真水に入れて泥をはかせたり、湯通しして表面の薄い皮をはいだりと、手間のかかる下ごしらえが行なわれている
甲羅や肉を、水や出汁などでしっかりと炊くことで旨味満点のスープもできる。アクが出るので丹念に取り除くことが必要だ
肉やエンペラは、鍋のスープに直接味をつけてスープと一緒に食べたり、ポン酢を使ったりする。肉類の後は野菜類を食べ、〆は雑炊だ
「『身体にいいもの』を念頭に置いて、お料理を提供しています! すっぽんは栄養も豊富だし、コラーゲンたっぷりで美容にもいいですからね。すっぽんのスープは最高ですよ」。
和食をベースに季節の素材を使った料理を食べられる『食楽 よしたけ』。店主・吉武健二郎さんは関西で修行中にすっぽん料理と出会ったとのこと。
「関西では『すっぽん鍋』のことを『まる鍋』と言いますね。地元の大分に戻って大分の特産物を使った料理を作りたいと思いすっぽんを使おうと思ったんです。大分市内ではあまり食べられるところもないし、すっぽんを身近に食べてもらいたい、多くの方にご紹介したいと思い、お出しするようになったんです」。
『すっぽん鍋コース』は2日前までの予約が必要だ。
「湯布院から生きたすっぽんを仕入れています。おがくずが敷かれた木箱の中に入れられて送られてくるんですよ。朝送られたものが夕方に届きますが、それをすぐに料理するわけではないんです。丸一日真水につけて泥を吐かせないといけません。ですから2日前のご予約をいただいています」。
泥を吐かせたすっぽんはまだ生きている。生きたままさばくが、外敵に対してかみつくすっぽんの取り扱いには危険がともなう。
「すっぽんは一度かみつくと雷が鳴るまで離さないとも言われていますからね。ですから、まず首を切り落とします。甲羅を下にするように裏返しにすると、元の態勢に戻ろうとしてブリッヂするように首を伸ばします。その時に首をつかんで切り落とします。胴体のほうから血が出ますが、これも料理の一つとなりますので、ボウルに取って、オレンジジュースと合わせておきます」。
すっぽんがおとなしくなったところで甲羅を外し、身や内臓を取り出す。
「甲羅の端のほうから包丁を入れて、中央部をくりぬくように外します。甲羅の縁のほうはやわらかくて一番ゼラチン質の多いところですね。中央の固い部分は食べられませんが、スープを取るのに使います。足の筋肉の部分、肝臓は刺身にします。メスのすっぽんは小さな黄色い卵をもっていて、これも生で食べられます。オスの場合は白子になりますね。すっぽんで直接食べないのは甲羅、ツメ、胆のうくらいですね」。
刺身にする部分はそのまま切ればできあがりだが、それ以外の部分は湯通しする。
「沸騰したお湯ではなく、90度くらいのお湯に通した後、すっぽんの外側にある薄い皮をはぐんです。日焼けした後の皮をはぐみたいな感じですね(笑)。この後、身は関節のところに包丁を入れてぶつ切りにします」。
下準備が終わると煮込みが始まるが、通常の寄せ鍋のようにすぐにできあがるわけではない。
「鍋に昆布を敷き、そこにすっぽんの甲羅、頭、身を入れて、昆布出汁と日本酒を入れ、アクを取りながら炊いていきます。
日本酒の量はたっぷり、これは独特の臭みを消すためでもあります。いいスープができるまでには大体1時間くらいかかりますね。長い時間炊いても身は固くはならず、やわらかくなります」。
鍋から甲羅と頭を取り出した後、薄口醤油で味付けしてスープのできあがりだ。
スープができあがったら、『すっぽん鍋』を食べられるのだが、こちらのコースでは、まずは活血と刺身ですっぽんを楽しむ。オレンジジュースとミックスされた活血は、多少独特な風味はあるが飲みやすい。足の肉の刺身は鶏肉の刺身のよう。肝臓はツルッとした食感とコリッとした歯応え。黄色い卵はイクラのようなプチっとした食感の後に旨味が広がる。
「活血にはお酒は入ってませんが、飲むとかーっと熱くなるとよく言われますよ」。
いよいよ『すっぽん鍋』をいただく。最後に吉武さんが、鍋にショウガの絞り汁を入れてくださった。『すっぽん鍋』には白ネギと水菜などの野菜も付く。
「やはり独特な香りがありますから、ショウガは匂い消しですね。スープは独特の濃厚な風味です。すっぽんが大きいと、より濃厚なスープがとれますね。ポン酢などのつけダレはおつけしていませんので、肉をスープと一緒に召し上がってください。とにかくスープが美味しいんです。肉よりもスープのほうが美味しいかもしれません(笑)。最初に身を食べていただいて、白ネギ、水菜、豆腐、シイタケなどを入れて、スープで野菜を召し上がってください。うちの『すっぽん鍋』は寄せ鍋のように様々な具材を使わないシンプルなものですね。シンプルなのでスープの旨味が楽しんでいただけると思います。大阪や京都もネギ、豆腐、水菜だけとシンプルなものが多いです。うちでは大分特産のシイタケを追加してますね」。
身は骨離れもよい鶏肉のよう。皮についているプルプルのゼラチン質の厚みはすっぽんならではだ。すっぽんの旨味が凝縮したスープは味わい深く滋味深い。
吉武さんとのお話の中に何度も出てくる“スープ”。それは吉武さんが料理をされる上でとても大切にされていることでもある。
「料理は出汁、スープが基本だと思います。いい出汁やスープができれば、あとはいい素材を加えることで美味しい料理を作ることができますね」。
『すっぽん鍋』のスープも吉武さん入魂のスープ。少しも残さずにいただきたい。
「最後は雑炊でスープをすべてめしあがって下さい! この雑炊は肉よりも美味しいかもしれません(笑)」。
すっぽんは湯布院から直送される。真水に入れて泥をはかせ、すっぽんをさばいてから湯通しして表面の薄い皮をはぐ
鍋に昆布を敷き、すっぽんの甲羅、頭、身を置き、昆布出汁と日本酒を合わせたものを入れて、アクを取りながら1時間ほど炊く
すっぽんのスープに薄口醤油のみで味付け。そのスープと一緒に肉類を食べた後、野菜類を入れてスープと一緒に食べる。〆は雑炊
『おまかせ料理』3,800円〜など和食をベースに旬の素材を生かした料理を食べられる店。『すっぽん鍋』は、昆布出汁と酒で甲羅や肉を1時間ほど煮込むことで濃厚なスープを作り上げる。スープの味付けは薄口醤油、ショウガだけでつけタレはつかない。添えられる野菜は白ネギと水菜が中心。関西風のシンプルだが濃厚な『すっぽん鍋』だ。〆は雑炊でスープもすべていただく。