九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

具材

欠かせないのはかつお菜、よく使われるのはブリ。その他、ニンジン、サトイモ、シイタケ、カマボコなども入る。餅は丸餅だ

ツユ

焼きあご(焼いたトビウオ)からとった出汁をベースに塩や薄口醤油で味付けする。昆布、カツオ、椎茸の出汁が入ることもある

作り方

それぞれに下ゆでや下味をつけて下ごしらえしておいた具材、別鍋でゆでた丸餅をお椀に入れて、温かいツユを注いでできあがり

語り 博多 ふじ本 藤本広之の「博多雑煮」

藤本広之さん

「味が濃いと初めの一口は美味しく感じるかもしれんけど、だんだん飽きてくるけんね(笑)。ツユを最後まで味わってもらうには少し薄味がいいやろね。『博多雑煮』は上品な料理やけんね。『雑煮の汁だけくれ』という人もおったけど、具材からも味が出るけん、それは難しいね(笑)」。

昭和29年創業。昭和48年、現在の場所に移転した。「このあたりは昔は何もなかったとやけどね(笑)」。現在は二代目店主・藤本広之さんが暖簾を守る。値段が書かれていないメニューには、お造りに『ごま鯖』、煮物には『博多がめ煮』、焼物には『あぶってかも(5月中旬〜7月上旬)』、付出しには『おきゅうと』、一品料理には『博多雑煮』と、博多ならではの旬の素材を使った和食を食べられる老舗割烹として県内外問わず親しまれている。その中でも、一年中食べられる『博多雑煮』は開店以来の大切な一品だ。

「うちの雑煮は藤本家の雑煮やね(笑)」。

素材の選び方もつくり方も丁寧な『博多雑煮』。まず、出汁とツユについて。

いい出汁が出る大きいサイズの焼きあご

「出汁は焼きあごと昆布を前の日から水につけてそのまま一晩ねかせ、次の日に火を入れ、出汁が出たら漉すんよね。焼あごは大きいほうが味がよく出るので、大きいのを取り寄せよるよ。漉したあとのあごは、うちのばあちゃんやらは、ほぐして炊いてつくだ煮みたいにもしよったね」。

焼きあごと昆布を水に入れて一晩ねかせる。火を入れて出汁が出たら漉す

具材に欠かせないかつお菜には、特に気をつかっていらっしゃるようだ。

「20年ぐらい前に全国誌でうちの雑煮が紹介されたとですよ。それを見て全国から来てくださる方もいました。それまではかつお菜がない時はミツバを入れたりもしよったけど、それでは博多の雑煮として恥ずかしいので、いろいろやりました。かつお菜はゆでてすぐに水気をしぼって急速冷凍し、1年分をまとめて準備しとります。色も鮮やかなまま保存できますね」。

しかも、取り寄せるかつお菜は収穫の時期などにもこだわった特別なものだ。

「母の知合いが糸島にいて、その方にお願いしてつくってもらってます。無農薬なので、届いた時はバッタもついとったりするよ(笑)。かつお菜は普通は2月に終わりますが、間引きしてそれ以降に収穫したものをとります。私が思うに、大きくなりきれないもののほうが葉も茎もやわらかいようですね。正月の時期のものはちょっと大きくなりすぎとるかもしれんね(笑)。だから、かつお菜は一番美味しい状態のものを使っとると思います」。

その他の具材(ブリ、鶏肉、シイタケ、カマボコ、サトイモ)もそれぞれ下ごしらえする。

「ブリは塩をして軽くゆでておき、サトイモは下ゆで、鶏肉は醤油でさっと炊いておくんよね」。

かつお菜以外の下ごしらえしておいた具材に出汁を注ぎ、味付けする

さきほどの漉した出汁に干しシイタケの戻し汁を少し加え、みりん、濃口醤油、薄口醤油でツユをつくる。そこにかつお菜以外の具材を入れてしばらく煮込む。その間に餅の準備だ。

