九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

具材

鶏肉、自家製の生シイタケとニラ。通常、鶏肉はほどよい歯応えがあり旨味がよく出る種鶏を使う

味付け

塩コショウ、おろしニンニク、醤油ベースの特製タレ。さらに竹の風味が加わりまろやかな味わいになる

作り方

切った具材に塩コショウ、おろしニンニク、特製タレを合わせて混ぜ、竹の器に入れて炭火にかける。約30分でできあがり

語り 高千穂観光ガイド 高藤文明の「かっぽ鶏」

高藤文明さん

「『かっぽ鶏』は一年中食べますが、夜神楽の時のおもてなしとしても欠かせない料理ですね。夜神楽は神々が集まる場所でもありますし、人々が集う場所でもあります。集落全体のお祭りです。その時に必ず食べられている料理なのです。」

普段は高千穂観光ガイドとして、高千穂町を訪れる方々に高千穂を案内している高藤文明(たかふじふみあき)さん。神様のこと、歴史のこと、神楽のこと…高千穂にまつわる様々なことをお話してくれる。そして、“食”の観点からも高千穂の魅力を多くの方に伝えている。『かっぽ鶏』も、作って食べていただくだけではなく、作り方教室を行うこともあるのだそうだ。

そんな高藤さんに『かっぽ鶏』の器作りから教えていただいた。
「器に使うのは真竹(まだけ)の一年もの。春にタケノコだった竹を次の年の春以降に使うということです。青い竹がいいですね。一年ものより若い竹は、火にかけると竹がしぼんでしまっていびつな形になるんですよ。高千穂には竹が豊富で、孟宗竹(もうそうちく)もありますが、孟宗竹はアクが強いので真竹が器には適しています。山にはイノシシがよく出ますが、まず真竹のタケノコから食べますね。あまり食べられてしまうと『かっぽ鶏』にも影響してしまいますね(笑)」。

竹を適当な長さに切る

竹を適当な長さに切り、節と節の間の一部をくり抜くようにする。完全にくり抜くのではなく、薄皮一枚分ほどは残しておく。

「これは今日の朝に切った竹です。新鮮な竹は香りがいいですね。完全に切り離さないのは、後で具材を中に入れて火にかけた時に、より密閉するためです。山で竹を選ぶ時は、何人分を調理するのかによって、節と節との間の長さが適した竹を切るんですよ」。

節と節の間の一部をくり抜くようにしてふたの部分を作る

器ができあがったら、具材の準備だ。
「具材は鶏肉、生シイタケ、ニラ。鶏肉は通常は種鶏を使っています。ほどよい歯応えがあって、旨味がよく出ますから。でも、お年寄りが多い時はやわらかくて食べやすい若鶏を使うこともありますね。生シイタケもニラも自家製ですよ。材料は家々で違っていて、ゴボウが入っているところもありますし、鶏肉ではなくて猪肉を使うこともあります。この時は『かっぽじし』と呼んでいますね。牛肉を使うこともありますが、豚肉はあまり使わないようですね」。

鶏肉と生シイタケを一口大に切り、塩コショウ、おろしニンニク、醤油ベースの特製タレを合わせて混ぜる。

鶏肉と生シイタケを切る
塩コショウ、おろしニンニク、特製タレを加えて混ぜる

ニラを根元のほうは5mmの幅に、葉のほうは4cmの幅に切ってよく混ぜる。

ニラを切る
すべてをよく混ぜる

混ぜ合わせたものを竹の器に詰め、ふたをして炭火にかけ約30分待つ。

竹の器に具材を詰める
約30分間、炭火にかける

その間に、お客様には高千穂の様々な話をしているとのこと。私たちはさらに『かっぽ鶏』の話を聞かせていただいた。

「昔から竹の器でごはんを炊いたり、鍋のかわりに使ったりしていました。刈干切(かりぼしきり/牛や馬の冬場の餌にするため、秋に草を鎌で切って保存する作業のこと)の時、山に鍋は持って行けませんし、寒さもあります。火を起こして温かいものを食べるために竹を器にしていたんです。

かっぽ茶もそうですね。私の小さい頃、親の刈干切について行っていましたが、ごはんだけを持って行き、外で野菜を竹に入れて焚き火にかけて食べたりしていましたよ。味付けは塩コショウと醤油だけ。具材は野菜だけでしたね(笑)。かつては山にいる鳥を、その場でさばいて食べたりもしていたようですよ」。

やがて竹の器の側面から湯気が立ち上り、水分がにじみ出てくる。できあがりまでもう少しだ。

竹の側面から湯気と竹の水分が出てくる

「『かっぽ鶏』は一年中食べますが、夜神楽の時のおもてなしとしても欠かせない料理ですね。夜神楽は神々が集まる場所でもありますし、人々が集う場所でもあります。集落全体のお祭りです。その時に必ず食べられている料理なのです」。

11月と12月を中心に2月まで高千穂町の各地で行われる夜神楽。その夜、集落では、神々と人々の宴が夜を徹して行われるのだ。「竹は神聖なものでもありますね。神話にも出てきますし、神楽を舞う時にも欠かせないものです」。

30分ほど火にかけ、ふたの部分を外してできあがり

竹全体から湯気が立ち上り、「シューシュー」という音がするとできあがりのサイン。ふたを外すといい香りがたちこめる。熱々の『かっぽ鶏』は竹の風味も感じるまろやかな味。焼酎が欲しくなる味わいだ。

「『かっぽ酒』はよく知られていますが、高千穂で『かっぽ酒』と言えば、日本酒ではなくて焼酎。竹の器に水で割ったりせず、焼酎をそのまま入れてあたためるんです。宮崎ではよく知られている20度の焼酎ですね。温めるとアルコールが少し下がりいい具合になります。竹の油分とエキスが加わって、まろやかな味になるんですよ。先日、海外の方が来られて、とても気に入っていただいたようでした。竹の器を持って帰られましたよ(笑)」。

中身を食べ終わると竹の中に少し汁が残るが、その汁を使って雑炊や煮込みうどんを作っても美味しいのだそうだ。『かっぽ鶏』に使った竹の器は1度しか使えないが、乾燥させて薪代わりに使ったり、プランター代わりにしたり、燃やして灰にして肥料にしたりと無駄はない。エコな器とも言えそうだ。

高藤さんは『かっぽ鶏』をはじめ、高千穂の魅力を広く伝えようと日々活動されている。
「高千穂は神話も四季の風景も素晴らしいところです。『かっぽ鶏』もいいものですから広めたいと思っています。親子で『かっぽ鶏』作り体験をしていただく時は、野菜を収穫し、器を作り、火を起こすところからやっていただいています。その中で高千穂の自然や風土を感じていただけるとうれしいですね」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

具材

鶏肉、自家製の生シイタケとニラ。通常、鶏肉はほどよい歯応えがあり旨味がよく出る種鶏を使う

味付け

塩コショウ、おろしニンニク、醤油ベースの特製タレ。さらに竹の風味が加わりまろやかな味わいになる

作り方

切った具材に塩コショウ、おろしニンニク、特製タレを合わせて混ぜ、竹の器に入れて炭火にかける。約30分でできあがり

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