしたごはんも旨い。
「好きな方は、さらに地酒をふりかけて食べたり、中には、地酒をたっぷり注いでお茶漬けのようにして食べられる方もいらっしゃいますね(笑)」。
『髙城庵』では『酒ずし』は一年中食べられるメニューだが、元々は春に生まれたと言われている料理。髙城さんも『酒ずし』に対する春の思い出があるのだそう。
「『酒ずし』は島津の殿様が春に開いた宴の時に生まれたと言われています。ですから、やはり春の料理ですね。おふくろもタケノコが採れる頃によく作ってくれていました。タケノコは『酒ずし』には欠かせない具材だと思います。このあたりではタケノコはいくらでも採れますから、旬の時期は掘りに行ってますよ。山菜も豊富に採れますから、春はフキを入れていますね。フキがない時は大根葉を使っていますが…。うちで出すすべてをまかなえるほどではありませんが、米も育てているんですよ!!」。
母屋の窓ガラスは外の風景がゆらいで見える古い時代のもの。
「下のほうの窓ガラスは私が小さい頃に割ったりして替えていますが(笑)、上のほうは貴重なガラスなんだそうです。5月には庭にサツキが咲いて、その窓から見える景色がきれいですよ」。
髙城さんが小さい頃から時を重ねた場所で手作りするのは、お母様の味をベースにした素朴な料理。訪れる人をあたたかな気持ちにしてくれる。
タケノコ、カマボコ、シイタケ、さつま揚げ、フキ(ない時期は大根葉)、錦糸卵、きびなご、山椒などを使う ※写真は具材の一部
かために炊いたごはんには、塩と地酒を合わせたものをふりかけて混ぜる。具材それぞれには下味がつけられている
店主・髙城宰さんが生まれ育った空間で、素朴な鹿児島の郷土料理を食べられる。母屋は昭和5年に建てられたもの、団体用の離れは築150年で、どちらも趣深い。『酒ずし』は、地酒、ごはん、具材を混ぜ合わせた後、上にきびなごや錦糸卵をのせるというスタイル。「好きな方は、さらに上から地酒をふりかけて召し上がるんですよ(笑)」と髙城さん。
住所 | 鹿児島県南九州市知覧町郡6329 |
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電話 | 0993-83-3186 |
営業 | 10:30〜OS14:30 |
定休日 | 1月9日のみ休み |
席 | 母屋40席、離れ60席 |
カード | 不可 |
駐車場 | なし(武家屋敷有料駐車場を利用のこと) |
URL | http://tiran.kashoren.or.jp/kaiin/takiann/ |