煮込むことで具材から旨味が出る

「餅は香ばしさを出すために表面をカリッと焼いて、その後、軽く湯に通します。その時に焦げは落としておきます」。

表面を軽くあぶった丸餅

ツユの中にかつお菜を入れて少し温めた後、お椀に餅とすべての具材を入れる。最後にツユの味を整えてからツユを椀に注いでできあがりだ。

お椀に具材を盛りつける

「味が濃いと初めの一口は美味しく感じるかもしれんけど、だんだん飽きてくるけんね(笑)。ツユを最後まで味わってもらうには少し薄味がいいやろね。『博多雑煮』は上品な料理やけんね」。

ツユの味を再度整える

「『雑煮の汁だけくれ』という人もおったけど、具材からも味が出るけん、それは難しいね(笑)。僕は山笠男(やまおとこ/博多で7月に行なわれる祭り『博多祗園山笠』に参加する男性のことで、祭りへの愛情がとても深い)なんやけど、若い頃、『山にのぼせとるけん、味の(が)濃ゆくなっとるぞ』とかよう言われてました。昔は腹かきよったね(九州弁で、怒っていたという意味)(笑)。それから、昔、商家や大きな家でたくさんつくらないといけない時は、一人前の具材をまとめて串にさして準備しとったりもしたね」。

ツユを注いでできあがり

正月の『博多雑煮』は栗の枝を使った『栗はい箸』で食べられる風習もあるが、藤本家では柳の箸だったとのこと。

「餅がくっつきにくくて食べやすいんよね。持つ部分は柳の木の皮がそのまま残っとってね。箸袋に食べる人の名前がちゃんとそれぞれに書いてあったよ。そういう風習もなくなってきよるから、大事にせんといかんよね。博多の正月に欠かせないのは雑煮とがめ煮やもんね。ただね、今では正月にしか食べないけど、本来はお祝いごとの時の食べもの。だから、夏場でも食べたりするし、山笠の大黒流(だいこくながれ/『博多祇園山笠』に参加する7つの“流”~旧町割による団体~のうちの一つ)のみんなは、『俺たちは毎年、山笠が始まる7月1日に雑煮ば食べる』と言うとります(笑)」。

博多の味や旬の魚介を使った料理を食べられるが、壁には聞き慣れない料理名『ハトシ』という文字があった。

「おやじの代からやりよる旬の素材を使ったシンプルイズベストな料理は残しつつ、私なりのも出しよるんよね。一口カツとかエビフライとか…。昔、卓袱料理に興味があって、長崎で修行したんよ。『ハトシ』はね、卓袱料理の一つで、車エビと魚のすり身をねり、薄い食パンにはさんで蒸した後で揚げたもの。ぜいたくで美味しいと思うよ(笑)」。

料理も会話も楽しめる、大人の割烹だ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

具材

かつお菜は、糸島産無農薬で美味しい時期のものを急速冷凍している。その他、ブリ、鶏肉、シイタケ、カマボコ、サトイモが入る

ツユ

焼きあごと昆布を水につけておいて一晩ねかせた出汁と干しシイタケの戻し汁がベース。みりん、濃口醤油、薄口醤油で味付けする

作り方

まずツユと具材を煮込む。餅は表面に焦げ目をつける。お椀に餅と具材を盛付け、ツユの味を再度整えてから注ぐ

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博多 ふじ本 昭和29年創業の老舗割烹で旬を食べる

旬の魚介や野菜を使った和食を食べられる老舗。メニューにはごま鯖、がめ煮、あぶってかも(5月中旬〜7月上旬)、おきゅうとといった博多ならではの味も並ぶ。年中食べられる『博多雑煮』は、いい出汁が出るように大きいサイズの焼きあごを使い、かつお菜は一番美味しい時に1年間分を急速冷凍したもの。餅は香ばしさが出るように炙っている。

『博多雑煮』1000円。会席コース料理(2階座敷にて3名より、1人7000円〜)に入れてもらうことをお願いすることもできる
博多の名物料理の一つ『ごま鯖』1500円
エビと魚のすり身を食パンではさみ、蒸して揚げる長崎卓袱料理『海老ハトシ』1500円
一枚板のカウンターが存在感を放つ店内。2階座敷席もある

博多 ふじ本

住所 福岡県福岡市博多区下川端町10-11
電話 092-271-1968
営業 17:00〜OS21:30
定休日 日曜
40席
カード
駐車場 なし
URL https://www.facebook.com/hakatafujimoto
※記載した内容は2014年12月24日現在のものです。
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