大根、牛スジ、玉子、コンニャクなどに加えて、『おやし』、『ナンコツ』、『キャベツ』といった都城ならではのおでんダネがある
カツオ出汁、コンブ出汁をベースにしたものや、鶏ガラスープを加えたものなど様々。継ぎ足し続けたツユが使われている店が多い
すべてのおでんダネを同じように煮込むわけではなく、下ごしらえをしたり、煮込む時間を変えたりと細やかに料理されている
「おでんは一年中作ってますけど、やっぱり冬のほうがみなさん食べられますね〜。焼酎の飲み方も、ロックからお湯割りに変わっていく頃から、おでんの人気も高まってきますね(笑)」。
昭和41年創業の『おでん りつ』。おだやかな笑顔で迎えてくださったのは下原口和子さん。カウンターに組み込まれた四角い大きなおでん鍋のすぐ前が定位置なのだそう。
「こうして立っていると、いろんな話もできて楽しいですね。鍋の前は人気の席ですよ。冬はあたたかいしね」。
そう言いながら、時折鍋の中のおでんダネをくるくるとひっくり返す。湯気と香りがたちのぼり、どのおでんダネも美味しそうだ。
「いつも13種類くらいのおでんダネがありますね〜。今日はね、大根、サトイモ、ジャガイモ、豆もやし、豚ナンコツ、キャベツ、チンゲンサイ、牛すじ、豆腐、イトコンニャク、玉子…季節によっても変わっていきますね。何度かハンペンをやったこともあるんだけど、あんまり人気がなかったです(笑)。初めから大鍋に入れるのは豆腐、厚揚げと葉物の野菜だけ。他のタネは、すべて下準備をしてから大鍋に入れてます。大根やナンコツは、じっくりと炊き込んでおいてからこの鍋に入れます。豆もやしは、ひげのところは取って一度ゆがいています。キャベツやチンゲンサイなどの野菜は炊きすぎると美味しくなくなっちゃいますから、ちゃんと見とかないとね(笑)」。
豆もやし、ナンコツ、キャベツ、チンゲンサイなどは他ではあまりみないおでんダネだ。
「県外の方がいらっしゃって、『都城はおでん屋さんが多いですね、美味しいですね』とか『変わったおでんダネがありますね』とか言われるんですが、そうなんでしょうか?私にはあまりわからないんですよ。ずっと同じことをやっているだけですから(笑)」。
そうお話してくださりながら、またおでんダネを箸でくるくる。タネが浮かぶツユは比較的濃い色だ。
「色は濃いけど、おでんの味はあっさりなんですよ。ツユは、カツオとコンブの出汁にお酒、濃口醤油、薄口醤油を入れた醤油ベースです。あっ、お砂糖もちょっとだけ入れてますね」。
鍋の中のツユの味が濃くなってきたら、カツオとコンブの出汁が加えられる。そしてまた、醤油や酒などで味を整えていく。そうやって開店以来継ぎ足されてきたツユの味だ。
「おでんは手がかかりますね(笑)」。
おでんの盛り合せをお願いした。豆もやし、春菊、キャベツなどが鍋の中に入れられ、それらの野菜にほどよく熱が加わる間に、大根やナンコツなどが皿に盛られる。しっかりとツユの色が染み込んだおでんダネの上に、先ほどの野菜がのせられ華やかに。仕上げはネギと柚子の皮をすりおろしたものだ。爽やかな柚子の香りが鼻をくすぐる。
「柚子の香りが入ると、また変わりますよね」。
大根など、しっかりとした色はついているが、下原口さんが言われるように、あっさりとした味わい。ほのかに甘くてやさしい味だ。ナンコツは箸でほぐれるほどやわらか、豆もやしやキャベツは食感がいい。「中は食べてからのお楽しみよ(笑)」という大きなきんちゃくの中は、鶏ミンチ、キクラゲ、モヤシ、ニンジンと盛りだくさんだ。
お話をしている最中に、下原口さんのお知り合いで、家庭菜園をされている方が野菜を届けにいらっしゃった。
「いつも無農薬の春菊やチンゲンサイを届けてくださるんですよ」。
こんな風に地域の方とつながっていることも、変わらないツユの味や手間をかける下準備と合わせて、『おでん りつ』のやさしいおでんの味わいの秘密かもしれない。
大根、サトイモ、ジャガイモ、豆もやし、豚ナンコツ、キャベツ、チンゲンサイ、牛すじ、豆腐、糸コンニャク、玉子…13種類ほど
カツオとコンブの出汁にお酒と濃口醤油と薄口醤油を入れた醤油ベース。砂糖も少し入る。開店以来継ぎ足しながら作られたものだ
豆腐、厚揚げ、葉物の野菜以外は、すべて下準備をしてから大鍋に入れられる。キャベツ(写真)やチンゲンサイなどは煮えすぎないようにする
おでんの入った四角い大鍋の中にあるおでんダネを箸でくるくると回しているのは下原口和子さん。カツオとコンブの出汁をベースに醤油などで味付けるツユは、ほのかに甘くて優しい味わいだ。しっかりと味を染み込ませた大根やナンコツも旨いし、豆もやし、キャベツなど、ツユに短い時間入れる野菜類も旨い。仕上げにすりおろしたユズの皮をふりかける。