カツオの腹皮は、生でも冷凍でも売られているが、塩焼きをする前に洗ったり、小骨を抜いたり丁寧な下ごしらえが行なわれる
店では、天火で身のほうから焼き、その後ひっくり返して皮面を焼く。焼き過ぎると身が固くなるので注意が必要だ
カツオの腹皮は塩焼きが一番ポピュラーな食べ方だが、その他にも天ぷら、煮物、唐揚げなど様々な料理が作られている
『カツオの腹皮』は枕崎の方々の生活に密着した食材。枕崎観光ボランティアガイド花渡川(けどがわ)クラブの渡辺静子さんのお宅におじゃまし、『カツオの腹皮』はご家庭でどのように食べられているのかを伺った。
「どうぞどうぞ」と招き入れてくださった渡辺拓郎さん・静子さん夫妻。
「準備してましたが、今日の腹皮は良いですよ〜」。
「良い腹皮とは、どんな腹皮なのでしょうか?」
「腹皮はカツオの腹のとこの身だけど、良い腹皮はね、洗った時にもきれいだし、切ると色がピンクなんですよ。今日買ってきた腹皮はきれいなんです。そういう腹皮は脂ののりもいいしね」。
「買われる時に何かを比べながら選ばれているのでしょうか?」
「それがね、冷凍されているものを買うから、買う時はわからないんですよ」。
スーパーなどで売られている『カツオの腹皮』は冷凍ものが多い。港には生のものも揚がるが、絶対量として冷凍物のほうが圧倒的に多いからだ。ただし、冷凍ものとはいえ、船上で急速冷凍されるため、鮮度や味が悪くなっているわけではない。味わいの差は、やはり個体による差の方が大きいのだ。
下準備は、冷凍されている腹皮を自然解凍して、よく水洗いする。
「血とか汚れを水できれいに洗うんですよ。それから、食べやすいように小骨も取りますね」。
きれいにした腹皮に塩を振り、焼いて食べる塩焼きが、腹皮の最も一般的な食べ方だ。
「塩をした腹皮は、家ではガステーブルに付いている魚焼き器で焼く方が多いでしょうね。ただ、焼くと魚臭くなるので、みなさんそれほど頻繁には焼かないみたいですね。スーパーでは焼いたものも売っていますしね。主人が腹皮の塩焼きが好きなんで、私はよく焼いています。
焼いたものを冷凍しておけば、レンジでチンするだけで簡単に食べられますよ。焼いた時の匂いがすごいので、昔は七輪を使って外で焼いていましたね(笑)」。
外で焼けば、においで腹皮を焼いているのがまわりの家に分かってしまっていたのではないか聞いてみた。
「それが、うちだけじゃなくてまわりの家もみんな焼いているから目立たなかったんですよ(笑)。腹皮はよくもらってもいたし、買うにしてもすごく安かったし、毎日食べていましたね」。
焼き上がった『カツオの腹皮』をすすめていただいた。
「ひえーくさがでしょ?(笑)」
“ひえーくさが”とは枕崎の言葉で“魚臭い”という意味だ。確かに独特の香りはするが、それがカツオの香り。しっかりとした塩味の中にカツオの脂の旨味が感じられ、焼酎やごはんがすすむ味だ。
「腹皮はカツオの中で一番美味しいところだと思いますよ。マグロで言えばトロですからね。腹皮はハラゴとも言います。小さい時は本当によく食べていましたよ。ごはんのおかず、弁当のおかず…腹皮ばっかりでしたね」。
拓郎さんからもこんな言葉をいただいた。
「腹皮は旨いし、焼酎飲み過ぎて困るよ(笑)。食生活は、健康のためには昔に戻すのがいいという話を聞いたので、今、昔と同じように腹皮とサツマイモを食べたりもしていますよ」。
腹皮は塩焼き以外には、煮たり、唐揚げなどにも、よく料理されるのだそうだ。
唐揚げは、下味をつけた腹皮に片栗粉を付けて揚げる。カラリと揚がったものはカツオ臭さは全くない。
揚げてすぐに甘辛いタレにさっと通したものも旨い。
さらに渡辺さんは腹皮のムニエルも作ってくださった。
「腹皮に塩コショウをして片栗粉をまぶしておきます。フライパンでニンニクがきつね色になるまで火を加えて、一度取り出します。
そこに腹皮を入れて、ふたをしめて蒸し焼きのようにするんです。途中でひっくり返して両面に軽く焦げ目をつけたらできあがりです。皿に盛って、さっきのニンニクを上から散らします」。
フライパンの中には、腹皮からたっぷりと脂が出ている。
「この脂はすごく良い脂だから、野菜炒めなどに使っても美味しいんですよ」。
ムニエルは表面がサクっと焼かれており塩加減もいい。臭みもない。
「唐揚げや、ムニエルにしたりするのは、結局、腹皮の独特の臭みを消すためなんですよ」。
最後に、お二人に枕崎自慢をしていただいた。
「枕崎の良いところ…やっぱりカツオですね。おいしいカツオ節がありますし、刺身もタタキも美味しいです。身でない頭や腹皮も食べますし、内臓は塩辛になるし、中骨は出汁を取るのに使ったりもします。捨てるところがなくて全部使っていますからね。あと、枕崎の人は世話好きが多いかな(笑)」。
取材班も、お二人に大変お世話になったのであった。
渡辺さんは主に冷凍された腹皮を使う。自然解凍して、よく水洗いした後、食べやすいように小骨を取り、塩をふる
ガステーブルについている魚焼き器で焼く。一般の家庭でも、今ではガステーブルを利用。昔は外で、七輪で焼いていたとのこと
表面をカリッと焼いたムニエルは、渡辺さんオリジナル。オリーブオイルとガーリックの風味が、腹皮独特の匂いを消している