カニはゆでる前に、目打ちなどで中央部を突いて一瞬で絞めなければならない。絞め方は料理人によって異なる
塩ゆでするという単純な料理だが、カニの状態によって、塩分濃度や、ゆで時間などに細かな調節がなされている
基本となるゆでガニの他、各店は、濃厚な旨味を持つ『竹崎カニ』を使った自慢の料理を提供している
『竹崎カニ』は「盆が明けてミソがたっぷりの夏のオスも、卵を持った冬のメスも、めちゃめちゃ美味しいですよ。もちろん、料理人の腕によるところもありますが、主役はカニ。カニ料理は食材ありきだと思います。いくら腕の良い料理人がいても、良くないカニだと美味しいものにはなりませんからね。だから、いかにして良いカニを仕入れるかが大切ですね」。
店主・川島真悟さんは、小さい頃から太良町を出るまでの間、漁師のお父様のお手伝いをされていたとのこと。カニを見極める目も確かだ。
「身が詰まっているいいカニかどうかは、手に持てば7〜8割はわかります。そして、ゆでた後は中を見なくても9割わかります。特にこのあたりの漁師さんたちですが、身が詰まっているカニのことを『かた』、逆に身がスカスカのものを『やわら』と呼んでいます。これはカニをさわった時の感触につながっています。さわってかたいもののほうが身が詰まっているんです。
オスとメスは腹側の模様が違うのですぐにわかります。オスは細長い山型の模様で“ふんどし”、メスはうちわの様な模様で“へこ”と呼んでいます」。
カニは生簀の中に入れられており、料理する直前に絞める
「せんまい通しを第2関節の下あたりに入れ、真ん中あたりの急所に刺します。正確に急所を刺して、一撃で絞めないといけません。
急所を外すと、カニがもがいて足がとれてしまうんです。」
「水の中に入れてゆで始めると、カニの旨味がすべて出てしまうんです。ゆで汁はいい出汁にはなりますが(笑)。お湯の中に入れてゆで始めることによって、カニの中に旨味を閉じ込めることができます。この時、もし、カニが生きていたら、やはり足がとれてしまうんですよ。しめてからゆでるのにも理由があるわけです。ゆで汁は、多良山系の地下水に自然塩を加えたもの。目の前の有明海の海水に近いものにしています。鍋が大きいのは、湯をたっぷり使っているからです。カニを沸騰したお湯に入れた後、再沸騰するまでの時間が短いほうがプリップリッのカニの身になります。だから大きな鍋を使っています。再沸騰してからオスは7分〜10分くらい、メスは12分〜15分くらいゆでます。
メスの場合、身に火が通って、卵が半熟になるくらい。じっと見ていると、カニが『今だ、鍋からあげろ』と言ってくれますよ(笑)」。
ゆでたてのカニを解体しながら味わう。身もカニミソも甘く濃厚。その旨さからも、やはり無口になる。
「殻とエラ以外は食べられますよ。アツアツのカニをアチアチといいながら食べるのが美味しいと思います。うちはあまり大きな宿ではなくて、厨房からテーブルまでの距離が短いので、できあがったものをすぐにお出しすることができます。『竹崎カニ』を食べていただくにはぴったりの大きさの宿かもしれませんね(笑)。私はスタッフを怒ることはあまりないのですが、ゆであがったカニを運ぶのが遅れている時は、『早く持っていかんと!』と怒ってます。とにかく、アツアツのものを食べていただきたいですからね」。
さて、先ほどの身の詰まっていないカニはどうなるのだろうか?
「身が詰まっていないものは、ゆでガニとしてはお出しできません。天然ものですから、身の詰まり具合にばらつきがあるのは仕方のないことです。そこで、そのようなカニの身をほぐしてごはんにのせる、『ひつまぶし』ならぬ『かにまぶし』という料理を考案しました! 無駄も出ませんし、お客様がカニをむしらなくていいので面倒じゃないし会話もすすむ、さらに値段もリーズナブル。今までのカニ料理の常識を打破した一品です(笑)」。
手軽に『竹崎カニ』の味を堪能できるとあって、新設した食事処『虹の蔵』はいつも多くの人でにぎわっている。
川島さんの作り上げた『かにまぶし』をはじめ、太良町の温泉宿では、『竹崎カニ』を使った新しい料理も登場しつつある。
「どこも独自性があっておもしろいですね。そういう取組みを行なうことで、町がにぎわうのはとてもいいことだと思います。うちも、同じゆでガニでも、生簀に入れないでその日獲れたカニをその日にゆでる『はまゆでガニ』という料理もやっているんですよ。料理以外でも、誰もやっていなくて、どこにもないものを作っていきたいですね。屋上にたった一つの湯船の露天風呂『十方空』もそうですし、今は、おもしろい駐車場を作る構想もあるんですよ。ご期待ください(笑)」。
太良町はもっともっと元気な街になっていきそうだ。
さわることで身の詰まったカニを選び、生簀に入れる。料理する直前に、せんまい通しを第2関節の下に入れ、中央の急所を刺して絞める
ゆで汁は、多良山系の地下水に自然塩を加え、目の前の有明海(写真)の海水に近いものにしている。大きな鍋に入ったたっぷりの湯でゆでる
ほぐしたカニの身をごはんにのせ3種類の薬味で味わう『かにまぶし』。カニの身をむしるという面倒がなく、気軽に食べられる
多良山系の地下水と自然塩を使って丁寧にゆでる、ゆでガニをはじめ、ご主人・川島真悟さんはカニ料理を追求する一方、オリジナルの『かにまぶし』も考案。ほぐしたカニの身をごはんの上にのせた料理で、とても食べやすい一品だ。有明海を180度見渡せる露天風呂もカニ料理と並んで人気で、宿泊すれば湯につかりながら星も楽しめる。
住所 | 藤津郡太良町大浦丙1099-5 |
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電話 | 0954-68-3545 |
営業 | 11:30〜15:00(食事・休憩) |
定休日 | 不定休 |
席 | 食事処『虹の蔵』は65席、客室7室 |
カード | 可 |
駐車場 | あり |
URL | http://www.nikani.com |