ひれを取り、皮をはいで内臓を取り出す。身は骨付きのままぶつ切りにする。肝は味付けに使うので細かく切るか、すりつぶす
カツオ出汁や昆布出汁を使うが、煮込む途中でアバサーの骨からも良い出汁が出る。味噌とアバサーの肝が味付けには欠かせない
出汁で、骨付きの身のぶつ切りを煮込んだ後、肝を入れて味噌を溶いてできあがり。フーチバーが添えられることが多い
安謝(あじゃ)漁港のすぐ横にある『海産物 えんがん』は、那覇市沿岸漁業協同組合の直営店。刺身、焼物、汁物など新鮮な魚介を使った料理が食べられる。カウンター上に書かれているメニューにも、白板に書かれている「本日のおすすめ」にも、聞き慣れない名前の魚介や料理が並んでいる。どんなものかを店主・山川薫さんに尋ねるのも楽しい。
毎朝、競りにも行く山川さんに『アバサー汁』についてお話をうかがった。
まずはさばき方について。
「うちで使うアバサーは2kg前後のものです。皮をはいで、肝を取り出し、身は一口大の骨付きのぶつ切りにします。トゲは皮についているので、皮をはぐことで一緒に取れるというわけです。包丁とナタのような道具でさばきますが、力も経験もいるし、家庭でさばくのは難しいでしょうね。ぶつ切りの身は売っていますが、『アバサー汁』は、今はあまり家で作る料理ではありませんね。皮をはいで下ごしらえすると、食べる部分は半分くらいになってしまうんですよ。アバサーはフグの味わいに似ていますが、フグのように身が多くないんです。だから『アバサー汁』で食べるのが一番。
さばいたアバサーを大きな鍋で煮込む。
「鍋に、水とぶつ切りにした骨付きの身を入れて煮ます。他には何もいれないので、アバサー100%の出汁がとれるということになります」。
出汁がとれたところで、出汁、骨付きの身のぶつ切りを分けて冷凍しておく。さばいた時に取り出した肝も冷凍しておく。
「大きなアバサーを使い、一度にたくさん作るほうが美味しくなりますからね。1度に10人前くらいを作り、こうやって準備しておくんです」。
注文が入ると、冷凍しておいた出汁、骨付きの身のぶつ切り、肝と島豆腐を鍋に入れる。
「肝から出るオレンジ色の脂が浮いてくるまで煮込みます。そして、熊本産の赤味噌を溶いて味付けします。
アバサーは個性的な味ですから、赤味噌が合うんですよ。さらに長ネギとショウガを入れてできあがりです。フーチバー(ヨモギ)は好き嫌いもありますから、別の皿で出しています」。
コクのある赤味噌の味わいにも、フーチバーの香りにも負けないアバサーの旨味。それは主に肝から生まれるものだ。濃厚な味わいはプリプリとした身にもよくからむ。
「肝を入れないと、『魚汁』みたいであっさりしていますが、『アバサー汁』らしくないし美味しくないんですよね。いい肝はフォアグラみたいなんです。ちなみに、他の魚で作った『魚汁』にアバサーの肝を入れてもなにか違うんです」。
1年中食べられる『アバサー汁』だが、この味わいは、特に寒い時期に美味しくなるとのこと。
「沖縄で獲れる魚の種類は、量の増減はありますが1年中変わりません。アバサーも1年中獲れる魚です。しかし、寒い時期は肝に脂がつまっていますが、夏場の肝は、少しあっさりした味わいなんですよ。冬場は肝に脂がのっていて本当に美味しいですよ。私は一番いい時の味を知っているので、夏場はあまり食べませんね(笑)。『アバサー汁』は寒い時期に食べに来ていただけるといいですね」。
とは言うものの、沖縄の方々は、夏場でも『アバサー汁』をよく召し上がるとのこと。
「季節に関係なく、みなさんよく召し上がりますよ。『アバサー汁』を買いに、鍋を持って来られる方もいるんです(笑)。おじぃやおばぁのお客さんも多いですね。たまに食べたくなるのでしょう。私もよく食べますよ。ただ、二日酔いの時には、こってりした『アバサー汁』よりも、あっさりとした『魚汁』がいいでしょうね(笑)」。
『アバサー汁』は昔から沖縄で愛されている料理の一つなのだ。
2kgほどのアバサーを使う。皮をはぐことでトゲも一緒に取り、肝を取り出して切る(写真)。身は骨付きで一口大のぶつ切りにする
出汁は、アバサーの骨付きの身のぶつ切りを煮て作る(写真は冷凍保存している出汁)。味付けには赤味噌と、濃厚なアバサーの肝を使う
骨付きの身のぶつ切り、出汁、島豆腐、肝を入れて煮込み、赤味噌を溶く。長ネギとショウガを入れて完成。別皿にフーチバーが付く
安謝漁港のすぐ横にある那覇市沿岸漁業協同組合の直営店。刺身、焼物、汁物など新鮮な魚介を使った料理が食べられる。『アバサー汁』は、骨付きの身のぶつ切りを煮込み、出汁が出たところで肝と赤味噌を入れて味付けする。濃厚な肝と赤味噌の旨味がプリプリとした食感の身によくからむ。別皿で添えられるフーチバーを入れるのが沖縄流。