欠かせないのはかつお菜、よく使われるのはブリ。その他、ニンジン、サトイモ、シイタケ、カマボコなども入る。餅は丸餅だ
焼きあご(焼いたトビウオ)からとった出汁をベースに塩や薄口醤油で味付けする。昆布、カツオ、椎茸の出汁が入ることもある
それぞれに下ゆでや下味をつけて下ごしらえしておいた具材、別鍋でゆでた丸餅をお椀に入れて、温かいツユを注いでできあがり
「ブリは出世魚で縁起のいい魚、かつお菜は漢字で『勝男菜』。それから、丸餅というのは、神様に供えるものですよね。縁起のいいものを一つのお椀の中に入れた『博多雑煮』はごちそうです。私は日本で一番美味しい雑煮だと思っているんですよ(笑)」。
大正15年、初代・西川清太郎さんがアイスクリン(アイスクリーム)を福岡の人にも食べてもらおうと、『味の大阪屋食堂』を始めた。さらに大阪では“ハレの日の特別料理”として知られていたすき焼きをスタート。昭和28年、2階建てのビルとなり、1階は『食堂の大阪屋』、2階はすき焼き・水炊きの『大阪屋別館』として営業していた。その後、昭和55年に名物の『博多石焼』が登場し、『博多石焼 大阪屋』に店名変更。昭和63年に5階建てビルとなった。現在では『博多雑煮』や『がめ煮』など博多ならではのメニューも提供している。3代目となる若女将・西川公美子さんにお話をうかがった。
「博多は新鮮な魚介をはじめ食材に恵まれた場所です。私の父母の代に、そんな博多ならではの美味しい魚介や食材を生かした料理を作りたいという想いから、石鍋で焼く石焼を始めたのです。平安時代から筑前の山里や玄海の島々で行なわれていた伝統の料理だと言われています。さらに、石焼以外にも、博多ならではの味、博多の郷土料理を提供したいとも思うようになっていきました。そうやって『博多雑煮』が定番メニューになったのです。野菜も魚介もお肉も、当店にいらっしゃれば博多の美味しいものがすべてここにあります(笑)」。『博多雑煮』は単品でも食べられるし、コースメニューの一品としても食べることができる。
厨房で料理長・江口和利さんに『博多雑煮』をつくっていただいた。幾つもの細やかな気くばりがなされている。まずは博多では「すめ」と呼ばれる出汁。
「長崎の五島から取り寄せる焼きあごは、臭みが出ないように内臓を取り除き、北海道産昆布と一緒に一晩水につけておきます。それを少し火にかけたあと漉し、干しシイタケの戻し汁を適量加え、酒と塩と薄口醤油とみりん少々で味付けするのです」。
具材はそれぞれに別々の下ごしらえを行う。
「ブリの切り身は、塩を振って一晩置き、湯通しした後、出汁にくぐらせます。金時ニンジン、サトイモはそれぞれに出汁で下煮して、下味をつけておきます。かつお菜はボイルして軽く絞り、さらに巻きすで余分な水分を取り除きます。餅は特製の丸餅を使い、別鍋でゆでます」。
「その時、餅が鍋にくっつかないように、出汁をとる時に使った昆布を鍋底に敷いておくのです。すべての具材の準備ができたら、お椀に入れ、最後に出汁を注ぎます。出汁で具材を煮込んで火を通したり味をつけたりしているわけではないのです。具材を出汁に入れたままにしておくと、サトイモなどは溶けて崩れてしまいますしね。お客さんが多い家では、一人前の具材を1本の串に刺しておいて準備しておくんですよ。お客さんがいらしたら、餅をゆで、具材を串から抜いてお椀にのせて出汁をかければすぐに出せるというわけです。これも博多のごりょんさんの知恵ですね」。
ごりょんさんとは、博多で7月に行なわれる祭り『博多祇園山笠』に参加する男たちの奥様のこと。男たちの留守の間は家を守り、男たちを陰ながら見守る気風がいい女性というイメージだ。
色合いも美しく上品で美味な『博多雑煮』。『博多石焼 大阪屋』がつくっている『博多雑煮』のルーツはどこにあるのだろうか?再び西川さんにお話をうかがった。
