どの店も新鮮な牛もつを使うことに変わりはないが、使う部位や、美味しく料理するための下処理には、各店が工夫を凝らしている
すき焼き風から始まったと言われている。現在の主流は醤油味と味噌味で、両方のスープを用意している店も多い
野菜の盛り方や煮込み方で味わいが変わってしまうので、その店のスープやもつに合わせた作り方で提供されている
「『女将さんはいつも元気やね〜』とよく言われるんだけど、『もつ鍋食べようけんよ』と答えてます(笑)」。
ステキな笑顔を見せてくれる女将・松隈幸子さん。福岡のもつ鍋発祥の店とも言える『万十屋』は、幸子さんのお母様・ハツコさんが始めた。
「元々は万十を作っていたのですが、戦後、小麦粉も砂糖も手に入りにくくなり、万十は作れなくなってしまいました。そんな何もない時代に、唐津のほうから牛のもつを売りに来ていたんですよ。それを使って生活のために商いをやろうとがんばったのが私の母です。当時は、その時にある野菜を使っていました。キャベツを入れられるのは5〜6月。セリやノビルなども使っていましたね。いつでも同じ野菜を入れられるようになったのは、昭和38年くらいからですね。昔はアルミ製の鍋で一人前ずつ作っていたんですよ」。
開店当初から変わらないものの一つに、もつを“きれいに洗う”ということがある。その日にさばかれた新鮮な国産牛の小腸、赤センマイ、心臓、センマイの4種類のもつを店舗に併設された独自のシステムで徹底的に洗う。
「洗濯機みたいに水で撹拌したり、噴水みたいに下から水をあてたりと、オゾン水なども使ってもつをきれいに洗います。汚れやぬめりを取り除くことで臭みもなくなるんですよ。昔は、網に入れて時間をかけて流水で洗っていましたね。小さい頃から手伝っていましたよ。生あたたかいもつを洗うのは少し気持ちも悪かったのですが、きれいにしてお客さんに出さんといかんという一念だけでやっていました。お客さんが喜んでくださっているのを見るとうれしくてね」。
もう一つ、開店当初から変わらないのは、もつ鍋の味付けをする“タレの味”。現在主流となっている醤油味のスープや味噌味のスープとは違う、甘めのすき焼き風のタレだ。
「タレは秘密のアッコちゃんよ(笑)。母が作り上げた味で、60年間継ぎ足しながら作られ熟成された秘伝の甘辛いタレです。もつにも野菜にもよく合います。大きな鍋に入ってますよ」。
注文すると、そのタレともつが入った陶器製のつぼ。
「キャベツは福岡産、ニラは四国産、唐辛子は自家栽培の生のものです。赤色は元気の素やからね(笑)。火をつけたら、しばらく、混ぜない、さわらないというのがポイントです。野菜がふたの代わりになるんですよ。そして、炊き過ぎずに美味しい頃合いをみはからって食べてくださいね」。
煮汁が小麦色になり、野菜がしんなりとしたら、お玉で鍋全体を混ぜてできあがり。テーブルには作り方が丁寧に書かれた写真入りの説明書もあるので、それに従えば失敗せずに美味しく作ることができる。
すりおろしたニンニクも入った甘辛いタレの中に広がる野菜の甘味と、もつの旨味。もつのやわらかな食感やコリコリとした食感も味わいの一つだ。〆はまずちゃんぽん麺を食べ、残ったタレにごはんを入れてビビンバ風にしていただく。
「〆に麺もごはんも食べてこそ、万十屋のもつ鍋ですね。ごはんを入れると香ばしい香りとチリチリという音がしてくるので、みなさん、また食欲がわいてくるみたいね(笑)。鍋の縁についたおこげが美味しいので、みなさんがんばって食べてらっしゃいます。おたまがぐにゃぐにゃに曲がってる時もありますよ(笑)。小さい子どもさんが『美味しかったよ、また来るね』と言ってくれるのがなによりの喜びです。その言葉を録音したくなります。4世代にわたって来てくださる方もいますね」。
この味に魅せられた著名人も多く、作家の壇太郎氏も足繁く通うファンの一人。平成3年、今の建物に新築した時には、壇氏と交流のあった世界的建築家・隈研吾(くまけんご)氏が設計を担当している。外観も店内も和風でありつつスタイリッシュなデザインだ。
「もつ鍋は、野菜たっぷりだし、栄養満点、スタミナ満点、ヘルシーな料理だと思います。よくかむことでもつの旨味をより感じることができるし、脳の働きもよくなると言われてますよ!!」。
新鮮な国産牛の小腸、大腸、心臓、センマイの4種類のもつを、きれいに洗う。一度特製タレにつけておいてから鍋に入れる
開店当初から継ぎ足しながら作られ熟成された秘伝のタレを使う。甘辛いすき焼き風で変わらない味わいはこちら独自のもの
火をつけたら、しばらくはさわらないことがポイント。煮汁が小麦色になり、野菜がしんなりとしたら、お玉で鍋全体を混ぜてできあがり
昭和18年創業の老舗。当時と変わらない甘辛いタレで作るすき焼き風のもつ鍋をいただける。新鮮な国産牛の小腸、大腸、心臓、センマイの4種類のもつは徹底的に洗い、ぬめりと臭みを取り除く。タレに漬け込んだもつと、タマネギ、キャベツ、えのき、ニラの野菜の旨味が石鍋の中に広がる。〆は石鍋の中に残ったタレにごはんを加えビビンバ風に。
住所 | 福岡市早良区田村1-12-10 |
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電話 | 092-801-4399 |
営業 | 11:30〜22:00 |
休み | 月曜(祝日の場合翌日休み) |
席 | 200席 |
カード | 不可 |
駐車場 | あり |
URL | http://homepage2.nifty.com/manju_ya/ |