九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

アバサーの下ごしらえ

ひれを取り、皮をはいで内臓を取り出す。身は骨付きのままぶつ切りにする。肝は味付けに使うので細かく切るか、すりつぶす

出汁と味付け

カツオ出汁や昆布出汁を使うが、煮込む途中でアバサーの骨からも良い出汁が出る。味噌とアバサーの肝が味付けには欠かせない

作り方

出汁で、骨付きの身のぶつ切りを煮込んだ後、肝を入れて味噌を溶いてできあがり。フーチバーが添えられることが多い

語り 汁専門店 地釜や 新地良徳の「アバサー汁」

新地良徳さん

カウンターの内側には大きな鍋が4つ。沖縄でお祝いごとの時に使う『四枚鍋(シンメーナービ)』だ。店長・新地良徳さんにお話をうかがった。

「昔はどこの家にもあって、お祝いごとで食べる料理に使われていた鍋なのですが、今では少なくなりました。この鍋を作っているところも沖縄で今では2カ所ほどになってしまいましたね。汁物料理が好きだったから、この店を始めたんですが、沖縄で作られた“地の釜”をつかうということで店名は『地釜や』にしたんですよ」。

『汁専門店 地釜や』は、『アバサー汁』をはじめ、『牛煮込汁』、『いか汁』、『さかな汁』など多様な汁物メニューが食べられる店。沖縄ならではの一品メニューもあるので、汁物料理はお酒の締めに食べられることも多い。

「なかには、まず汁物を食べてからお酒を飲む人もいるし、うちで汁物食べてからよそに飲みに行く人もいますよ(笑)」。

看板メニューの一つでもある『アバサー汁』を作っていただいた。

アバサーの口と、ひれを取る

「今からさばくアバサーは1.3kgなので、中くらいの大きさかな。口を切って、ひれを切って、頭からおしりに向かって切り、皮をはぎます。皮はやわらかいですね。

頭からおしりに向かって包丁を入れて皮をはぎ、身は骨付きのぶつ切りにする

きちんと包丁を入れれば簡単にさばけますが、さばくのは漁師さんのほうが上手かもしれないですね。身は骨付きのぶつ切りにして『アバサー汁』に入れるけど、唐揚げにしても美味しいですよ。エラも食べられないことはないし、浮き袋も食べられますよ」。

アバサーをさばいたら、出汁で煮込む。

ぶつ切りの身に熱湯をかけた後、汚れや、ぬめりを洗い落とす

「骨付きの身のぶつ切りはお湯をかけ、ぬめりと汚れを洗ってきれいにしてからカツオ出汁に入れて煮込みます」。

肝は包丁でたたいて細かくする

「包丁でたたいて細かくした肝も入れて、途中でカツオ出汁を少し加えながら20分くらい弱火でじっくりとね。しっかり煮込まないと身がやわらかくならないからね」。

カツオ出汁に骨付きの身のぶつ切りと、つぶした肝を入れて煮込む

「肝の脂が浮かんできたら煮込みは終わり。煮込み終わった後は、見た感じも濃厚でしょう?『アバサー汁』には濃厚な味わいの肝を入れないと美味しくないんですよね」。

開店前にここまで作っておき、注文が入ったら、『アバサー汁』は、その都度作り上げられる。

島豆腐を手でちぎって入れる

「作り置いておいたものを小鍋に人数分入れ、島豆腐を手で大きめにちぎったものを加えて温めます。そこに長崎産の赤味噌を加えて溶きます。いろいろ食べてみた結果、今使っている味噌に行き着いたんです」。

味噌を溶き、別に温めたフーチバーを入れてできあがり

味見をしてさらに味噌が加えられた後、沖縄の料理にはよく使われるフーチバー(ヨモギ)も加えられる。

「鍋からアバサーの身と島豆腐を取り出して丼に入れます。汁だけになった鍋にフーチバーを入れて少し煮込んだ後、鍋から出して上にのせ、汁を注いでできあがり。煮ることでフーチバーがやわらかくなりますね。フーチバーは好き嫌いがあるので、お客さんに尋ねてから入れるようにしていますよ」。

熱々の『アバサー汁』は量がたっぷり。味噌の風味、濃厚な肝の味わい、フーチバーの独特の香りが重なる。身のプリプリ感も楽しめる。

「言っていただければ量を半分にすることもできます。『アバサーって何ですか?』と尋ねられたら、天井から吊るしている“アバサー提灯”を指差すんだけど、そうしたら躊躇する方もいますね(笑)。『トゲも入っているんですか?』と言う方もいますよ。そんな時は『美味しいから、まず食べてみてごらん』と言って…みなさん、気に入ってくれますね。『アバサー汁』は沖縄全体で食べられている料理だし、観光の方には珍しい料理だからよく出ます。アバサーは1年中あるけど、どっちかといえば冬が美味しいし、アツアツの汁物だから夏場は食べる方が少し減りはしますね。厨房もカウンターの中の大鍋の前も熱いですよ。痩せます(笑)」。

アバサーの皮を使った珍しい酢の物も食べさせていただいた。

皮を茹でて水にさらす

「水に皮を入れてしっかり茹で、やわらかくなったら水にさらしてトゲを抜くんですが、1本ずつ抜くしかないので、とても時間がかかるんです。

トゲを1本ずつ抜いていく

トゲは実際に見えている部分よりも皮の中にある部分のほうが長いから、けっこう力も要りますよ。トゲを抜いたら、切ってポン酢で和えるんです。いつもあるわけじゃありません。トゲを抜く時間があって準備できた時だけの料理です。お通しに使ったりもします」。

作るのに手間がかかるアバサーの皮の酢の物

もちもちの歯応えはフグの皮に似た独特なもの。これもまたアバサーの味わいだ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

アバサーの下ごしらえ

口と、ひれを取り、皮をはぐ。身は骨付きのぶつ切りにして湯をかけた後、汚れと、ぬめりを洗い落とす。肝は包丁でつぶして細かくする

出汁と味付け

出汁はカツオ出汁。味付けとして加えるものは味噌とアバサーの肝のみ。味噌は長崎産の赤味噌を使う。肝は濃厚な旨味を与える

作り方

カツオ出汁に身のぶつ切りと、つぶした肝を入れて煮込んだ後、味噌で味付けする。別に温めたフーチバー(ヨモギ)を加える

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汁専門店 地釜や 沖縄ならではの汁物料理が食べられる店

『アバサー汁』をはじめ、『牛煮込汁』、『いか汁』、『さかな汁』といった様々な汁物料理が食べられる。味噌の風味と肝の旨味が溶け出した『アバサー汁』は濃厚かつ、やわらかな味わいで、すっと身体の中に染み入っていくようだ。プリプリとした身も旨い。一品料理もそろっているので、焼酎を楽しんだ後、最後に汁物料理で締める常連客も多い。

『アバサー汁』1,200円。2人で食べてもたっぷり楽しめる。その他、季節の魚を使った『さかな汁』600円、『いか汁』1,000円他、汁物メニューが豊富
香ばしく、身のプリプリ感も美味しい『アバサー唐揚げ』1,200円
『アバサーの皮の酢の物』300円。お通しで出されることもある
汁物料理の名前が書かれた木板にも良い雰囲気がある

汁専門店 地釜や

住所 那覇市久米2-9-19
電話 098-867-8800
営業 18:00〜翌1:30
定休日 日曜
38席
カード 不可
駐車場 なし
URL なし
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