「当店のお雑煮のルーツは、私の母が博多のごりょんさんたちの話を聞いて回り、今の形につくりあげていったのだと思います。『博多雑煮』の特徴はあご出汁、ブリ、かつお菜を使うこと。ブリは、ヤズ、イナダ、ハマチ、ブリと成長とともに名前が変わる出世魚で縁起のいい魚、かつお菜は『勝男菜』とも当て字で表わせますよね。大黒柱である主人に食べてもらいたいという博多のごりょんさんたちの想いだと思うんですよ。今は『勝女菜』という時代なのかもしれませんが(笑)。」
「それから、丸餅というのは、神様に供えるものですよね。それをお正月に食べるわけです。縁起のいいものを一つのお椀の中に盛り込んだ具だくさんの『博多雑煮』はごちそうです。私は日本で一番美味しいお雑煮だと思っているんですよ(笑)」。
こちらでは1年中、『博多雑煮』を食べることができる。中には、福岡の方でも初めて食べたというお客さんもいるのだそうだ。
「当店のお雑煮を初めて召し上がった方からは、お出汁が美味しいという声をよく聞きます。あご出汁の雑煮を食べたことがない方もいらっしゃったりしますしね。雑煮は家庭でつくるものだとは思うのですが、そんな話をうかがうと、当店が一年中博多の郷土料理をご用意している意義もあるのだと思います。私は一度、『博多雑煮』の料理講習を依頼されたことがあり、若い女性がたくさん参加してくださったのですが、自分の家でつくったことがないという方が大勢いらっしゃいました。博多の正月には雑煮、がめ煮、紅白なます、ぬたあえなどが欠かせません。1年の節目として、気持ちを新たにしてスタートラインを切るための大切な料理なのです。ただ食べる料理というだけではなく、食べる時の心構えも大切な料理なのかもしれません。元旦をはじめ、三月三日の桃の節句、五月五日の端午の節句、九月九日の重陽の節句など年を通じて節句は大事にしたい行事。そして、行事には食事がつきものですからね。そのような伝統や食文化を伝えていく人の存在は大切ですし、私たちも先輩ごりょんさんから教わりながら少しずつでも多くの方に伝えていければと思っています」。
最後に、西川さんがご自宅で食べる雑煮について教えていただいた。
「家では、元旦には昆布とスルメをのせることが多いです。昆布は「子生婦」、スルメは「寿留女」とも書きますし、どちらも縁起がいいと言われているものですね。柚子の皮を少しいれると彩りや香りがよくなりますね。『博多雑煮』はあご出汁、かつお菜、ブリを入れれば他は何を入れてもいいですよね。もう出世する必要がなければ、ブリのかわりにフグやアラを入れても結構ですし。雑煮は本来は家庭でつくり、家族で食べるものですから、そのお家の形をつくり上げていってほしいと思います!」。
ブリの切り身、シイタケ、金時ニンジン、サトイモ、かつお菜、丸餅
出汁は焼きあごと昆布を一緒に水につけ一晩ねかせたものに干しシイタケの戻し汁を加えたもの。酒と塩と薄口醤油とみりん少々で味付け
下ゆでや下味をつけるなど、それぞれ別々に下ごしらえした具材と、別鍋でゆでた丸餅をお椀に入れ、出汁を注ぐ
大正15年創業。活きた魚介や特選和牛、博多ふるさと野菜を特製の石鍋で豪快に焼く名物の『博多石焼』と郷土料理の数々で、博多の味を守り、伝え続けている。出世魚のブリ、かつお菜、丸餅などが入った王道とも言える『博多雑煮』は年中食べられる一品。その上品な味わいは、あご出汁のとり方、それぞれに異なる具材の下ごしらえなど細やかな手間があればこそだ。
住所 | 福岡県福岡市博多区中洲5-3-16 |
---|---|
電話 | 092-291-6331 |
営業 | 平日11:30〜14:00/17:00〜OS21:30 土曜・日・祝日11:30〜OS21:30 |
定休日 | なし |
席 | 250席 |
カード | 可 |
駐車場 | なし |
URL | http://www.osakaya-15.com |