豚肉の骨付きあばら肉を使う。現在、飲食店では、鹿児島特産の黒豚の肉を使っているところが多い。軟骨を一緒に使う場合もある
基本は、味噌、黒砂糖、芋焼酎と鹿児島で馴染みの深いもの。仕上げにミリンを加えたりもする。使う味噌は麦味噌や合わせ味噌など
豚肉の余分な脂を抜いた後、調味料と一緒にコトコトと煮込んでいく。火を止めた後でねかせることで、肉に味がより染み込む
『吾愛人』の歴史は古く、戦前に割烹として生まれ、店名は作家・椋鳩十が命名している。“愛人”とは奄美大島の方言で、“愛しい人”、“大切な人”という意。店名には、愛する人に接するように、お客様にも最高のおもてなしを提供したいという先代の願いも込められている。
その後、郷土料理の店として昭和21年にオープン。創業以来、変わらぬ丁寧な郷土料理を提供し続けている。『とんこつ』も変わらぬ味わいの一品だ。
天文館にほど近い繁華街、文化通りの入口に立つ『文化通り店』の舞田彰さんに話をうかがった。
「『とんこつ』は家でも食べていましたし、郷土料理なのでみんな食べているものです。じっくりと時間をかけて作らなければならないので手間のかかる料理ですね。1週間に数度作りますが、煮込むだけでも約5時間。それから一日ほどねかせて味をしみこませたところでお出ししています」
厨房で作り方も見せていただいた。
「骨付きの黒豚のあばら肉をまず焼きます。これは煮崩れしないようにするためですね。毎回、1度に10kgほどの肉をしこむのですが、フライパンで切った肉を4切れずつほど焼いていきます。全部焼いてしまうのに20〜30分かかりますね」。
肉塊からは豊潤な脂が出て、時折大きな炎も上がる。
焼いた肉は鍋に入れ、水を入れて煮立てた後、鍋から取り出す。そして、肉を水でさらすことにより、さらに余分な脂を取り除く。
「それからショウガと焼酎を入れて3時間ほど煮込んでいきます。焼酎は豚肉10kgに対して3合くらいでしょうか。風味のためでもあり、肉をやわらかくするはたらきもありますね。串がすっと通るようになったら、味付けです。まず黒砂糖とザラメ。黒砂糖は独特の甘味とコクを、ザラメはあまったらしくない甘味をつけるためです。その後、白味噌を溶いて入れ、1時間ほど炊いて赤味噌を入れ、仕上げにミリンを入れて炊いていきます。赤味噌を初めから入れておくと、色がつきすぎてしまうということもあり、後で入れているのです。強い火で煮立たせると味噌の風味がとんでしまうので、ゆっくりとじわ〜っと炊いていきます。味噌を入れたあとは丹念にアクをとることも大切ですね」。
できあがった『とんこつ』は、別に煮込まれた大根とコンニャクとともに器に盛られる。その上にはネギとショウガの千切りも添えられる。骨からほろりと離れる豚肉は、やわらかく味噌の風味と甘味がほどよい。
「醤油ベースの角煮とは違う、味噌の風味を味わっていただきたいと思います。鹿児島の料理はちょっと甘めのものが多いですね。ネギとショウガをからめて食べていただくと美味しいですよ。コース料理の一品にも入っていますし、人気の品です。うちにいらっしゃるお客さんの80%は県外の方ですが、おほめの言葉をいただけるとうれしいですね(笑)」。
骨付きの肉塊は、角煮のように切られてはおらず、比較的大きな塊だ。しかし、その味わいはやさしい。
「繊細で豪快なのは薩摩の郷土料理の特徴かもしれませんね(笑)。昭和21年から、私たちが郷土料理の店であることはずっと変わっていません」。
舞田さんは、白衣の袖からのぞく太い腕っぷしで、今日も丁寧に鹿児島の味を作っている。
黒豚の骨付きあばら肉を使う。煮くずれしないように焼いた後、さらにお湯で煮立て、水にさらすことで余分な脂を取り除く
味付けに使う材料は、黒砂糖、ザラメ、白味噌、赤味噌、ミリン。下ゆでの時に、ショウガと芋焼酎を使うのでその風味も加わっている
下ゆでした後、まず黒砂糖とザラメで煮込み、その後、白味噌、赤味噌、ミリンの順に入れる。味噌の風味が飛ばないようにゆっくり炊く
2種の味噌を使うとんこつ、キビナゴ、さつま揚げといった鹿児島の郷土料理を中心に黒豚、薩摩地鶏、黒毛和牛を使った多彩なメニューをいただくことができる。先代が京都で修行中に伝授されたという『みそおでん』も人気の品だ。カウンター席限定のハーフサイズメニュー(黒豚しゃぶしゃぶなども可)もあるので、一人でも気軽に楽しめる。
住所 | 鹿児島市山之口町12-21 |
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電話 | 099-225-7070 |
営業 | 17:00〜OS23:00 |
休み | なし |
席 | 70席 |
カード | 可 |
駐車場 | なし |
URL | http://www.k-wakana.com/index.html |